ホーム 01【食べに行く】 連載エッセイ【ハロー三重県】第8回「餅を食べる」

連載エッセイ【ハロー三重県】第8回「餅を食べる」

三重に来てからというもの、餅がずっと気になっている。
お正月に食べるはずのあの餅だ。餅。お餅。

私は米どころ石川県の生まれなので、米全般に関しておいしいものを食べてきた自負がある。米から作られる大概のものの、日本におけるイニシアチブを、我々北陸を含む北国の人間が握っていると思っていた。
おにぎりだって、新米だって、おせんべいだって、寿司だって、もちろん餅だって、米どころこそがうまいものを食べていると思っていた。

だって、進学で関西に住んだ時には「石川県と言えばお米がおいしいところだね」とたびたび言われたし、ローマ法王に贈呈されたお米だって、石川県のお米だ。
米周辺に関してはわりと強めの自信とプライドのようなものさえ持っていた。

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ところが三重県に嫁いだら、あっちもこっちも餅だらけだった。
志摩に行けばさわ餅があるし、桑名に行けば安永餅がある。
伊勢に関しては言うまでもなく、赤福があって、その周辺には数えきれないくらいの餅がある。
餅に対する情熱と、いっそ執着のようなものすら感じる。

試しにGoogleマップで「三重県 餅」と検索してみてほしい。
ぎょっとするくらいのピンが刺さっている。

伊勢に関してはピン同士が重なり合いすぎてちょっと把握しきれない。
さらに「リスト表示」をタップすると、永遠にスクロールできるのでは、と思うくらいに餅の写真であふれかえっている。
餅…多いよ…。

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伊勢神宮に参拝する人たちで賑わう県内の各地には餅屋が多く、餅街道とも言われているのだとか。その中でも、伊勢神宮内宮の参道にある本店は毎朝5時から営業している赤福と言えば、県内では知らない人はいない、朔日餅(ついたちもち)があるけれど、なんていうか、この朔日餅、テンションが高い。
他府県の方のために説明すると、赤福餅で有名な赤福さんでは毎月1日にだけ、その月の季節のお餅を販売するのだ。
例えば5月はかしわ餅、とか、4月は桜餅とか、7月は水ようかん(餅ではない)とか。
三重県に越してきて最初の頃に、その全容の見えなさにわくわくして、並びに行ったことがあるのだけれど、完全に祭だった。
前日から整理券をもらいに並び、翌日朝まだ暗いうちから車を走らせて伊勢へ向かった。
到着して驚いた。長蛇の列が仕上がっていた。お年寄りから若者まで、顔ぶれは様々だった。
しかもみんなおおむね大量に購入する。どうかしたら運びきれなくて、台車を用意している人もいた。あのお餅たちはいったいどこへ行くんだろう、と妙に遥かな気持ちになった。だって、お正月でもないのに、そんなにたくさんのお餅が消費されてるとか…なんていうか…情熱…。

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餅の歴史が長いゆえに、あられやおせんべいもこちらに来てからほんとうによく見かける。
これも、我が地元石川県こそ、あられだって最高峰である、と信じて疑っていなかった。私の父の好物はあられであり、家にはいつだってあられまたはおかきがあったのだ。
あられのことなら聞いてくれ、くらいの気持ちだった。

ところがだ、三重県のあられ好きも相当だった。
夫と私がまだ京都に暮らしていた頃、夫の実家から届く荷物にはたいていあられが入っており、また、帰省すればまたあられを持って戻ってきた。
あられ、どんだけ食べるん、という心地だった。
同じあられを夫は飽きもせずうまいうまいといつだって食べていた。
海外に住む義姉は帰国したら必ず地元のあられを持ち帰る。
義父に関しては、あられを運転中の眠気覚ましのために車に常備しているとまで言っていた。
あられ、ボトルガムまたは、フリスクの代わりにもなる説。

そう言えば、三重県にはあられ茶漬け、というおやつがあるらしい。
あられを入れた茶碗にお茶を注ぐのだ。ごはんは必要ない。ふやけたあられを食べる、という不思議体験。いつか食べてみたいと思いながらも勇気が出ない。あられは好きなんだけど、どうしてなかなか。
いや、あられは好きだよ。あられは。

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まだまだ、マスヤのおにぎりせんべいはきめが細かくて最高だし、ミニおにぎりがかわいすぎるよ、とか、桑名のプレミアムトマトカレーせんべいのクオリティが高すぎるよ、チーズ味も最高だよ、とか、大門にある玉吉餅店のみたらし団子、飛び切りおいしいし、うちの子どもたちも大好きだよ、とかお伝えしたいことが山のようにあるのだけれど、沼が深すぎて私の筆力では到底まとめきれないので、ぞれぞれ各々Google先生にお尋ねしてほしい。
どこを切ってもわりとそこそこ沼だから気を付けて。

そして、これが公開になる直近の日曜日が奇しくも朔日で、これはあれかな、朔日餅を買いに行く流れかな、と思うなどしています。

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