ホーム 02【遊びに行く】 「もうすぐきっと釣りにいく」 連載エッセイ【ハロー三重県】第20回

「もうすぐきっと釣りにいく」 連載エッセイ【ハロー三重県】第20回

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男子には狩猟の本能が備わっているんだろうか。
長男は小さいころから、魚がらみのおもちゃを欲しがり、少し大きくなると魚と釣り針がセットになったものを欲しがるようになった。
百円ショップでその類のおもちゃをたびたび欲しがるので、我が家にはしょっちゅうちんけな釣り竿がやってくる。
そのちんけな釣り竿で、釣りごっこをたびたび楽しんでいたかと思えば、なにかしらの棒切れの先に毛糸をたらして、即席の釣り竿をこしらえたりもしていた。
ゆっくりとほんとうにゆっくりとだけれど、長男の中で静かに釣りへの憧れは膨らんでいった。

*

現在、6歳になった長男。今日まで釣りらしいことといったら、お家でやる釣りごっこか、大杉谷での野外活動でたった一度だけ小魚を釣り上げたこと、しかないのだった。
6歳のお誕生日を迎えたあたりから、燻った釣り熱が騒ぎ出した。

「釣りしたいなぁ」

ついに、言った、と思った。
私は彼よりもずっと先から、彼の中に釣りへの憧れが膨らんでいるらしいことに気がついていたから、これを聞いたときは、ついに、という気持ちだった。
ついに、気づいてしまったのね、釣りがしたい、という想いに。

とは言っても、一体全体どうやって釣りに取っかかればいいのか皆目見当がつかない。
私は釣りに興味がないし、釣りっていったいどこでするのやら見当がつかない。
橋の上なのか、港なのか、川なのか、それとも船に乗って海へ行くのか。
その辺の用水路で小魚を掬っていたらいいではないか、と思うんだけれど、それではいけないらしい。
やはり、つり糸を垂らして、魚を引き上げる必要があるらしかった。

*

ある日、お仕事で知り合った男性が「釣りが好きで、よく釣りに行く」とおっしゃった。
「息子がここのところずっと釣りがしたいって言ってるんですよ」
と相槌代わりに答えたら、ぜひ連れて行ってあげたらいいですよ、と言われた。
気乗りしない返事をする私に、その方は「三重県にいるのにもったいない……!」と驚いた。
その方は東海四県を暮らしの拠点とされていて、曰く、四県の中でも三重県は釣り人にとってはとてもよい場所なのらしい。
釣りに関して明るくないので、彼の話をどこまで理解できたかは定かでないのだけれど、海でも川でも釣れるしとかなんとかそんなことをお話しされていた(はず)。船に乗るのもいいとか言っていた気もする。

*

そんなお話を聞くと、私の中でも緩やかに釣りという娯楽が立体感を帯びてくるのだけれど、どうしてなかなか腰が重い。
何度も言うようだけれど、私は出不精なのだ。
出不精な上に体力もない。釣りって、なんだかものすごく忍耐とか要りそうだし、釣り竿がそれなりに重たいことも知っている。そんなの6歳がすぐに放りだしかねないし、そうなったらすべての負債を背負うのは私と言うことになるかもしれない。負債って言うのは、もちろん忍耐とか重たいとか、体力が試されるあらゆること。
とはいえ、そんな軟弱な私にだって、母性があるわけで、かわいい息子に釣りらしきことを経験させてあげたくもある。

*

そうして暮らしていた、あれは10月のある日。
夫の実家を訪れたときに少し時間ができたので、賢島のほうへ遊びに行った。賢島駅にはちょうど近鉄特急しまかぜが停車していて、子どもたちときゃあきゃあ言った。
船着き場にはちょうどエスペランサ号が停まっていて、こちらもやはりきゃあきゃあ言った。エスペランサ号はとても絢爛な見た目をしている。
海に沿った道なりにずっと歩いていくと、広い場所に出て、そこで、息子と同じくらいの子どもが海をのぞき込んでいた。傍らに小さな釣り竿。
息子が目を輝かせたのは言うまでもなく、彼らはあっという間に、ほんとうにあっという間にお友達になって、一緒に海に向かって顔を突き出しゆらゆら動く魚を指しては歓声をあげた。
釣り少年は彼の自慢の釣り道具のあれこれを見せてくれ、いろんな疑似餌を竿につけては海に放ってくれた。
それをみては息子は興奮し、すごいすごいと喜んだ。

その小さな背中の眩しかったこと。

彼らは終始和気あいあいとしていて、なにかを狩るというのはやはりそれだけ胸が高鳴ることなんだな、と思うなどした。
私はそんな彼らを眺めながら、その釣り少年のお母さんにいくらか子どもの釣りに関するイロハを教えていただき、心づもりを決めることができた。
釣り道具屋さんに行けば、ちびっ子用に「初めて釣りセット」らしきものが売っているらしく、それを買えば当面はなんとかなるらしい。
釣り場は、この賢島の船着き場に決めた。
義実家からも近く、アクセスが良いし、近くにはおいしいコーヒースタンドもある。観光客がいて少し旅行気分が味わえるところもとってもいい。
それに、ここならまた、釣り少年に会えるかもしれない。

*

以来、息子の釣り熱は過熱する一方で、ここ数日に関しては「釣りに行きたい!明日行きたい!」と言っている。
いよいよその時がきたらしい、近い休日、ちびっ子釣りセットを手に入れて賢島まで足をのばす予定。

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