“常にゾーンに入っていてワクワクしてたいから、気持ちのスイッチは入れっぱなし。ワクワクしてると次から次へとアイデアが浮かぶし、勝手にワクワクして何かしてたら人も集まってくる。ワクワクしてる奴って最強なんです”
大阪弁でロックスターのようなことをいう養殖漁師がいる。
“新しいレールを敷くんです。デザインって今までと違うことすることでしょ。200年、300年続いてる祭りを「なんで今せなあかんねん」って。それも大事やけど、俺はこれから200年、300年続く祭りを今から作っていく”
彼は確かに漁村をデザインしている。ここで書くデザインとは視覚表現のことではなく、機能や仕組み、そして夢を描き行動する創造性のこと。
“俺らのライバルは東京ディズニーランドやUSJ。そこの無人島なんて見てるだけでワクワクする”
真っ黒に日焼けした顔。ゴツめの体格。
目を輝かしながら、養殖漁師の話は止まらない。
“国産の食材なんて当たり前なんです。俺はお客さんに幸せを感じてもらう “感幸業” がしたい。他の地域とも繋がってローカル×ローカルでより地域の魅力を。目指しているのは地域に惚れるトータルデザインなんです”
浅尾大輔さん、40歳。
全国を旅した後、大阪から鳥羽市浦村町に移住し牡蠣小屋を始めた先駆者。始めはドラム缶をぶった切ったコンロで屋根すらなかった。次第に人気になりお金ができたら屋根を付ける、そんな具合で牡蠣小屋は成長していった。牡蠣をはじめワカメなどの海藻も手がける養殖漁師だ。
浅尾:水産物は何でも「養殖より天然が良し」っていう風潮があるでしょ。そんなことないって。天然の牡蠣とかワカメなんて食えたもんじゃない。
浅尾さんが代表を努め浦村の漁師からなる浦村アサリ研究会は、第52回農林水産省祭中央審査会の水産部門最高賞である天皇杯に選ばれた。浅尾さんは日本最年少での天皇杯受賞となった。
浅尾:アサリの赤ちゃんがこの辺にいるのは分かってたんです。この浜も昔はアサリが良く獲れてたらしい。でもほら、少し掘るとヘドロの後が。
酸性となったヘドロの後には、いくらアサリの赤ちゃんが住みついても成長することができない。アサリはアルカリ性の住み家を求める。
そこで浅尾さんらは牡蠣を生産するときに出るアルカリ性の牡蠣殻を加工したケアシェルと砂利を混ぜ網袋に詰めた。浜にいくつかの網袋を置くと、網袋のまわりの浜がアルカリ性になって、そこにアサリが住み着くと考えたのだ。
浅尾:でもダメで。「アサリおらんわ」って。諦めて袋を回収し始めたんです。そしたらひとつの袋の中にアサリが入ってて。「あぁ、だれか親切にアサリを入れてくれたんやな」て思ってたら、全部の袋の中にアサリが入ってて。「あれ・・アサリおるがな。袋の中におるがな!」って(笑)。
冗談みたいな本当の話は続く。
浅尾:俺、カゴ網漁(簡単にいうとイノシシなどを捕まえるガシャンと入り口が閉じる檻の仕組みの海版)が好きで。それで鳥羽商船(高専)の先生と一緒に “UFOキャッチャー” をヒントに “YOU魚キャッチャー” 考えたんです。スマホとかでカゴを見ながらボタン押したら入り口が閉じて、スマホで捕まえた魚が次の日家に届くとか、旅館とかで食べれる仕組みです。
海を眺めながら浅尾さんの話を聞いていると笑いを通りこし、ちまちまと原稿やデザインを書く仕事をしている自分が小さく感じてくる。胸をすく大きなビジョンに吸い寄せられ、お話を続けていただいた。
浅尾:浦村にきて「ここは宝の山や」と思った。海はこんなにオモロイのに何でみんなやらんのかなって。ええもん見つけたなって。
そんな浅尾さんの暮らす浦村には、県外からも若者が移住している。静岡県から移住したシンペイさんも移住者の一人。
浅尾:シンペイは今は “ギョギョリーマン”。浦村だけじゃなくて知り合いの漁師のところにも勉強に行ってます。以前は宿泊業の仕事もしてたから、浦村に民泊施設も作っています。
漁の知識をベースに、いろんな特技を活かしているシンペイさんの目指して欲しい先を、浅尾さんはこういった。
浅尾:“ギョギョリーマン” から独立してやっていける “実魚家” になって欲しい。そんな人たちの集まりで “実魚団” をつくりたい。せやから “ギョギョリーマン” いっぱい募集してます。どんどん浦村に遊びにきて欲しい。
そんな仲間と漁村で未来のテーマパークを作りたいと熱く語る。
浅尾:例えばお客さんが昼過ぎに到着して、とりあえず牡蠣焼いて食べて、そのあとは漁師体験したりクルージング。獲れた魚でBBQしたり。子どもの教育にもいい。
でもそれを実現するには、課題もあるという。
浅尾:アトラクションはあるけど、ツアーコンダクターやツアーガイドがいるなぁと。あと魅力的に見せてくれるデザイナーとか、「浅尾は前に出すぎるな」って言ってくれるクリエイティブマネージャーとか。浦村に暮らして漁をしながらクリエイティブな仕事も一緒にしたら、楽しいと思うけど、知り合いおらんかな?
うん、おりそう。
何人かの若者の顔が浮かんだ。というか私自身、抱えているものが今より少なかったらなーとギョギョ暮らしを夢見ていた。
どなたかギョギョリーマン、しませんか?
浅尾:あれー、ハマグリそんなに獲れたん!?
浜から帰りの準備をしていたとき、同僚に漁師に話しかけるとみんな笑った。
浅尾:アサリより高値やん(笑)。
アサリが入った袋のまわりの浜に、ハマグリが住み始めていた。
“勝手にワクワクして何かしてたら人も集まってくる” 。私は浅尾さんの言葉を思い出した。浅尾さんが勝手にワクワクしていたら、ハマグリも集まってきたのだ。
浦村を後にして、同市内にある今夜の宿に向かった。
ゲストハウス カモメnb.
やってきたのは週末などに観光客で賑わう鳥羽の市街地。
近鉄鳥羽駅から歩いて数分のゲストハウス、カモメnb。
運営しているのは、地域をよく知るライターの鼻谷年雄さん。
駐車場を改装してつくった、このスペースが目印。
鼻谷:食材買ってきてここでBBQをしたりするんですよ。小さな本屋もやりたいなと思ってます。
街中でBBQができるとは魅力的。そして目の前には川が流れ、すぐそこには山。
川は海に近く魚も泳いでいる。
鼻谷:あ、アナグマや!(すみませんシャッター間に合わず!)ここには海の魚、空の鳥、山のアナグマまで街中やのにいろんな生き物がやってきます。なんかこの環境が好きで。
鼻谷さんは東京の編集社で働いたあと、ワーキングホリデーでオーストラリアに暮らした。
鼻谷:オーストラリアから東京に戻ろうとは思いませんでした。海外にいると東京と三重という二軸で考えることがなくなって。
三重に戻った鼻谷さんは地元新聞社で記者として勤めたあとフリーランスのライターになり、ゲストハウスもオープン。宿泊はヨーロッパや台湾などの外国人も多いという。
鼻谷:おもしろいですよ、やっぱり。外国の人や旅人と話しているとこちらも旅行気分です。オーストラリアを旅して、人と仲良くなる感じが好きになったんです。
先日もスペインのサンセバスチャンからきたシェフと、仕事がてら海女さんの祭りに一緒にいったという。
鼻谷:海女さんや漁師さんの暮らしは、畑や旅館を兼業していたりして、自分もライターだけじゃなくてもいいなって思うんです。
一つのことに縛られない暮らし。小商いという言葉がトレンドになる今っぽい生き方だと思った。
鼻谷:過度に都会でも田舎でもないここが僕にとっては快適で。近所にコンビニがないと不安やし(笑)。
今回は取材ということもあり、地域を熟知するライターでもある鼻谷さんに散策にお付き合いいただいた。
その後、夜ご飯のお店を紹介してもらったが、あいにくイチオシのお店が休みのため考えを巡らせていただき・・、
鼻谷:あ、とんとん!とんとん行きましょ!
地元民に愛されている感じの店構え。
聞くとおばあさんが一人で営業しているという。
鼻谷さんおすすめのちゃんぽん麺を注文。
見た目にはわかりにくいが、トロっとしたスープが麺に絡み美味しい。
店の人:今年で37年目。もともとは中華料理を辻調理師専門学校で勉強した娘が開いた店です。当時は観光客が多くてよう流行ってな。旅館からカランコロンってゲタ履いて。
昔は夜12時まで営業していて、最近までは夜11時まで。
今は夜10時と、それでも遅くまで店を開けている。
昔この界隈はスナックなどが多く、シメの一杯を求めるお客さんで夜中に行列ができるほどだった。
それにしてもとんとんという店名の由来は?
店の人:娘が敦子(あつこ)という名前で、敦=とん、と読むのでとんとんです。
今でも娘さんのレシピを元に改良を加えながら、地元民や観光客のおなかを満たす味にファンは多い。
店をあとにしてゲストハウスに戻ると、二人組みのおばちゃん。
ゲストハウスにはいろんなお客さんがいる。
明日、志摩市で伊勢海老まつりがあり、ステージで鳥羽市出身の演歌歌手山川豊さんのショーがあるので名古屋から泊まりにきたそうだ。
お二人は山川さんのファンとして知り合い、一緒に海外にも行く仲になった。
そんなことってあるのだなと、たわいもない会話も楽しい。
布団に入るにはまだ時間が早かったので近所のコンビニで缶酎ハイを買い、川を眺めながら一日を思い返し話しを続けた。
ここからすぐ近くに鳥羽水族館やミキモト真珠島があり名古屋や大阪からの交通の便もいい。さらにおとなり伊勢市には伊勢神宮もあるという観光地。
鼻谷さん:この町を上から眺めると、ジオラマみたいなんです。電車が走りその横にクルマが走り海には船が走っていて、山と海の距離も近い。なんかワクワクしません?
視点を変えると、何気ない街並みが魅力的に見えてくることがある。
旅をするとき、人はワクワクしていることが多い。そういう時の視点はより多くの魅力を発見するのかも知れない。そして、そこにいる人や暮らしにふれることで、旅の魅力はぐっと深くなる。
ワクワクしながら漁村の未来をデザインする養殖漁師。
ワクワクしながら自分が快適だと思う場所にゲストハウスを作ったライター。
あれ、最近ワクワクが足りてなかったかも・・。
そんなときは、ふらっと暮らしを旅してみるのもおすすめです。
次回の特集「人に会いにいく旅」は、志摩でアートを旅する。
ご期待ください。
旅の想い出
志摩市あづり浜の絶景を眺めながら、三重の食材を愉しめるCloud 1 dining 縁。
三重の一次産業者の食材をふんだんに盛り込んだ、Cloud 1 プレートランチを始め、旬の食材を愉しめます。
この日いただいたのは浅尾さんの牡蠣を贅沢に使ったパスタ。
スタッフさんは地元志摩出身。
最高のロケーションで地元の味を愉しむ、贅沢なひととき。
ここにはゆったりとした時間が流れています。
取材協力
孝志丸(たかしまる・浅尾大輔)
鳥羽市浦村町今浦1-12
tel 0599-32-5916
hp http://takashimaru.net
ゲストハウス かもめnb
鳥羽市鳥羽1-5-8
tel 0599-24-0073
fb https://www.facebook.com/guesthouse.toba/
Cloud1 Dining 縁(えにし)
志摩市志摩町越賀2249-13
tel 0599-85-7889
fb https://www.facebook.com/cloud1dining/
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事