「地元に恩返しをしたいという想いがあって。今からでもできる事はあるんじゃないかと思い、1年前から母校でのキャリア教育を始めました。」
こう語るのは、三重県立津高校でキャリア教育を行うボランティア団体「ConnecTSU(コネクツ)」の代表・奥田博貴(おくだ ひろき)さん。
奥田さんは津市出身で京都大学大学院を卒業後、今春から東京でサラリーマンとして働く傍ら、兼業で津高校でのキャリア教育をされています。
この奥田さんが代表を務めるConnecTSUは津高校の中でキャリア教育支援をしているボランティア団体です。OBOGとの交流会やOBOG名簿の作成を通して、高校生に対して多様な価値観や進路について伝える活動をされており、昨年の交流会ではOBOG50人が参加し、津高校でキャリア教育が行われました。
今年の夏には津高校の進学説明会で講演をするなど、精力的に活動をしていらっしゃいます。
幸せに生きるためにキャリアを考える
「この活動を始める大きな転機は、就活を通して自分の根本の価値に気付いたことでした。
恩を受けてきたものに対して恩返しする、それが自分にとってのやりがいであって、自分の使命なんじゃないかと思うようになって。」
就活を始めたときに大学ラグビー部のOBのおじいさんにキャリア相談をしたところ、「良い大学を卒業して良い会社に入る」という価値観が画一的なものであることに気付かされたそうです。
「キャリアとは自分の生き方であって、人間の幸せに大きく関わってくると感じたのもこのときです。就活の時期が来たときに、大概の人は価値観がぐらつくし、年収が高いだとか有名だとか目の前のものに圧倒されて根本を忘れてしまうんですよね。」
奥田さんは自身の就活の終了後に、就活支援のボランティア活動をされるなど、熱心にキャリア支援をされてきました。
「就活のタイミングでやりたいことを聞いたところで、これまで親や周りの大人たちの敷いたレールの上で人生を歩んできた人にとっては自分なりの解が出ていないし、いきなりこの時期になって考えるでは遅いんです。もっと早い時期で考える必要があると感じました。」
奥田さんは就活を通して色々な立場の人と関わるにつれて、この想いはさらに強くなっていったそうです。
「良い会社に入ることが絶対かのような価値観の中で、そうなれなかった人はコンプレックスを抱えてしまい、自分の可能性を自分で閉ざしてしまっていて。本来は多様な価値観があって良いのに、画一的な価値観の中で生きてきたから、それが自分の中の全てとなってしまっているんです」
このような経験を通して、奥田さんは自分なりに何ができるのかと考え、廃れ行く地元・三重に対して恩返しをしたいという想いとともに現在の活動をはじめられました。
外部が入ることで新たな可能性が生まれる
「高校生にとっては、高校が自分の生きる世界が全てであって、それ以外の世界とは繋がりをつくりにくい。だから、大人たちの力で社会を広げてあげることで、高校生の選択肢を増やして、早い内から多様な未来を描くことができるようにしたいと考えています。学校というコミュニティの中にいる先生にとっては難しいからこそ、僕たちが学校のコミュニティに入ることで新しい可能性を生み出せると思うんです。」
昨今取り組みが広がっているコミュニティスクールのように、外部の人々が学校に入って新しい価値観や多様性を伝えることで、生徒が実感を持って知る大切だといいます。
「特に、どれだけ自分で考えて行動してきたかという主体性こそが自分なりの価値観を気付くきっかけだし、これからの時代を生きる人にとって欠かせないスタンスであると思います。だから、自分のやりたいと思う気持ちを大事にしてほしくて。津高校って進学校で画一的な価値観、受け身な子供が多いことが課題だと考えているんです。だから、この活動を通して変えていきたいと思っていますね。」
事後アンケートで9割が自分の想いでキャリア選択したいと解答
「高校生と交流する際には、対等な立場でいることを心がけています。高校生・中学生って思考力あるし、めちゃくちゃ頭良くて。けど、若いからこそ感情的になりがちなんです。感情は視野を狭くするから、大人がサポートしてあげることが大切だと考えています。」
実際に去年行った交流会では、活動に大きな手ごたえを感じられる結果となったといいます。
「当初のアンケートではキャリアを考える軸として親のいう事、学歴、お金が多かったけれども、OBOGの話に触れて多様な価値観に触れた後の事後アンケートでは9割が自分の想いなどを選びました。」
高校生という若い時期からキャリアについて自身の想いを軸として真剣に考えることで、最も伝えたいメッセージは“後悔しない人生を歩む”ことだと奥田さんはいいます。
「後悔にはいくつかのパターンがありますが、その一つに意思決定の場で起こる後悔があると考えています。選択肢の存在をしらなかった、情報の非対称性が起こっている、自分で意思決定をしなかった時に後悔が起こりやすいからこそ、交流会を通してキャリアのミスマッチを防いでいきたいですね。」
この交流会には50人のOBOGがボランティアとして参加しましたが、これは“弱いつながり”の力を証明したともいいます。
「取り組みに共感してくれる人もいれば、久しぶりに母校へ行くきっかけとして参加してくれる人がいたり、理由は様々です。ですが、同じ母校出身という弱いつながりがそこにはあるから、主体的に参加してもらうことができ、このように沢山の方に協力いただけたのだと思います。」
教育を通して地元に活気を与えたい
「今後は、中長期的には非日常(交流会)を定期的に開催するだけでなく、放課後にOBOGへ気軽に相談できる場や、交流・ディスカッションができる機会を与えられるようにしていきたいと考えています。そして、この活動を津高校だけでなく津市全体の高校までに広めていければと考えています。」
さらには、高校生が主体となって企業とコラボして文化祭で商品を出したり、地元の農家の課題を解決したりなどいろいろなプロジェクトを立てて、それをメンターという形でOBOGがサポートしていける体制も作っていければ可能性が広がるともいいます。
「地方創生は自立しなければいけないと思っていて。東京からのパイの奪い合いでは結局は日本全体の活性化につながらないですし。だからこそ、津市全体で教育を通して社会を循環できる構造を最終的に作れればと思っているんです。そして、地元にある弱いつながりをうまく生かせば、それは可能なんじゃないかと思っています。個人個人が自分の得意分野を活かして、社会全体で町全体を支えていく、そんな仕組みづくりをしたいですね。」
自分が出来ることから始めれば良い
「自分の人生があるし、なかなか社会課題に問題意識を持っていてもそれに対して行動することが難しいですよね。教育を良くしたい、地元をもっと良くしたいと考えていても、自分の人生と天秤にかけた時に、自分の人生を生きたいって考えてしまうから、何もできなくなってしまうんです。
僕も東京でサラリーマンをしながらボランティアとして今の活動をしているように、傍らで何かをするでもいいと思うんですよ。今の自分ができる範囲でやれば良いし、僕みたいにボランティアなら、会社への副業申請なしで始められるので、誰でもはじめやすいんじゃないかと思います。」
私は奥田さんのお話を聞きながら、 社会に対して何かアクションを起こしたいと考えていても、自分自身のキャリアを考えた時に時期尚早だという言い訳をつけて後回しにしてしまっている現実を突きつけられたような気がした。
一つに絞って何かを成し遂げようと思うから、自分自身の行動を制限してしまっている。
小さなことの連続が大きな結果を生むものだと信じ、少しでも自分のできることから始めていけば良い。やってみることが大切なのだ。
最後に
インタビューを行って改めて人と会って話を聞くことは、自分にはない価値観や考え方を知り、自分自身の思考を深めることにつながると感じた。
connecTSUが行なっているような沢山の大人の生きざまを若いうちから知る取り組みは、キャリアの選択肢を広げるだけでなく、自分らしい幸せの方法を考える一つのきっかけとして、自分自身に向き合うきっかけとして、高校生にとってかけがえのない時間となるだろう。
私も高校生に戻れるものなら、あの頃からしっかりとキャリアを考えたかった。津高生が羨ましい…!
最後に奥田さんからの一言。
「いろんな人とコラボレーションして、アイデアを沢山とりいれてやっていきたいので、地元とつながりがある人でこの活動に協力したい人はぜひ連絡してください!」
【連絡先】
Facebook団体ページ
https://m.facebook.com/tsu.ob.og/?tsid=0.6063291692192975&source=result
奥田博貴さんTwitter
https://twitter.com/sdhr7
尾鷲市出身/同志社大学法学部/大学生/京都在住/政治学専攻/東紀州を中心とした情報が中心/グルメ/フォトジェニック/食べ歩き/政治/社会問題/東紀州