唐突だが、私は出張が好きだ。仕事が好きかと聞かれると即答できないが、出張は好きだ。出張先の地元グルメを食べるためにネットで情報も集めるし、観光地へ行くための時間も作りたい。
そんな私のもとにとある依頼があり、カメラマンと一緒にホテルを1泊2日で取材をした。伊勢市に育った私には同県内だが、あまり馴染みのない四日市市という町。
地元企業が経営する、地元のシティホテル。
やってきたのはプラトンホテル四日市。早速チェックインのためフロントへ。
フロントスタッフから、三重県各地の産品や郷土料理を朝食で提供している『みえの朝ごはん』を案内いただいた。
みえの朝ごはんってどんなのだろうと考えながら部屋に向かって歩いている途中、一人の若い女性スタッフがすれ違いざまに笑顔で会釈をしてくれた。あ、そうだ。家族への土産物は何にしようか決めていなかったので、スタッフを呼び止めた。
質問すると、立ち話もあれなのでとイスに案内してくれ、どんな土産物を求めているのか、細かく質問をしてくれた。私は地元で人気のスイーツを知らないかと訪ねると、
女性スタッフ:タンブランという人気のスイーツ店があります。カフェも併設しているので一度お立ち寄りいただくのもよい想い出になりますね。
聞くと女性スタッフは四日市の出身。地元の有力な情報を得られた訳だ。
私見だがスタッフの対応が柔軟な好印象で私はなんだか嬉しくなり、もう少し話を聞いてみた。そんなスタッフの心地よい対応はどこからやってくるのだろう。しばらく考えた末に、こんな話をしてくれた。
女性スタッフ:リピーターのお客様に名前で呼ばれることもあります。お土産をくれる常連さんもいらっしゃるんですよ。お客様にどう寄り添うのかを常に意識しています。
なるほど。一つ腑に落ちたことがある。
プラトンは所謂チェーン展開しているホテルではない。したがって、スタッフの転勤がないため常連客と顔なじみになり、ひとりの人として名前で呼ばれる関係性ができる。
製造業が基幹産業である工業のまち四日市市は、県外からも多くの出張客がやってくる。そんな客にとって顔なじみのスタッフがいるホテルは、友人が営む飲食店などに行くような安心感があるのではないだろうか。
宿泊する部屋に入ると、至ってシンプルな印象を受けた。
これという特徴があるわけでもなく、最新の設備でもない。しかし清潔感があり、ビジネスホテルより広めの印象だ。この後、支配人を取材することになっていたので、インタビュー内容をまとめて部屋を出た。
弱みは足し算して、強みは掛け算するチーム。
約束場所である2階のロビーに向かうと、支配人が出迎えてくれた。まず先程のスタッフの対応が素晴らしかったことを伝え、支配人として大切にしていることとは何なのかを質問した。
支配人:スタッフそれぞれの弱みは足し算して、強みは掛け算をする。そういうチームづくりを支配人として大切にしています。
一方、支配人はスタッフ個々の主体性も大切にしているという。
支配人:会議でパートさんがアイデアを出してくれることもあるんですよ。ここで働くみんなが、意見をいいやすい雰囲気をつくることに気をつけています。若いスタッフが直接私に意見をいいにくるみたいなことが、ここでは日常です。
そう嬉しそうに語る支配人。しかし、なぜそのような方針になったのだろうか。ホテルの支配人になる前、飲食店の経営に携わったときのエピソードを話してくれた。
支配人:過去に成果だけをスタッフに求めた時期があったんです。プロセスの説明はいらないからって。後になってそれがスタッフをどれだけ追い詰めることなのかを知り、このままじゃ上司としてダメだと思いました。私も間違ったことをいってしまうし、よく謝っています。でもスタッフが失敗しても怒らないようにしています。恐怖心は人の考えを萎縮させますから。失敗してもなぜそうなったのか、プロセスをしっかり話し会うようになったんです。
さらに支配人は話を進めた。
支配人:でも仲良しこよしになりたいわけではないんですよ。スタッフには、たくさん働く場所がある中、プラトンを選んでもらった。そして人生の半分くらいは仕事をしていると思うと、やりがいを持って一緒に物心豊かになっていきたいです。あと大切なのはお客様に喜んでもらいファンになってもらうということを、スタッフに伝えています。この地域は新規参入のホテルも多くここより設備が新しいところもある。その中でプラトンを選んでくださるお客様がいます。なので、ただでは帰さないです(笑)。
そう笑いながら明るく話す支配人は地元商店街組合の理事長も務めるなど、地域との繋がりも大切にしている。
支配人:ここが宿泊でなくても地域の人が集う場所になり、宿泊する人が地域と繋がれることで、四日市のランドマーク的な場になればと、将来に向けていろいろと準備に入っています。
そんなプラトンホテルにはいくつかの飲食店が入っているが、中でもおもしろい取り組み『ザ・カウンター』がある。飲食店を開業したい地元の人向けに期間限定で店を貸し出す、三重県初レンタル店舗型飲食店だ。
一日目の取材も終わり、ホテル内にあるイタリアンバル ヴィーノで夕食をとった。
イタリア小麦を使い石窯で焼き上げたピザ、三重産真鯛のカルパッチョ、三重のスモールファーマーズの野菜を使ったバーニャカウダなど、地元食材も愉しめるヴィーノ。
店長(シェフ兼任)に話を聞くと、ヴィーノは宿泊者ではない地元客の割合の方が多いという。地域にも親しまれている店だ。
はじめて訪れたホテルで感じた、安心感と幸福感。
食事を終えて部屋にもどり、今日一日を振り返っていた。
今日出会った人はみんな個性的で、初対面なのに昔からの知り合いのような親しみを感じた。
ひとりの人として接客をするスタッフ。
まるで家族のようにスタッフを育てる支配人。
そしてこのホテルで働いている人の体温みたいな何かが、まだ自分の中に残っているような気がした。はじめて訪れたホテルにも関わらず、私は心地よい安心感と幸福感を覚えながら眠りにつけたのも、きっとそのおかげだ。
翌朝、昨日からずっと気になっていた『みえの朝ごはん』をいただいた。
南伊勢産の魚の干物、志摩地方の郷土料理である鰹の手こね寿司、松阪牛の牛すじカレーなどビュッフェ形式で愉しめる。私は出張先や旅先の朝、タイトなスケジュールの中で1日の活力を得ることができるのが朝食だと常々思う。
朝食後、四日市の町並みと奥に広がる伊勢湾に浮かぶ船を眺めながらコーヒーを飲み、店内の地元生産者さんの写真からは「今日もがんばって行ってらっしゃい!」と背内を押してくれているようだった。部屋にもどり支度を整えチェックアウトをしてホテルを後にした。
気が付けは身も心もフル充電。
仕事が好きかと聞かれると即答できないが、やっぱり出張は楽しい。
その地の食や人の魅力との出会いは、元気を与えてくれるから。
プラトンホテル四日市
四日市市西新地7番3号
TEL 059-352-0300
HP https://www.platon-hotel.co.jp
FB https://www.facebook.com/platon.hotel
IN https://www.instagram.com/platon.hotel
採用 https://ameblo.jp/platon-jinji/
※みえの朝ごはんは、ご宿泊以外のお客様もご利用いただけます。
濱地雄一朗。南伊勢生まれの伊勢育ち。三重県といっても東西南北、文化や自然・食と魅力で溢れていることに気づき、仕事もプライベートも探求する日々を過ごす。探求を続けると生まれた疑問、それが「何で◯◯が知られていないんだ」ということ。それなら、自分でも伝えていくことだと記者活動を開始。専門は物産と観光、アクティビティ体験系も好物。自身で三重県お土産観光ナビも運営中。