音楽アプリで好きな曲を検索すれば、高い確率で聴くことができる。一方、車などでラジオを聴いていて、自分の好きな曲が流れたとき、音楽アプリで聴くときとは別物とも感じるあの嬉しさはどこからやってくるのだろう。デジタルやオンライン化が推奨される現代、ラジオの魅力について普段は見えない地元FM局の現場を取材した。
午前6時。レディオキューブFM三重(以下、FM三重)に到着すると午前7時30分からの番組ポミーのパーソナリティであり、FM三重の局アナの清田のぞみさんが生放送の準備をしていた。
ニュース原稿やリスナーからのTwitterやメールをチェックしながらも楽しそうな表情の清田さんはいつも明るい印象。自らをキヨンセと呼び、生放送中も大きな声で笑うなどリスナーを爽快な気分にさせる。 休日の過ごし方を訊ねると、アクセサリーを作ったりYoutube用の動画を編集するという。
清田アナ:右脳派と呼んでください!
ハキハキと応える清田さんに「生放送は緊張しないですか?」と聞くと「人一倍のあがり症です」と意外な答えが返ってきた。
清田アナ:徒競走で「位置に付いて、用意、ドン!」の「位置に付いて」の時って緊張するじゃないですか。同じような感覚で本番直前は緊張するので深呼吸します。よしっ!って声を出すこともあります。いつもと違うスキームで放送するときはスイッチャーをさわる手が震えることもありますよ。
そう話し終えると本番のためスタジオへ。生放送が始まればいつも通りの明るい声が響く。リスナーから「声を聞いて元気になった」といってもらえるのが何より嬉しいと清田さんはいう。
ポミーの放送が終わるころ営業部の社員が出社。元ラガーマンという若手の営業、佐竹敢太さんに仕事のやりがいを聞いた。
佐竹さん:売上の数字を上げることは大切ですが、なにより多くの人と繋がるのが好きです。大学でメディアについて勉強をしたので将来は番組制作もしたいです。
番組作りにスポンサーが欠かせないラジオ局にとって、前向きな佐竹さんは若きフォワードのような存在。
そんな社員を束ねる丹羽勇社長は、パーソナリティやリスナーに伝えたいことがあるという。
丹羽社長:パーソナリティはリスナーの一人ひとりに寄り添って「絆」を作って欲しい。またFM三重はコマーシャルだけでなくイベントも行っていて参加される人の笑顔が印象的です。今は開催がままならないですが、再会を心待ちにしています。地域の皆様へ開局35周年の感謝をお届けしたいです。
開局当時を知るアナウンサーの瀧裕司さんが珍しいものを持ってきてくれた。当時はオープンリールをハサミで切って番組を編集していた。いわゆる映画などで「カット」と使われる語源でもある。
スタジオに戻ると、月〜木曜の夕方ワイド番組ゲツモク!のパーソナリティであり、局アナの代田和也さんが番組の準備中。ロック、ポップ、ダンス系など幅広い音楽の知識を持つ代田さんに、ラジオを聴き始めたきっかけを訊ねた。
代田アナ:実家は長野県の田舎で、祖父母が農業をしていて牛もいました。中学生のとき、自分が好きなパーソナリティが掛ける曲に憧れながらラジオを聞き、山の向こうにある楽しそうな都会の世界を想像していました。
ゲツモク!は代田さんセレクトの音楽、日替わり情報発信、生活情報などコンテンツが多彩。代田さんの優しい口調とロックな選曲が多いというギャップも楽しく、幅広いリスナー層に支持され安定感のある番組だ。
アナウンサー歴は約10年目の代田さんだが、今でも就寝中にこんな夢を見るという。それは生放送中にマイクで話しても声がモニターから聞こえない、つまりラジオで自分の声が流れていないという夢。実は入社したてのころ、実際に起きた。 ラジオ局では、無音の状態が一定時間続くと自動で音楽が流れる仕組みになっている。トラブルが起こった当日は局内にアラート音が鳴り響いた。 人は思いがけない強い衝撃を精神的に受けると「また起こるのではないか」と不安になる。しかし仕事や暮らしなど日々の日常を積み重ねることで、時間が徐々に不安を拭い去ってくれることもある。
スタジオで本番中のパーソナリティをガラス越しに眺めた。夕方の約2時間に及ぶ生放送を代田さんは機材の操作、Twitterやメールのチェック、そしてトークを一人で同時進行している。番組終了後「すごいですね」と声を掛けると「地方の小さなラジオ局なんで」と笑顔で話した。
コミュニケーションにおいてSNSが最先端のメディアだとすれば、ラジオはパーソナリティを通じてマイクロフォンの向こう側にいるリスナーと心が繋がる普遍的なメディアだと思った。そして人口がそれほど多くない地方のラジオ局は、人と人とが繋がりやすい。今日もスイッチをオンにすれば、いつものあの人の声がラジオから流れている。そんな時間にホッと安心するのは、ラジオ局からリスナーへの想いが届いている証拠なのかも知れない。
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村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事