長雨が降り止めば、暑い夏の日差しに誘われ、人々は水辺を求めて動き出す。
自然豊かで数々の清流が流れる三重県。
特に近年益々注目を浴び、全国から人々が押し寄せているのが紀北町にある銚子川だ。
毎年特に夏休み頃には公道脇に車が列をなし、遠くから足を運んだ人も近隣住民も頭を悩ませている。
そんな状況を打開するため2019年今夏、
国道42号線が走る銚子橋付近河川沿いに約300台規模の無料駐車場が新しく整備された。
銚子橋付近は銚子川の中でも河口域にあたる。果たしてどんな場所なのだろうか?
せっかく遠方から銚子川に訪れるからには、川での楽しい思い出をたくさん作ってもらいたい。
そこで、夏休みで子どもたちで賑わう前に一足早く、実際に無料駐車場に車を駐めて銚子川を散策してみることにした。
では、水中メガネ越しに広がる世界へ行ってみよう。
河口付近も抜群の透明度 清流 銚子川
川遊びの前に、銚子川に関して少しふれておこう。
銚子川の特徴として注目すべき一つに、河口域の透明度の高さだ。
日本全国、世界各地で透明で綺麗な川は数多く存在している。
しかし、上流から下流、海へと繋がる河口域へ向かうにつれて水は濁っていくのが一般的。
では、なぜ銚子川は河口域でも透明度が高いのか?
それは、
- 大台ケ原を源流とする地層
- 小さな微生物の存在
- 太平洋の外洋に繋がる
などが関係している。
ここでは簡単には語り尽くせるものではないため詳細は避けるが、様々な要因が重なった結果なのだ。奇跡の清流と呼ばれる所以はそこにある。
銚子川のことをもっと知りたい人は、「NHKスペシャル 見えないものが見える川 奇跡の清流 銚子川(2019年7月18日発売)」の本を紹介しよう。ぜひ、手にとって読んでみてほしい。
新しく整備された無料駐車場の様子
銚子橋下上流側には砂礫をしっかりと固めた駐車場が広がっていた。
夏休み前のため車は少なかったが、ピーク時は混雑が予想される。線などの区切りはないため、徐行運転を心がけ追突などの事故には気をつけよう。
要チェック! 紀北町 国道銚子橋下駐車場MAP 上流部100台、下流部200台 PDF
膝下のみが温かい?銚子川の日常 ゆらゆら帯に感動する
銚子川に訪れたら、ぜひ体験してもらいたいのが「ゆらゆら帯」だ。
ゆらゆら帯とは、淡水と海水が混ざり合う際にシロップのような揺らめきが見える現象を指す。
ゆらゆら帯の場所は潮の満ち引きによって日々変化しているが、上流部の起点は新しい駐車場近くの銚子橋付近となるようだ。
ゆらゆら帯体の醍醐味は、川の上と下で水温の差を体験できることだろう。膝下が温かくて、膝上が冷たいという何とも不思議だ。
本来はどこの川でも日常的に発生している「ゆらゆら帯」。河口域の透明度が高い銚子川だからこそ、目で見て触れて体験できるのだ。
多様な生き物たちの生活がここに
銚子橋上流の駐車場から、目の前に広がる「まいこみ淵」付近を水中散策してみよう。
まいこみ淵は岩肌が特徴的で、透明度も抜群。ただ、水深が約6mもあり泳ぐ際は注意が必要だ。
透明度の高さは、生き物たちの生活に触れる機会も与えてくれる。ほんの一部だがここで紹介しよう。
銚子川の生き物 カワムツ
銚子川の生き物 ヌマチチブ
銚子川の生き物 ボウズハゼ
銚子川の生き物 カニ
生き物たちに出会えるのは、子どもの頃から変わらず、大人になってもやっぱり楽しい。
危険と隣合わせ 川遊びのための事前対策
山や海、そして川などの自然で遊ぶ際は十分に環境を理解して、対策をすることで未然に事故を防ぐことができる。
実際に銚子橋付近の銚子川を散策してみて感じた注意点を対策と合わせてまとめておこう。
1.水深が深いところがあり、水温も低い
銚子橋 上流の駐車場の目の前に広がる「まいこみ淵」は注意が必要だ。
川の水は冷たいが、特に底の方はさらに水温が下がる。ヒヤッとするため、身体がこわばってうまく動かないなんていうことも十二分にあり得る。もし身体が震えてきたら、無理せず陸に上がろう。
対策:ライフジャケットやウェットスーツを身につける。
2.足場が悪く、ツルッと滑る
特に流れのある浅瀬を歩いて渡ろうとする時に危険が潜む。水の流れで水中がとても見ずらいのだ。
滑るとわかった際は、引き返し別の道を通るなど、無理をしないことだ。
対策:滑り止めのきいたウォーターシューズを履く
3.スパッと切れる鋭利なモノがある
河口付近に近づくにつれて淡水と海水が入り交じる汽水域となり、岩牡蠣やフジツボなどの鋭利な貝が岩に付着している。ゆらゆら帯を観察する際は、手足の怪我に気をつけたい。
またトゲトゲの植物や尖った石などにも細心の注意を払おう。
対策:シューズや手袋を身につける。
他にもマムシやヤマビルなど、危険な生き物と遭遇する可能性がある。何にしても特に足元の装備はしっかりしておくに越したことはないだろう。
もちろん、十分な水分補給などの熱中症の対策も忘れずに。
守ろう 銚子川5つのルール
- 迷惑駐車はやめよう
- ゴミは持ち帰ろう
- 火気は焚き火台やバーベキューコンロを使おう
- トイレを使おう
- 大自然の恵みに感謝しよう
紀北町が提唱する銚子川5つのルールだ。銚子川で遊ぶ前に確認しておいてもらいたい。
どれも大切なルールだが、特に私が気になるのは「2.ゴミは持ち帰ろう(3.も関連)」だ。
今回の水中散策中にもバーベキュー用の金網?を見つけて回収した。
地域住民の話によると夏休み中にはさらにゴミが増え、毎年掃除に明け暮れるそうだ。
銚子川でのバーベキューはとても楽しいひと時を過ごせるのは間違いない。
だが、楽しいひと時と引き換えに「川を汚していく」というのは、あまりにも悲しすぎる。
私は高校生の頃、川辺を歩いていた際に尖った鉄パイプのゴミで右膝に一生モノの傷を負った。今回見つけたバーベキュー用の網も、もしかしたら誰かが怪我をする可能性もあったのだ。生き物たちへの影響も考えられる。
銚子川5つのルールを一人一人が当たり前のように守る。もちろん、私自身もだ。
銚子川の思い出を未来の自分たちへつなぐ
「生き物は以前に比べて随分減ってしまった」
そんな言葉を耳にした。
私は自然が変化を続けるのは摂理だとは思っている。
しかし、明らかに人がもたらした変化なのであれば話は別だ。
私たちには自然を慈しみ、気遣いができる心がある。
子どもの頃から川遊びで育った私にとって、「冷たい!」「魚がいた!」と子どもたちの声が響く川の光景は、とても微笑ましい。
5年、10年、30年後・・・・
思い出がつまった銚子川に成長した子どもたちが訪れる。
その時、今以上の生き物たちの憩いの場であったのなら、水中メガネ越しにはどんな世界が広がっているのだろうか。
今年の夏、銚子川で作る楽しい思い出。一度っきりではなく、ぜひ、未来の自分たちへとつなげてほしい。
奇跡の清流 銚子川 関連リンク
NHKスペシャル 見えないものが見える川 奇跡の清流 銚子川公式WEB
書籍「NHKスペシャル 見えないものが見える川 奇跡の清流 銚子川」NHKスペシャル取材班、内山りゅう・近藤玲介・平嶋健太郎・富川光・森哲也 山と渓谷社WEB
※.本記事は書籍「NHKスペシャル 見えないものが見える川 奇跡の清流 銚子川」を参考にさせていただいている。
濱地雄一朗。南伊勢生まれの伊勢育ち。三重県といっても東西南北、文化や自然・食と魅力で溢れていることに気づき、仕事もプライベートも探求する日々を過ごす。探求を続けると生まれた疑問、それが「何で◯◯が知られていないんだ」ということ。それなら、自分でも伝えていくことだと記者活動を開始。専門は物産と観光、アクティビティ体験系も好物。自身で三重県お土産観光ナビも運営中。