あなたはアンティークはお好きですか?
では、さびたモノなどもお好きで?
もしかしてアートやデザインもお嫌いではないのでは?
これらの質問にYESであるアナタに、ぜひともおすすめしたい場所があります。
今回はクセになる人にはたまらない “ちょっとキワどい感覚” までご案内いたします。
【 自 然 に 還 ろ う と す る モ ノ 】
お茶の栽培が盛んな山間の田舎町、大台町。
ここは熊野街道伊勢路。
澄んだ空気、昔ながらの趣のある街並み、レトロな古民家。
そこにアートがあったならば・・。
あった。
診療所だった建物をリノベーションした、nijiiro。
ここを何屋と呼べばいいのか。
アンティークの雑貨屋、作家の作品販売、カフェ、ギャラリー・・。
そうやって言葉に起こすほど、何か違うと感じる。
隅から隅へと観察したくなる一品一品の独特な存在感に、ぐっと引き寄せられる。
店内はアート感に満ちた空気。
“そのまま暮らしに取り入れることができる古いもの”
“少し手入れをしたり、組み合わせることで新しく生まれ変わる古いもの”
“時間の流れや本来の役目から解放された名もなきもの”
自分たちが大切にしたいと思えるものを提案します。
(nijiiro HPより)
そう、何屋という枠で考えていたからしっくりこなかったのだ。
正しく書くと、ここはnijiiro original products & antique の実店舗。
アンティークの家具やプロダクトまた看板などを手がけるnijiiroのオリジナル商品や仕入れた商品、さらには拾ったモノまでnijiiroフィルターを通したモノが売られている。
お店を営んでいるのは大台町に育った稲葉直也さんと、おとなり大紀町に育った奥さん。
もともと絵が好きだった直也さんは、映画の企画の仕事に就いた。
直也さん:でもね、映画の仕事で人と一緒になにかを創り上げるっていうのが、向いてないなって。あらためてわかったんです(笑)。
2011年頃から大台のアトリエで家具や道具、オブジェなど、自分が欲しいと思えるものを創り始めた直也さん。
直也さん:そのうち創ったモノを「欲しい」といってくれる人があらわれはじめて。当時はアトリエまで来てもらっていたんですが、ここみたいな場所を作って来て見て世界感を知って欲しいと思うようになったんです。
2017年にこの実店舗が完成。土曜日のみ営業している。
店内にはコーヒーの香り。
nijiiroはクライアントとオリジナルコーヒーのパッケージを手がけたり、大台のお茶も共同で開発している。
私:やっぱり奥さんもこういったアートな世界感は好きですか?
奥さん:アンティークの家具などは好きですけど・・。どんどん増えていくんです。よく理解できないモノが(笑)。
直也さん:ちょっとキワどいのもあるでしょ。
そういって直也さんが見せてくれたのが、さびた鉄の棒。
直也さん:地球に戻ろうとしているというか土に還ろうとしているというか。この感じがいいです。
なんだろう。わかるような気がした。
鉄は加工される前は土と同じように自然の天然素材。
自然に還ろうとするところに、死生観を重ねるのは私だけだろうか(私、暗い?)。
直也さん:これはかなりキワどいですよ。
私:うっわぁぁ〜(笑)カッター・・。
じわじわと笑いが込み上げてきた。
直也さん:おじいさんの机の引き出しにあったんです(笑)。
瞬時にその光景を想像できた。
そうか、モノにも物語があるのだ。
この界隈の古い街並みも、丁寧に補修されている古民家も。
モノだけじゃなく、たとえば豆腐屋の軽バンがならす「ぱぁ〜ぷぅ〜」というラッパ音にも。
人が生きて見てきた景色が頭の中で画像や映像になることが物語であり、ノスタルジックに浸る快感だ(やっぱり私、暗い?)。
ところで売れ筋商品はどれなのでしょう。
直也さん:nijiiroオリジナル「青い星のかけら」シリーズが最近人気です。銅でできていて、ガス溶接で創ります。古いやり方です。フリオ・ゴンサレス(鉄彫刻を手がけた最も初期のスペインの彫刻家)に近い手法です。
直也さん:近くにあるインバウンド対応の民泊に泊まっていた外国人が、黙ってこれを買っていったんです。なんかもう、めっちゃ嬉しくて。
免税店とか畳にベッドとかではなく、こういったのをインバウンドと言いたい。
【 自 分 の 中 に み る 他 者 の 存 在 】
武司さん:よう来てくれたね。まあ、観ていって。
オリジナルの[PAIN]と書かれたTシャツに身を包んでいるのは、以前に記事でもご紹介した、伊勢市河崎の奇才クリエイター中谷武司さん(記事はこちら)。
今回、nijiiroで武司さんの展覧会開催に際し、レセプションにおじゃましたのだった。
藁でビンを包んだモノを直也さんが武司さんに手渡し、それを武司さんが作品にしていた。
タイトルは、H E I S E I 。
ビンには小さな筒状の穴があり、その穴を塞いで平成の空気が500cc入っている。
さらに作品の下には、武司さんが以前にここで入手したという、明治時代の医学書。
開かれているページには、甲状腺に関する図。
この展覧会の作品を簡素な印刷物としてまとめた、図録のような見開きリーフレット。紙を引っぱる。
“no nukes(放射線嫌い)”
以下、リーフレットの作品解説を抜粋。
be conscious of others
(自分の中にみる他者の存在)
嫌悪や増悪と共にある宗教に人種迫害そして原子力問題など、何よりも残念なのは、他人のせいにだけ終始すること。
まだしも我々がニンゲンという不出来な生き物であることを認め、それを創造した神に残念を訴える方が、諦めもつくというもの。
中谷武司。
すべてを書いてしまうのは来場者の愉しみを奪うことになるので、この続きは会場で。
今回の絵「Boys and Girls」は映像を投影することで、インスタレーション作品にもなる。
武司さん:床の間も同じこと。インスタレーションなんです。そう考えると2畳の茶の間を設計した千利休の考え方が、いかに前衛的だったのか。
千利休が残した “わびさび” という日本の美学。
あなたも山間の歴史を感じる芸術空間で “わびさび” いや “さび” の美学を感じに行きませんか。
Boys and Girls
中谷武司 展覧会
2019/6/8(土)〜7/27(土)
OPEN 11:00ー18:00
※土曜日のみの営業になります。
nijiiro
三重県多気郡大台町新田31
hp http://www.nijiiro-7.com
fb https://www.facebook.com/nijiirosns
取材協力
中谷武司協会
伊勢市河崎2丁目4-4
hp http://www.emelon-shop.net
fb https://www.facebook.com/Takeshi-Nakatani-Associates-262323074474914/
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事