【 朝 】
朝6時。
雨の神宮。
ここにいると嫌いな雨が、恵みの雨に感じる。
昼間は観光客でいっぱいのおはらい町。
さすがに早朝はだれもいない。
この地域は伊勢志摩国立公園。
山と海、そして太陽の神様。
その間で人は暮らしている。
この日は空と海の境目が、ぼんやりとあいまいだった。
海では荒れた波が、岩肌を飲み込もうとしているみたいだ。
陸では、緑が小屋を静かに飲み込んでいた。
ここは海女発祥の地、鳥羽市国崎。
神宮に熨斗鮑を献上して2000年の歴史を持つ。
【 昼 】
女性の願いを一つ叶えるという石神さんで有名な鳥羽市相差。
平日の昼間だが、観光客らしい人が次々と石神さんのある神明神社に向かっていった。
気が付くと、雨は上がっていた。
開店時間より少し早かったが、お店を開けてくれた。
石神さんの近くにある久兵衛。
海女さんと聞くとご年配の方を想像する私だが、現役海女リサちゃんは若かった。
相差に産まれ育ち、都会にあこがれ一度はここを離れたが地元に帰ってきた。
一人でお店を切り盛りしながら、海女漁も行っている。
地元に帰ってきたとき、海女さんになるつもりはなかったらしいが、知り合いに「リサちゃん、きっとハマるで」と薦められ、海に潜ってみたところ面白かったという。
地元で捕れた、旬の魚のお刺身定食。
これもリサさんが一人でつくっている。
料理を学んだのは、おとなり志摩市の居酒屋。
新鮮な魚は、歯ごたえが絶妙で美味しかった。
個人的に、新鮮なアジがこんなに美味しい魚だとは知らなかった。
サービスで出してくれた、デザートの寒天。
優しい甘さが疲れを癒してくれた。
ちなみにこの寒天も、リサさんが海で天草を獲り一から手作り。
今は徒人(かちど)といって、歩いて比較的浅い海に潜る海女漁をしているリサさんだが、船の免許が取れたら船人(ふなど)といって、船で深いポイントに行って潜る海女漁にも挑戦したいという。
好奇心を持って自然とともに生きるリサさんを、少し羨ましく思った。
リサさんに、久兵衛の斜め前にあるお土産や日用品を販売している中辰商店の人も、海女さんだとお聞きして早速お邪魔した。
なんともかわいらしい看板が目印の中辰商店。
こちらもかわいい赤ちゃん・・、
のお母さんが海女さんである、あやみさん。
金魚のお世話していたあやみさんに、少しお話を伺った。
あやみさんは現役海女さんとして、雑誌のモデルも務めた経験を持つ。
そして5人のお子さんを持つお母さんでもある。
店内にはお土産物や食品、お酒などが売っている。
実は私は別件で、若手海女さんの撮影仕事がありモデルを探していた。
そのモデルをあやみさんとリサさんにお願いしたいと申し入れると、快諾いただいた。
後日、海女漁の時の姿で撮影させていただくことになった。
店を出ると犬が気持ち良さそうに昼寝。
ここは時間がやさしくゆったりと流れている。
【 夕 】
後日、撮影のために訪れたのは、中辰商店の近くにあるライブハウスだった。
あやみさんのお父さんが、趣味で始めたライブハウス。
町外のアーティストのライブなどが行われている。
歩いて数分、相差の海。
あやみさん:赤い方が息子です。魚を捕まえてくることあるんですよ。「かあちゃん、魚捕ったで」て。
暮らしの豊かさって何だろう。
仕事を終えるころ、空に月が出ていた。
自然とともに生きる人は、穏やかなお日様のような温かさがあり、月のように優しいオーラがある。
そんなことを、石神さんがある町、相差で想った。
海の食堂 久兵衛
鳥羽市相差町1231
tel 0599-33-6808
中辰商店
鳥羽市相差町1423
tel 0599-33-6008
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事