「今日、あのちっちゃいやつ、ないんすか??」
「あー、ほんなら次いこか」
松阪界隈で頻繁に飲んでいる諸先輩方が、
焼肉いとうやで繰り広げていた”二軒目どうしよか”のやりとり。

あのちっちゃいやつ…。
もうこのワードだけで別腹は整った。
ちっちゃいやつを求め、歓楽街の暖簾をくぐる
先輩方にくっついて歩いていると、
スナックやパブが建ち並ぶ歓楽街が現れた。
ほー、松阪にこういう場所があるとは知らなかった。
愛宕町というエリアらしい。
スナックの看板にいちいち惹かれながら、
たどり着いた「名物ちょろ松の店ふみ」
L字の鉄板カウンターに座る一同。
二代目のお母さんが、
おもむろに焼きだしたのが、
あのちっちゃいやつの正体のようだ。
10㎝ほどに広げた薄い生地に、
かつお節、天かす、葱、紅生姜が乗せられていく。
上からまた生地をかけ、
ひっくり返して醤油で味付け。
これが名物ちょろ松。

シンプルな具材に焼けた醤油の風味が香ばしく、
酒の肴にちょうど良い。
ちょっと待ってね、そういうこと。
なぜちょろ松なのか。
お母さんに尋ねると、
元々、生地に葱やちくわを入れた、
洋食焼きというおやつ的な焼き物があり、
それを先代が小さくアレンジしたのが始まり。
「ちょっと待ってね」のやりとりから名前を得て、
オリジナルメニューとして誕生したのが、
ちょろ松なのだそう。
お母さん:「小さくしたら、居酒屋帰りで小腹空いたお客さんのおつまみになってね。ご自宅やスナックへのお土産になさる方も多いんですよ」
酔っぱらったお父さんたちの、
”家族ご機嫌取りアイテム”としても効果的のようだ。
30年程通っているという先輩曰く、
この界隈で上司を連れて飲んだ後、
ちょろ松への段取りが組まれていないと、
「おまえちょろ松ないんかっ!!」とどやされるとか。
つまむ、飲む、つまむ。会話も弾む。
創業57年のふみ。
続いて焼きそばを、
無駄のない手さばきで焼いてくれるお母さん。
特注の太麺は、
ソースがよく絡むのに濃ゆくない。
はふはふと頬張りながら、
ビールがクピクピ空いていく。
醤油で味付けしたネギ焼きも完成。
弾む会話の中、
常連さんが酒をグイっと飲み干し一言。
「キャベツはソース、ネギは醤油。つまりそういうことや!!」
まるで格言かのようにどや顔で放った。
ちょろ松ふみ
住所:三重県松阪市愛宕町3-38
電話:0598-21-4868

福田ミキ。OTONAMIEアドバイザー/みえDXアドバイザーズ。東京都出身。元夫の都合で三重県へ移住し、現在は東京との二拠点生活。金融業界での経験を基に業務改善拠点を開設後、経営・事業戦略におけるPR視座を体系化。「さかさま不動産」など、新たな概念を社会に浸透させる事業を得意とし、その過程で得た生々しい成功・失敗事例を通じて社会構造を整理。認識・行動変容を狙う戦術や共創を軸に、多様な組織やプロジェクトに伴走・加速させている。日本PR協会「PRアワードグランプリ2023」最高賞受賞。仕事好きが集まる場「ニカイ」という拠点も運営している。この記者が登場する記事