“私が初めてあつし君に付いて行った海外の旅は、中央アフリカの密林に暮らす先住民ピグミーのバカ族。彼らは葉っぱの家に住み、夜には葉っぱをまとった精霊を囲んで踊っていました。大人でも大きくて150cmくらいの身長。身体を寄せ合って暮らしています。私たちは近くの町に宿泊していたのですが「また明日ね」ってピグミー族とお別れをしたのに、歌いながらずっと見送ってくれて。結局、宿泊していた町まで付いてきちゃったこともありました”
妻の菜央さんはそういう。
今回、志摩市に暮らす坪内家を訪ねた。夫の坪内あつしさんは兵庫県姫路市出身のパーカッショニスト(太鼓)、菜央さんは茨城県筑西市出身のダンサーで劇団専属の時代もあった。
東京でSUNDRUMという打楽器、歌、ダンスからなる遊動芸能家集団を結成。今は志摩市の越賀に移住して暮らしている。あつしさんは主に東南アジア、東アジア、アフリカの少数民族などを訪ねる旅をしていて、現地で民族の音楽と太鼓のセッションを行う音楽家。
あつしさん:ピグミーのバカ族は食べる寝る以外の時間、ずっと歌ったり踊ったりしています。狩りに行くときも歌っています。食べ物は簡単に育つ芋が主食で、後は狩猟採集でとった物。味付けみたいなのがないんです。人間が生きていくのに必要な分だけの食事をして、あとは歌ってる。笑顔で幸せそうなんですよ。
世界の40カ国ほど旅をして、それぞれの国に幾度か訪れているあつしさん。2歳になる娘の海晴ちゃんも8ヶ月のときから同行している。
菜央さん:民族の儀式などが始まると、海晴は率先して踊りに行きます。
坪内家は年の半分ほど海外で過ごし、あとは国内でライブツアーやCDの販売、また家族旅のドキュメント映像の放映会を行い暮らしている。従って志摩の家で過ごす時間は短く、居るときは音源の編集や基本的にオフ。ここで過ごす休暇は心地よく、帰ってきたら海に行くという。今回クルマで数分のところにある美しいあづり浜でもお話を聞かせてもらった。なぜ、志摩半島の先にある越賀に移住したのだろう。
菜央さん:SUNDRUMに伊勢出身のメンバーがいて、東京から伊勢には何度もライブなどで訪れていました。越賀の隣りの御座でライブをする機会があって「いいところだな」って。ちょうど盆踊りがやっていて、昔ながらのそれに感激しました。
今は平屋の一軒家と離れのある暮らし。家は夫婦で歩きまくって空き屋を見つけ、近所の人に大家さんを紹介してもらったという。
菜央さん:東京(八王子)にいたときもそうで、あつし君と歩きまくって2階建ての一軒家の空き屋を見つけました。近くで農作業をしている人に大家さんを聞いて、お話にいったら「空いてるから住んでいいよ」って。家賃はなんと2万円。
うかがったご自宅には世界中の太鼓や自作の物も。
居間には菜央さんお手製のカレンダー。菜央さんに聞くと、あつしさんは海外で少数民族と過ごしているせいか、今日は何日何曜日の感覚が薄いと笑いながら話してくれた。
菜央さん:あつし君、すぐに忘れるから(笑)。
少数民族とのコンタクトは知り合いに紹介してもらい、現地で片言の英語やGoogle翻訳で民族の暮らす村をリサーチ。
菜央さん:バイクで走って「ここだ!」っていうことも。セレモニーなどが偶然行われていたこともあります。
私はテレビなどの影響で、少数民族はヨソ者を受け付けないイメージがあった。実際に多くの民族を訪ねるあつしさんは、敵対視されたり辛かったことはないのだろうか。
あつしさん:敵と思われたことは一度もないです。辛いことですか・・。あんまりないですね。嫌なことはすぐ忘れる性格なので(笑)。困ったことはありますよ。
中央アフリカ共和国の部族の村へはタクシーやバスは走っておらず、トラックの荷台に乗って向かう。そして村のゲートには警察や軍がいるという。
あつしさん:それがね、警察や軍にパスポートを取り上げられてお金を要求されるんです。相手は銃を持っていて、簡単にいうと喝上げなんですけどね。日本人とわかると高額をふっかけてくる。でも「そんなに払えない。払えるのはこれくらいだ」って交渉するんです。
そんなタフな旅を続けるあつしさんは、どんな子どもだったのだろう。
こんなエピソードを教えてくれた。
旅好きのあつしさんは中学生のとき、姫路から名古屋や本場の豚骨ラーメンを食べるために福岡へ自転車で旅をしていた。事前に親に話すと止められるので、置き手紙をして出かけたという。
根っから旅好きなあつしさんは、18歳の時にバリ島へ旅に出た。そこでパーカッションや太鼓に出会った。
菜央さん:あつし君は太鼓に出会ってしまった(笑)。
菜央さん:私は普通に企業勤めだったときもあるんです。あつし君と出会いそして先住民のピグミーを見て、私のなかでいろいろと壊れました(笑)。
ダンサーとパーカッショニストの坪内夫妻は、二人でライブパフォーマンスも行う。
あつしさん:現代では音楽と踊りは別々で成り立っていますが、日本でも神楽や雅楽があるように元々二つはひとつで、音楽と踊りの始まりは宗教儀礼でした。
世界の多くの民族とセッションしてきたあつしさんの言葉を聞いてふと思った。音楽や踊るということは現代人にとっても、野生的な衝動を消化させる根源的な歓びなのかも知れない。それは嬉しいときに鼻歌を歌ったり、小躍りをする私たちも。
偽りなく好きだと思える何かに出会ってしまった人は、独自の道を切り開く。
人生を音楽と踊りで愉しむ坪内家を訪ね、そんなことを思った。
旅の想い出
坪内家の近所にあるローカルスーパーへ。
地域性のあるローカルスーパーは見ていて飽きない。
鮮魚コーナーには、お店オリジナルの海産物の加工品も。
さばの塩辛を購入して自宅でいただきました。
お酒のあてに最高な濃厚なさばでした。
取材協力
坪内家
坪内あつしHP http://tsubouchiatsushi.blogspot.com
SUNDRUM HP http://sundrum-web.blogspot.com
インターネットでもCD作品を販売中
OnlineShop https://tsubotabi.thebase.in
※今回の特集は民泊施設やゲストハウスは含みませんでした。前回の特集で取り上げた TOBI Hostel and Apartments に坪内家出演など、関係性も高いのでぜひチェックしてみてください。
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事