私は家事に対してモチベーションが低い。掃除や片付けは下手だし、洗濯物は溜め込みがち。SNSで綺麗な部屋や凝った手料理の写真を見ては「こんなんですみません」と呟いてしまうような人間。
ただ、結婚しているものだから一応最低限の家事はしている。そしてこんな妻の手抜き家事の中で夫がどうやら心から称賛しているものがある。
料理である。
ジャンル問わず「作る」という行為は好きなため、毎日やっていて1番飽きない時間だし、何を食べてもほぼ美味しく感じる幸せな舌でも、やっぱり一定以上の美味しいごはんが食べたいがゆえ多少工夫はしているからか、とは思う。
そして手を抜きたいけどおいしいものが食べたい、なんて煩悩の塊のような私の料理に欠かせない調味料がある。
「この味」という透明な液体調味料である。
みりんでも酒でも醤油でもない。「この味」は「この味」という種類の液体調味料なのである。
1番近いのは「味の素」だが、向こうは粉末で塩みたいな見た目、でもこちらはボトルで販売されている。
初めて発見したのは、5年ほど前。当時近所だった「じばさん三重」の一角で。
あまりにも透明で謎な調味料のため購入をためらっていたものの、宣伝用のポップに書いてあった「あなたも卵焼き名人に!」の謳い文句にのせられて1度小さなボトルを購入して使ってみたところ、まんまとハマってしまった。
キャップ一杯のこの味を入れるだけで、確実に味に締まりが出るのである。
以来、和洋中問わず自分の料理には欠かせないし、手軽だからお土産としても友人、知人に持っていく事も多い。料理や調味料に詳しい人からは「これは止められないやつ」というお墨付きのような言葉をもらったり、中には「え、何が入ってるの??怪しい、、、」という声が上がったり。
それはそうだな、私も最初は怪しくてなかなか手が出なかった、と思い出した私。これはどういう工程で作られているかお話を聞いてみよう、と製造元の「この味本舗」へ出向いてみることにした。
ーーー
「この味本舗」は四日市の市街地に程近い旧東海道沿いにある。軒先にある大きな瓶に「この味」と書いてあるのが目印。
思っていたよりも小さいイメージだが、
「このあたりの建物はうなぎの寝床で、奥に長く広がっているんですよ」
という、この味本舗代表の秋田真幸さんの声になるほど、と膝を打つ。
早速この味に毎日助けてもらっていることを告げ、お話を伺おうと中に通していただく。そしてそこには販売されているこの味のラインナップが。
- 一升瓶は初めて見ました。
「一升瓶は業務用として販売していて、ペットボトルは一般用に販売しています」
どうやら近隣のうどん屋、居酒屋を中心に50店舗ほどの飲食店と取引があるらしい。
「一時期は100店舗以上に卸していたのですが、代替わりせず店を畳んだところも多く、今の状態になりました。逆に一般向けの販売が増えているので、売上は以前と変わらず、という感じですね」
ー 私は最近は近くのマックスバリュの「地物一番」コーナーでこの味を買うのですが、他にはどういう場所で販売されているんですか?
「県内なら四日市や鈴鹿のマックスバリュ10店舗とじばさん三重、あとは県外だと東急ハンズ名古屋店、東京のスーパーの明治屋と三浦屋で常時販売しています」
ー 東京でも購入できるんですね!
「そうなんです。以前日刊ゲンダイの調味料を紹介するコーナーに取り上げてもらった事があって。そのライターの方がその記事を元に「全国ごちそう調味料」という本を纏められて。それを機に東京や大阪、福岡からも問い合わせをもらいました。残念ながらやり取りが終了してしまった小売店もありますが、各地の飲食店からは引き続きこの味を愛用したいと直接連絡をもらっています」
西は福岡、東は東京と、この味は意外にも広範囲で愛用されている事がわかり少し驚く。そんなに幅広く販売されているなら製造も大規模に展開されているのでは、と聞いてみると、
「いやいや、基本的には妻と2人で。時々妻の母にも手伝ってもらってますが」
と笑顔で返答された。
更に驚きが大きくなった。小規模も小規模、しかも90歳を越えられているお義母様も現役で出荷に携わる事があるなんて。そして秋田さんがこの味本舗の代表になるまでの話を聞いて、更に驚きが。
「実は国家公務員だったんです。その時に妻と知り合って結婚し、婿養子になりました。もともとこの味本舗は妻の両親が経営していたんです。当初より定年退職してから跡を継ごうかと何となく思っていましたが、義父の事故や心筋梗塞が重なるようにありまして。予定より早い47歳の時に代表となりました」
国家公務員という安定した職を辞して飛び込んだ経営の道。「最初はこの味本舗の名刺を渡しても不思議な顔をされる事も多く、公務員の肩書きの強さを実感しましたよ」と苦笑いされた。
奥様の家系は元々小麦粉を扱う商いをされていて、ある時滋賀の研究者からアドバイスがあり、小麦粉から美味しいと感じる成分を抽出する手ほどきを受けた。それが後にこの味になるうまみ調味料だった、との事。
小麦粉の業者だからもちろん地域のうどん屋と元々取引があり、調味料を試してもらったところ、大好評。そこからこの味を本格的に生産・販売を開始、それが67年前のことだという。
製造方法は時代に合わせて変化してきているものの、現在でも前に述べたとおり小売業者や飲食店、一般客にまで愛される商品として存在し続けているのである。
ー 原材料は変化している、という事は今は小麦粉ではないということですよね?何が入っているか良ければ知りたいのですが、、、
「良く聞かれる質問です。 今は昆布、カツオ、しいたけのうまみ成分に食塩を加えて製造しています」
ー そうなんですね!以前友人にお土産で渡した時に何が入っているか不安がられた事がありまして、、、
「もちろん、昆布やカツオ、しいたけそのものを使用しているわけではなく、サトウキビの糖蜜などを発酵すると同じ“うまみ成分(グルタミン酸等)”が作られるので、それを使っています。みそやしょうゆと同じように微生物により発酵させたものですね。
「うまみ調味料」であるこの味は、自然原料から作られており国内の食品衛生法だけでなく、WHO(世界保健機関)などからも安全性を認められております」
原材料について聞けてすっきりするとともに、全く畑違いの職種から日々口にする調味料の知識を蓄えられた秋田さんのこの味への想いが伝わってきて、改めてこの味ファンになった。
ー 折角なので作業されている場所を拝見する事はできませんか?
「今は製造中ではないですが、場所だけだったら大丈夫ですよ」
と、秋田さんのはからいから、念願のこの味の聖地に足を踏み入れることができた。
意外にも狭いスペースの中、シンプルな工程で製造が行われている事がわかる。
最後にこれからの事についてお聞きすると、
「息子も跡を継ごうかと考えてくれているようです。これからも少しづつ、着実に販売していけたら」と明るい未来を示してくださった。
ーーー
どうやら我が家の食卓の味はこれからも守られるようだと分かると、安心してその夜も安定の隠し味を暗躍させる。
ただ、いつもより少しだけ優しい気持ちになりながら、毎日の如く鍋を振る。
時々顔を出すめんどくさがりをとりあえず、と引き出しの奥底に押し込み、今日もこの味が名脇役を務める美味しい晩ごはんが完成した。
注文もできるこの味本舗のウェブサイトはこちら。秋田さんの奥さま考案のこの味を使ったメニューのレシピも多数掲載されています!
\この味本舗からのスペシャルオファー!/
商品を注文する時に「OTONAMIE読んだよ」と伝えてもらった方全員にこの味を1本(100ml)プレゼント!!ぜひご注文くださいね!
hiromi。OTONAMIE公式記者。三重の結構な田舎生まれ、三重で一番都会辺りで勤務中。デンマークに滞在していた事があるため北欧情報を与えてやるとややテンションが上がり気味になる美術の先生/フリーのデザイナー。得意ジャンルは田舎・グルメ・国際交流・アート・クラフト・デザイン・教育。