木枯らしが吹く季節。普段はなかなか取ることができない自分の時間をやりくりして、旅に出ることにした。目的はお伊勢参り。
旅記事といっても、地元のクリエイターを訪ねたり、ときどき仕事もしたり、自分なりのお気に入りスポットを探す、観光ガイドブックには載っていない気ままな旅。
車や電車で直行すれば便利なのだけれど、歩くからこそ見つけられる景色がある。お伊勢参りで賑わった江戸時代の参拝者は歩いて伊勢を目指した。きっとその道中も愉しんでいたと思う。今回はそんな時間の現代版を体験してみたくなり、伊勢神宮のある伊勢市のとなり、松阪市で途中下車をして滞在することにした。
光の陰影が美しい豪商の旧家と、可愛い屋号たち。
松阪大橋から南へ向かってみる。眺めると何やらレトロなフォントと色合いの元電気店と歴史を感じる町並み。ここからまっすぐの一本道で続く伊勢街道を今回は巡る。
威風堂々とした旧小津清左衛門家へ。
館内でスタッフさんに話を聞いた。「ここは1653年から江戸、現在の東京は大伝馬町で小津屋紙店を営んでいる小津家の本宅です。現在の敷地は全盛期の5分の3ですが、順次整備されて松阪商人ゆかりの貴重な文化財としてここにあります」。
旧家の陰影が美しく、しばし見惚れる。
天井からの採光も。なかなか古い建物で見たことがない。凝った造りは手間をかけられる豊さを物語っているかのよう。
蔵には美術品や当時使われていた日用品が展示。
様々な伊勢商人の屋号が入った湯飲みも、可愛らしく感じた。
旧小津清左衛門家を出てレトロ感が残る町並みを眺めながら伊勢街道を進む。
パソコンでは変換されない昭和な感じのフォント。
パソコンのフォントばかりを目にしている私には、斬新に思える。
蔵・ガラス戸・サンシェード。昔ながらの町並みも、少しずつアップデートされていることがわかる。
ポップな松阪、レトロな松阪。
松阪の観光情報を手に入れるために、伊勢街道から少し離れて豪商のまち松阪観光交流センターへ寄り道。館内に入ると土産物が並んでいる1階と、松阪の歴史が学べる2階。愛嬌のあるイラストを見ながら階段を上がっていく。
展示はポップなイラストと色使いで親しみやすい。
シアターでは松阪出身の偉人、本居宣長や三井高利の生涯がまとめられていて分かりやすかった。松阪の歴史、江戸時代の伊勢街道の様子を学び1階へ。
お土産選びに思わず目移り。旅先で地元産のものに触れるたのしいひと時。
伊勢街道に戻り南へ歩く。道中、伊勢街道の歴史を思わせる史跡の墓標や道標が見つけられる。
道標となつかしいゾウたち。そして目立つ配色の「くすり」の看板と自転車。
冬の晴れた空にHONDAの少し色褪せた赤。
道中には子どもの時の写真を見ているようでなんだか懐かしく、哀愁を感じるものがたくさんある。
さすがは松阪肉の松阪。肉の宅配便を発見。
うつむきかけた目のメガネ看板がチャーミング。観光スポットではない、日常の暮らしが醸し出す魅力を見つける旅もいい感じだ。
地元デザイナーが営むデザイン事務所 兼 レンタルスペース
オシャレなロゴが印象的な「ANTE」。
運営するのはフリーランスグラフィックデザイナーの阪井純子さん。生まれも育ちも松阪という生粋の松阪人。地元を中心に今は都市部のお仕事もされている。
阪井さんの実績。
高校卒業後、何の目的もなく地元のケーキ屋に就職。そんな18歳のとき、雑誌に掲載されていたグラフィックデザイナーの記事を読み「こんなおもしろそうな仕事があるん?!」と感化されケーキ屋を退職。デザインの学校で知識をつけ、印刷会社や写真スタジオで下積みを経て独立。
独立から数年が経ち、デザイン事務所 兼 レンタルスペースとしてここをオープン。ワークショップなどにも使われていて、予約をすればコワーキングスペースのようにも使える。この空間で、そして地元クリエイターとしてのお仕事はどんな感じなのだろう。
阪井さん:ここは道路に面しているガラス張りの空間なので、町の生活感を感じたり風景が変化するので飽きないです。近所の人も時々入ってきたりして、予想外の繋がりや会話ができて楽しいですよ。伊勢神宮に向かう、いろんな地域の方ともお話してみたい!
地元クリエイターとのたのしい会話。なかなかあるようでない心地よい空間でのお仕事は、気分転換もできていいなと思った。
レトロな町に潜むデザイナーがいるカフェ。
お昼も過ぎてお腹も空いてきたところで向かったのはアオゾラ食堂。
ここではメインの料理を1つ、副菜を3品選び自分好みの定食がいただける。彩り良い野菜に体も喜ぶ感じ。食べ終えて、2階にはクリエイターが運営するカフェがあるのでうかがった。
プロモーションザベースメントというカフェ。実際に店内でクリエイターさんがお仕事をしていて驚く。パソコンに向かっていたのは中瀬皓太さん。キサブローという屋号でデザイナーをされている。
なぜこのような形態のカフェをすることになったのだろう。
中瀬さん:東京でこのようなカフェを見つけ、自分も実際にやってみたいと思って。作ってしまいました。
中瀬さんも阪井さんと同じく、松阪生まれの松阪育ち。都会へのあこがれはなかったのだろうか。
中瀬さん:あります。今でもあります。東京で活躍しているクリエイターの友人もいるんですが、話を聞くと「ええなー」って思います。
意外な答えについ笑ってしまった。正直にハキハキと話す中瀬さんに聞いてみた。生まれ育った松阪って、どんな町ですか?
中瀬さん:松阪はお伊勢さんと関わりの深い町。まずは経由地としてきてもらいたいです。このカフェも時間調整したり、打ち合わせの場所として使ったり、上手く活用してほしいです。町全体も神宮を生かして観光地として盛り上がればいいなと思います。そのために地元民である僕たちも、もっと松阪を知らなければと思い、本居宣長に関するプロジェクトに関わるなど地元のことを学び直しています。
中瀬さんが関わっているのは、宣長が想像で描いた都市の地図「端原氏城下絵図」があり、その地図上の区画を仮想現実として販売するクラウドファンディングのプロジェクト。このアイデアを考えたのが中瀬さん。これからの松阪の変化も楽しみ。
自分なりの視点で巡れば見えてくる魅力は、愛着にかわる。
つい長居してしまい、外に出たら太陽がもう隠れてしまっている。宿でも仕事をするため、夕飯はテイクアウトに決めていた。
イタリアの国旗がはためくパスタソースキッチン。手作りパスタソースを中心とした、お持ち帰り専用のお店。古民家をリノベーションした店内からは躍動感のある調理場が見える。
事前に予約しておいたマリネなどのアラカルトや豚バラ肉のポルケッタ。松阪肉のローストビーフなど地元の食材を使った料理。宿にもどって思い出とともにゆっくりといただいたが絶品で驚いた。
今回訪れた松阪は、ほんのり温かくて端々にじわっと愛が滲む町だった。次に伊勢に参るときもここを経由したくなった。「よう!久しぶり」と言える町があるのは、人生を豊かにしてくれる。そんなことを歴史ある松阪で思った。
江戸時代、お伊勢参りで前が見えない程の人で賑わった松阪。参拝者は多くの情報をもたらし、その情報をもとに松阪は栄えていったと聞いたことがある。暮らしを旅するという概念やワーケーションなど、旅のスタイルが多様化する現代。今回の旅を「現代版お伊勢参り」と呼ぶのはおおげさかもしれないが、自分なりの視点で巡れば見えてくる魅力を、私は松阪で見つけた。そして旅の後、メディアなどで松阪と聞くと、愛着を感じている自分がいた。
【取材協力】
旧小津清左衛門家
松阪市本町2195番地
tel 0598-21-4331
hp https://matsusaka-rekibun.com/ozu/
豪商のまち松阪 観光交流センター
松阪市魚町1658-3
tel 0598-25-6565
ANTE
松阪市日野町569-1
tel 0598-68-9188
hp https://ante-g.com/
in https://www.instagram.com/junko_sacai/
※訪問の際は事前の予約が必要です。
アオゾラ食堂
松阪市平生町10-2
tel 0598-26-7266
in https://instagram.com/aozorashokud?igshid=513zo8d0dzl6
PROMOTION THE BASEMENT
松阪市平生町10-2 2階
tel 0598-67-7716
in https://www.instagram.com/promotion_the_basement/
PASTA SAUCE KITCHEN
松阪市愛宕町1丁目19
tel 0598-30-5510
hp https://pastasaucekitchen.com/
【タイアップ】
松阪市 観光交流課
松阪市殿町1340番地1
tel 0598-53-4196
松阪市hp https://www.city.matsusaka.mie.jp
松阪市観光hp https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/kanko/
松阪市観光インフォメーションサイト https://matsusaka-info.jp/
hiromi。OTONAMIE公式記者。三重の結構な田舎生まれ、三重で一番都会辺りで勤務中。デンマークに滞在していた事があるため北欧情報を与えてやるとややテンションが上がり気味になる美術の先生/フリーのデザイナー。得意ジャンルは田舎・グルメ・国際交流・アート・クラフト・デザイン・教育。