ホーム 03【お店へ行く】 「自分の証 決意の証」本気の印鑑、持ってますか?

「自分の証 決意の証」本気の印鑑、持ってますか?

桑名市の駅前に 1973年にオープンした駅ビル桑栄メイト。

2020年月7月31日をもって47年の歴史に幕を下ろす。

残しておきたい町の風景のひとつとして、昨年11月ごろからOTONAMIEが取材を行ってきました。

中でも、思い入れのある記事を最もたくさん書いているであろう福田ミキさんにお誘いをいただき、この日初めて桑栄メイトに足を踏み入れた私。

お話を聞かせていただくのは、「小学5年の時、親がここに店を出してからメイトが遊び場だった」という水谷有志さん。

創業明治43年 の株式会社山榮堂の四代目社長さんです。

ブルーのジャケットを着こなす姿はまるでロックスター。

「え、印鑑屋さんなんて、足を踏み入れるのもほぼ初めて…」と内心焦りつつ、印鑑のことも桑榮メイトの事も教えていただくつもりでインタビュースタートとなりました。

印鑑…古くは中国から送られた金印が日本最古のものとされ、しかしその後日本独自の文化として発展してゆく。

諸外国では本人の確認の際にサイン(自署)を使うが、日本は印鑑により本人確認がなされるのが一般的。

伊藤→小黒になったら、印鑑はすぐに見つからない。

「よく考えると印鑑って不思議やない?目の前にいる、その本人の確認のために日本では印鑑が必要とされる。まるで、印鑑自体が社会の中でその人の代わりとなり本人の証明をしているようなとこがあるやん。」

開始早々、カメラマンの深〜い発言により、このインタビュー無事に記事として着地できるのか?と不安に思いつつ、まずは山榮堂さんの沿革をさくっと教えていただく。

1910年(明治43年)桑名市三崎通りで印章店山口山榮堂として創業。
1925年(昭和元年)店名を山榮堂印房とし、印章技術重視の営業形態を開始。
1961年 三代目水谷剛さんが後を継いだ後、1973年桑名駅前の再開発により桑榮メイト1階に開店。1990年(平成元年)株式会社山榮堂を設立。
2000年 四代目水谷有志さんが社長に就任される。
さくっと聞くには歴史が深すぎる会社。

落款についても教えていただきました。

――歴史ある家業を継ぐプレッシャーや迷いはなかったのですか?

有志さん:時代背景も手伝って家業は継ぐものやと思ってた。

とはいえ継ぐ以上は大きくしたいと思っていたから大学卒業後すぐに修行へ。営業も接客もできるいわば「歌って踊れるはんこ屋」になるために、何よりもしっかりとした技術を身に付けたいという決意から、周りが8年ほどかけて身につける技術を4年で身に付けたそう。

すごい!!

ずらりと並んだ賞状は努力と技術の証。

印鑑の素材は象牙、水牛、チタン、水晶、メノウ、ローズクオーツ、珍しいものでは鯨の歯などなど。

しかし、素材の優等生はやはり象牙。

とる箇所によってピンからキリまであるけれど、印鑑になってからも虫食いやヒビ割れが少なく、とにかく丈夫。

使う程に白からアイボリーのような深みのある色味になってゆくのが象牙の特徴だそう。

おじいさんの代から使用しているというこちら。いい色です。

象牙の中心の部分を使用したものは、とれる数が少なくとても貴重。高価なものは、その分の理由があることを教えていただきました。

1度作ったらずっと使える印鑑は、是非いい素材のものを選んでほしい。と有志さんは語る。

象牙のランクについてもわかりやすく説明してくれます。

更にいくつか質問を重ねてゆく。

――この仕事をしていて、嬉しかった事や印象的な出来事はありますか?

有志さん:やはり印鑑を作りにくる方は、人生の中の大切な場面に立っている時が多い。例えば、起業する時に社印をつくりにきた方。そんなお客様が10年後に「ここで印鑑作ってもらったから成功したわ!」と、お礼を言いに来られると、やはり嬉しい。印鑑を作ったから成功したんじゃなくて、やるぞ!という決意を持ってその印を押す、お客さんの熱い気持ちがあるからやと思うけどね。

と、はにかんだ笑顔で話してくれた。

やはり印鑑は不思議。気持ちをのせたり、背中をおしてくれる側面もあるのか…。

話はそのまま、メイトで過ごした時間と山榮堂の今後について進む。

――メイトがなくなる事は寂しいですか?

有志さん:店舗がなくなる訳ではないから、メイトがなくなる事はあまり寂しくないよ。学校から帰ると店舗にカバンを置き、隣にあった駅ビル「パル」に遊びに行っていた。

(この時「パルぶら」なんて言葉もあったそう。銀ぶらならぬ、パルぶら・・・!)

「ちょっとパルぶらしてくるわ!」

メイトが生活の一部で、メイトでたくさん過ごしたから、メイトがすごく盛り上がっていた時代も知っているし、ご高齢で後継がいない中頑張っている他のテナントさんのことも知っているからこそ、メイトが閉めるとなっても「まあ、仕方ないな」という気持ちだったそう。

メイトでやり残したことが何もないからこそ、すっきりと次の展開へ踏み出せるのではないかと感じました。

桑栄メイトでイベントの時などに使われてたはっぴ。

今は自宅に併設の新店舗を建築中。

ドアを開けたら、ピコピコとチャイムがなり奥から「はーい!」と声が聞こえる。そんな、昭和のようなお店に戻すつもり。

営業時間も短くし、日曜は予約で・・と、新店舗ではハンコ屋さんの働き方改革を実行するつもりだそうです。素敵。

外から見えるこの景色も、あと少し。

色んなお話を聞く中でこれだけは聞きたい!ということがでてきたので、最後に質問してみる。

――印鑑から離れている世代も増えている中で、これだけは持ってた方がいい!と思う印鑑はありますか?

うーん…と少し考えながらお答えくださった。

有志さん:実印を押す場面は人生の名でも大切な場面が多いから、思いを込めて作ってほしい。そして、最初にちゃんとしたものを作っておけばずっと使える。いい大人になってから作る方もいるけど、それだと僕はそれまでの使ってない時間がもったいないと思う。

・・・・・ぐさっーーー!!!

はい。まさに私に向けて言われたような言葉でした。

20歳頃、ふと自分の印鑑を作ろうと思い、どうせなら名字が変わっても使えるよう名前の印鑑を、とりあえずネットでポチッとした私。人生の節目ともいえる婚姻届に印を押す時も、そのとりあえずの印鑑で押した私。

確かに決意は込めて押したけど…ちゃんとした印鑑で押せたらもっとカッコよかった気がする!

子どもが生まれて印鑑を作りにくる方は、自分が親に作ってもらっていた方が多いそう。その時は何も思わなかったけど、大人になってから役に立ったから。

親に作ってもらった印鑑。それを押す時…初めての学校、初めての履歴書、車、就職、結婚。

きっと気持ちを込めて押せたから、自分の子どもにも作ってあげようと思い、それが代々繋がってゆくのかも。

有志さんにお話聞けて、印鑑の世界がぐっと身近になりました。

ちなみに今、女性が印鑑を作る時は99%名前だそうです。そして子どもの印鑑を作る時は男女どちらも名前をすすめるそう。せっかく画数やら読み方やら、キラキラネームというくらいこだわって考えてあげた名前、ぜひ使ってあげたらいいじゃない。と。

話を聞けば聞くほど、ちゃんとした印鑑、ほしくなってきました。

タイトルにもお借りした、このキャッチコピーが秀逸。

印鑑は不思議。

押せればなんでもいいと、思う人もいるかもしれないけど、決意をのせて作られた印鑑は、きっと自分の背中を押してくれる。

あたたかい思いをのせて作られた印鑑は、大事な場面で勇気をくれる。

そんな魂こもった印鑑を彫る人に、自分のちゃんとした1本を頼みたいと想うのです。

 

photo / y_imura
取材日/2020.6.28

株式会社山榮堂
https://www.saneidou.jp

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