ホーム 02【遊びに行く】 「キャンプとかテントとかファンタジーとか」 連載エッセイ【ハロー三重県】第18回

「キャンプとかテントとかファンタジーとか」 連載エッセイ【ハロー三重県】第18回

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ここ最近どころか、もうかれこれ数年において、キャンプが気になっている。
屋外でお泊りしたり、炊飯したり、遊んだりする、あのキャンプ。
周囲にもテントを所有しているご家庭が多く、春や秋になれば「キャンプへ行ってきた」というお話をたびたび耳にする。

ただ、極度の面倒くさがりの私は、みんながなぜ寝心地の寝床があって、使い勝手のいい台所がある自宅を飛び出して、わざわざ野外で食事を用意したり、寝床を設置して眠ったりするのか、とんと理解ができないでいた。
外なら虫もいるし、風も吹くだろう。
虫も風も別に嫌いだとは思わないけれど、食事をするときや寝るときにはできればないほうがいい。
風が吹けばものが飛んで困るし、虫がうろうろして食事に混入したら気分が悪い。
それにテント。
あの中で眠るというのが、どうにも想像ができないのだ。
だって、あれってつまりは布だ。
たった一度だけ子どもの頃にテントで眠った経験があるけれど、それ以外のすべての日、この世に生まれた日から今日まで、壁に囲まれて夜を明かしたのだ。
それを急に、布張りの中で就寝すると言われてもにわかには信じがたい感じがある。ただでさえ寝床が変わると眠れない性分なのに、布切れ一枚隔てた屋外で果たしてきちんと眠ることができるんだろうか。

*

実は、9月の4連休に、「キャンプに行きませんか」とお誘いを頂いたのだ。しかも2回も。
これまで、キャンプってつまり何を求めるための娯楽なのか、答えが出ない問いを抱えていたわけだけれど、これはいよいよ向き合うべき時が来たのかもしれない、そう思ったのだった。
だって、我々が暮らしているこの地は海も川も山もある、レジャー天国だ。この世に存在しうるほとんどすべてのアウトドアレジャーは、自家用車に1時間も乗れば確実にアクセスできると思っている。
そして、来年には、いなべ市にノルディクスというアウトドアブランドがプロデュースした、とんでもなくファンタジーなキャンプ場(公式サイトの言葉を借りるとアウトドアフィールド。おしゃれ)ができると話題にもなっている。気にならないはずがない。ファンタジーなんて3歳の頃から大好物だ。

ここはひとつ、柔らかな心を持って、キャンプと対峙するときが来たんだろう。

*

キャンプが好きな知人に、「キャンプとはいったいなにを楽しむものなんだろう」と訊ねてみた。
すると「不便なところ」と返ってきたので、とりあえず驚いた。
だって、不便を便利に変えてきたのが人間の知恵であり、それが文明だというのに。つまり、わざわざそれに抗うのがキャンプだというんだろうか。

「不便さを感じることで、日常にありがたみを感じるんだよ」

と、知人。

「つまり、日常にありがたみを感じて生きている人はキャンプの楽しさが分からないかもしれないということ?」

なにを隠そう私は、毎日、感謝を忘れずに暮らしている。

「そうなんじゃない?」

それでは困る。
日常に感謝を忘れない私も、キャンプの世界に足を踏み入れてみたいのだ。そのためには、その見えない楽しさを具現化して、期待値をあげる必要がある。でなければ面倒くさがりの私の重すぎる腰は上がらない。
そして、なにより、キャンプというのは初期投資がかかる。そしてそれは、そこそこの大枚であることを忘れてはいけない。
大枚をはたくための、燃え上がる欲求を手に入れたいのに。
そして、あわよくば、いなべ市のファンタジーなキャンプ場を利用してみたいのに。

*

そんなある日、ショッピングモールへ行ったときにふと閃いた。
モール内にある、アウトドアのお店へ行って、キャンプ用品を見てみたらいいのでは、と思ったのだ。購買意欲を掻き立てることが大事な気がしたのだ。消費行動を自ら操作する作戦。
ほしくてたまらなくなれば、我慢弱い私のことだからうっかり買ってしまうということもあるかもしれないし、買ってしまえばあとはキャンプに行くしかないのだ。

目論見通り、お店の中にはテントが設営してあって、テントの中にはエアマットや寝袋もあった。
ご自由に入ってよいらしく、お靴を脱いで、いざ入テント。

寝袋は思ったよりも厚みがあって、悪くない。エアマットもふかふかしていて気持ちがいい。なんだかこれって、寝られるかもしれない。
心をぎゅっと凝縮させて、想像する。
ここは、川のそばで森の中。木々のさざめき、葉がこすれる音、遠くでかすかに聞こえる獣の遠吠え、そして、それらと布一枚を隔ててここにいる私。
悪くない。

ただ、悪くはないけど、良くもない。
木々のさざめきも、葉がこすれる音も、遠くで聞こえる獣の遠吠えも、自宅ですべて手に入る。そう、私は田舎に住んでいる。
だったら私は、自宅の慣れたお布団でいいよ、とまたふりだしに戻ってしまうのだった。
私が寝転がっているテントの足元あたりで、末っ子がコップやお皿を使っておままごとを始めていた。ものすごくかわいいけれど、これも自宅で手に入る景色。
これではいけない、私は、キャンプ用品へ、キャンプ場へ心を寄せるためにここにいるのであって、そして近い未来でキャンプ用品を買うために大きなお金を使う決心を煽るためにここにいるのであって、キャンプと縁のない暮らしに身を固めるためにここにいるのではないのに。
テントから這い出て、思うようにいかないな、と思った。

翻ってお値段を見れば、覚悟はしていたのに、やはり驚くものだし、キャンプって始める前から大儀が過ぎる。
みんなどうやってキャンプを始めたのか心底教えてほしいし、その魅力も知りたい。

ファンタジーを手に入れる理由がなくて困っている。

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