ぐつぐつと土鍋から湯気が噴き出す、煮込うどんが恋しくなる冬。
今回出会った一杯の煮込みうどんは、文字通り身体の芯からあたためてくれた。
私は仕事で志摩にいた。
お昼時を過ぎたころ、クルマを運転していると一件の気になる店を見つけた。
同行していた志摩に詳しいカメラマンに聞いたところ、美味しいと評判の店のようだ。
飾り気はないがしっかり手入れされた店構え。
メニューを眺めていて気が付いた。
煮込うどんの店だが天ぷらなどはなく、鶏や玉子そして合鴨のみ。
老舗感のある店構え、シンプルなメニュー。
常連に愛されている店であるのは、間違いなさそうだ。
私と臨時アシスタントは合鴨煮込うどんを、カメラマンはカレー煮込うどんを注文。
女将さん:ちょっと時間がかかるけど、いいですか?
煮込うどんを待つ間、おでこの絆創膏がなんとも愛らしい赤ちゃんを抱いた娘さんに話を聞いた。
娘さんは出産をして、子育てをしながら店を手伝っている。
父(大将)と母(女将)が中心となり大女将も一緒になり店を切り盛りされているとのこと。
私が店でアットホームなあたたかさを感じたのは三世代、いや赤ちゃんも含めると四世代家族がつくる空気感だ。
しばらくするとぐつぐつと音をたて、煮込うどんがやってきた。
口に運ぶ。
ん?すごい食感。
太麺のそれは、うどんをすするというよりうどんを噛むという感じ。
名古屋などで食べる煮込うどんのように、麺は固めだ。
そして噛むほどに染み込んだ出汁と合わさり、美味しい。
一般的に煮込うどんの出汁は辛めの味噌だが、ここの出汁は角がとれたやさしさのある味噌。
写真を撮ったり娘さんと話をしながら食べていると、大将と女将さんが出てきてくれた。
大将:お出しするのが遅くなって、ごめんなさいねー!
私たちが入店したのは確か14:00を回っていた。
なんでも昼用に手打ちしたうどんは、私たちがオーダーした時点で残り二食分だったため、新たにうどんを打っていて料理の完成が遅れたとのことだった。
少し想像してもらいたい。
あと二食しか手打ちしたうどんがないのならば、店として注文を断ることだってできる。
すみません。あと二食しからないから、そばや丼物でもいいですか、と。
しかしこの店はそんなことはしなかった。
不足している一人前のうどんを、手間暇かけてわざわざ打ってくれたのだ。
私はその心意気に感動していると・・。
女将:二世代、三世代と世代を超えて来てくれるお客さんもいるんです。ありがたいことに。
もし私の家の近所にこのお店があったら、私もきっとそのような常連になるだろう。
しかしあの煮込うどんの食感、どうやって作っているのだろうか。
大将:ここのうどんは、打った麺をお湯でゆでずに直接土鍋で出汁と一緒に煮込みます。なので打ったうどんが余ったら、他に使い道がないです。その日の打ち立てのうどんを使っています。
大道の煮込うどんの製法、打ち立てにこだわる心意気。
ますますこの店が好きになった。
私:みなさんの集合写真を撮らせてもらってもいいですか?
すてきな「家族写真」だと思った。
Photo y_imura
かなや
志摩市阿児町鵜方3061-244
tel 0599-43-3635
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事