毎年10月に入ると鳥羽市浦村の海では、何かと慌ただしく小型船が行ったり来たりする光景が日常茶飯事です。
牡蠣好きの方はピンときましたか?そう、牡蠣のシーズンの到来で養殖業者さん達は大忙し。三重県の中でも特に鳥羽市浦村地域は牡蠣養殖の一大産地で、県内生産量の3分の2を占めています。
美味しく育った牡蠣を海から引き上げる作業が大変なのは安易に想像ができますよね。ただ、この慌ただしさにはもう一つワケがあるんです。
実は牡蠣の水揚げだけでなく、来シーズンに向けた準備、牡蠣の種差し作業が同時並行で行われているのをご存知ですか?
また「牡蠣の種」と聞いて国民的なお菓子は浮かんでも、何なのかピンとくる方は少ないはず。ましてや「牡蠣の種差し」と聞いてどんな作業なのか想像できませんよね。
それでは、「牡蠣の種差し」とは一体どんな作業なのか?これから一緒に見ていきましょう。
伊勢湾で育まれる牡蠣養殖の出発点 牡蠣の種差し体験記
今回、取材協力をいただいたのは鳥羽市浦村にある牡蠣養殖を営む山善水産さん。毎年11月には直営の牡蠣小屋もOPENし、新鮮な浦村牡蠣を焼き・蒸しで楽しめます。
また、牡蠣小屋と併設された民泊施設Anchor.(アンカー)もOPEN予定です。漁師さんと協力した1次産業体験ツアーの企画もされています。
今回の取材現場 牡蠣加工場には、民泊施設Anchor.から歩いて3秒で到着します。
牡蠣加工場を覗き込むと、見知らぬ道具がいっぱい。ちょっとワクワクしてきませんか?
東北から陸路で届く、ホタテ貝殻にくっついた牡蠣の赤ちゃん
トラックに積まれ、遠路はるばる東北 宮城県から運ばれ大量のホタテの貝の束。実はこのホタテの貝殻に付着している小さな粒が、「牡蠣の種」なんです。
陸路で運ばれてきて牡蠣の赤ちゃんは大丈夫なの?という素朴な疑問をいだきます。そこは問題無用です。牡蠣は生命力が強くて2日・3日程度なら陸で過ごしても元気なんです。
ワイヤーを切って、牡蠣の種の穴をドリルで広げる
手を切らないように手袋、そして汚れや水をはじくエプロンと足元は長靴を装着して作業に取り掛かります。
運ばれてきた「牡蠣の種」はワイヤーで束になって繋がれています。まずは連結ワイヤーを切って牡蠣の種を取り外して、1枚1枚バラバラになるようにカゴにぶちこんでいきます。
コツはワイヤーを手でしっかりとつまんで、麺の湯切りの要領で上下に振ること。少々雑でも牡蠣の種はビクともしません。
カゴに盛られた牡蠣の種を次に待ち受けるのは、グルグル回る謎のドリル機械。
ここで牡蠣の種のワイヤー穴を、このドリルで拡張していきます。
ロープを用意して、牡蠣の種を21枚通していく
なぜ、ドリルで穴を開けたのかは次の工程のロープ通しで明らかになります。そう、実はロープがスルッと通る穴の大きさがドリルのサイズだったんです。
枚数が21枚なのは、海の水深が関係していて、牡蠣の種を水中に吊るす際にちょうど良い長さなんですね。※.ロープに通す牡蠣の種の数は、地域や養殖業者さんで異なります。
21枚を通し終わったら、先端の紐をギュッと縛って次の工程へ進みます。
等間隔にロープに釘を打ち付ける
ロープに通された21枚の牡蠣の種を待ち受けるのは、エアーコンプレッサーに繋がれた謎の釘打ち機。
ここで海に吊るした時に牡蠣の種が等間隔になるように、ロープに釘を打っていきます。
バシュ!バシュ!と室内に響くエアーの軽快音。足元に装置があり、踏んで釘を発射します。
うまくロープに打ち付けるには、コツが必要です。両手と右足(人によっては左足)に神経を集中して、テンポよく釘を打ち付けられるかどうか。リズミカルなセンスが問われる作業です。
牡蠣の種ロープを2本を束ねて、1トンカゴに並べて置く
さて、加工場での作業も正念場。釘を打ち付けた牡蠣の種ロープは2つに束ねて麻紐でキュッと結びます。
2つに束ねる理由は、牡蠣の種を狙う魚対策。美味しい牡蠣を育む浦村の海には、たくさんの生き物が暮らしています。麻紐でくくることで、被害を最小限に抑える工夫の一つなんです。
1つに束ねた牡蠣の種ロープは約1トンの重量が入る大きな大きなカゴに並べ、積み上げていきます。
船に乗せて、筏に吊るして完了!
カゴに山盛りになった牡蠣の種ロープは、人の力ではビクリともしません。ここで登場するのがクレーンです。
太いカゴのロープをフックに通します。すると、山盛りのカゴが軽々と持ち上がり宙に浮き、加工場そばの海に横付けされた船にゆっくりと降ろされます。
そして、いざ大海へ。到着した牡蠣の養殖筏に、等間隔で牡蠣の種ロープを沈めて、ひとつひとつ丁寧に結びます。
お疲れさまでした。これが一連の「牡蠣の種差し」作業になります。お分かりいただけましたか?
もちろん、今シーズンの牡蠣の収穫作業も同時進行中
これまで見てきた「牡蠣の種差し」作業とは別に、今シーズンの「牡蠣の水揚げ」作業も進められています。
そのため牡蠣養殖の現場では、小型船が海と陸を行ったりきたりを繰り返します。同時進行な分、とても大変です。
浦村の海で多くの小型船が、颯爽と行き来していたのは、そんな裏側が隠れていたんですね。
遡ること約1年前の10月に何人もの手を介しながら海に沈め、筏に結ばれた「牡蠣の種」。そして今、機械で巻き上げないとあげられないくらい大きく育っていることを思うと、偉大な海の恵みを実感します。
また、海では牡蠣養殖業者さん同士が助け合っている光景も印象的でした。海も人も自然の一部、そんな言葉がふっと浮かびました。
取材協力 オイスターファーム 山善水産
公式WEB http://www.yama-zen.jp/
濱地雄一朗。南伊勢生まれの伊勢育ち。三重県といっても東西南北、文化や自然・食と魅力で溢れていることに気づき、仕事もプライベートも探求する日々を過ごす。探求を続けると生まれた疑問、それが「何で◯◯が知られていないんだ」ということ。それなら、自分でも伝えていくことだと記者活動を開始。専門は物産と観光、アクティビティ体験系も好物。自身で三重県お土産観光ナビも運営中。