寒い冬の夜。
私は港町尾鷲にいた。
尾鷲にはハシゴ酒の文化がある。
一軒目でちょっと吞んで・・
二軒目でちょっと吞んで・・
三軒目でも吞んで・・
なんなら四軒目も・・。
つまり、天国なのである。
お隣の紀北町でIT系企業を営む知人と仕事の打合せをすませた。
そのまま知人と尾鷲へ。
私:尾鷲にきたら「ここ」みたいな店に行きたいです。
知人:尾鷲の友人おすすめの嶋家かな。ちょっと大将がこわもてやけど、いく?
二つ返事で嶋家へ向かった。
港町にある焼き鳥屋だ。
店に入るとこれ以上にない常連感にあふれたお客さんが二人。
カウンターしかない店内。
生ビールを注文すると、とてもよく冷えていた。
大将:あー、これを下に敷いて。
ビールと一緒に出されたのはお手ふき。
聞くと凍ったジョッキから水が滴り、カウンターが濡れるからだという。
記事にしたいと思うが、心の中は「怒られたらどうしよう」と思っていた。
カメラマンに借りているプロ仕様の大きな一眼レフカメラをカウンターに置いた。
こわもての大将がカメラを眺めながら聞いてくれた。
大将:あんたカメラマンなん?
私はライターでカメラはカメラマンに借りていて、津市から泊まりで尾鷲にやってきて、ここが地元の人のおすすめだと聞いてきたことを伝え、何気なく記事に書いてもいいですか?と聞くと・・、
大将:ええよ。インターネット?
そうですと答え、仕事は三重県内をあちらこちら取材をしていることを伝えた。
創業より43年の歴史を持つ嶋家。
店内の雰囲気からも、年月を重ねた港町の焼き鳥屋の貫禄のようなものを感じる。
大将:前にな、ここの店をこう書いた先生がおった。「場末の駅前の焼き鳥」て。
私:場末とは失礼ですよね。
大将:場末の駅前やけどな(笑)。
あぁ、港町にきたなと実感した。
港町で聞く冗談はどこかしらディープなのだ。
いい感じに馴染んできた空気。
大将の息子さんは南麻布で「嶋家」という同じ屋号で焼き鳥屋をしていると教えてくれた。
そして話題は、私も大好きな東紀州の干物について。
大将:自分らで作る干物は辛いでな。カラキッテク。
私:カラキッテク?カラキッテクってなんですか?
知人:辛いの最上級。
後日、尾鷲に暮らす友人にも聞いたのだが、尾鷲では形容詞を動詞化する特有の表現が「きってく」とのこと。
きってく=とても
例)
とても賢い=賢きってく
とても面白い=面白きってく
美味しいは「うまきってく」と「どうまい」があるのだとか。
大将は他にもおもしろい方言を教えてくれた。
大将:ここらでは懐中電灯のことを「電池」っていう。
私:短いですね。いや、短かきってくですね。じゃあ懐中電灯の中に入っている電池のことはなんていうのですか?
大将:電池の実。
私:実・・。
気が付けばこわもての大将に笑いじわができ、やさしさにあふれた笑顔になっていた。
勘定を済ませて外に出ようとすると、
大将:帰りに電柱の看板、写真撮っていって。
これかな・・、南麻布?
嶋家 南麻布まで、ここより北東、496593m・・。
おあとがよろしいようで。
地元の人がおすすめするお店には、独特の魅力が詰まっています。
次回は「漁師の息子あるある話を聞きながら、酒のあてにスルメイカの肝をいただく」二軒目のはしご酒をお伝えする予定です。
二軒目でも港町の「カラキッテク」に出会えるのでしょうか。
ご期待ください。
嶋家
尾鷲市野地町10-8
tel 0597-22-6988
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事