このぉ〜、イカ野郎・・。
素振りし過ぎて、指にイカができちゃって・・。
耳にイカができるくらい聞いたわ・・。
イカでは迫力が足りない。
そこは、タコでなくては。
土用のタコは親にも食わすな。
という言葉があるくらい、タコは美味しい。
刺身でも煮ても揚げても良し。
そしてタコヤキも。
丸いフォルムにドロっとした褐色のソース。
マヨネーズビームと青のり。
鰹節が、アツアツのそれの上でゆらゆらとおどる。
シズル感たっぷりのタコヤキに誘われ、口にほおばる。
「あふぅ!あっ!あっつ!」
外はカリっと、中はトロっと。
それは世の中の美味しい食べ物に共通する法則のひとつだと、私は勝手に考えている。
外カリ、中トロ。
無論、タコヤキも例外ではない。
さらにタコヤキは、タコのコリっとした食感がある。
外カリ、中トロ、後コリ。
これは3Dなのだ。
食感に立体感がある。
ごはんのおかずにはならないけど、酒のあてにもってこいだ。
アツアツのタコヤキを冷えたビールで胃袋に流し込む、至福のひととき。
鳥羽や志摩の海には、宮川などから山の養分を豊富に含んだ水が流れ着く。
養分を含んだ水はプランクトンを育て、そこに小魚が、そして小魚をめがけて大きな魚もやってくる。
比較的海面の浅いリアス式の海では、そのような水が海藻を育て、海藻をエサにする鮑などが育つ。
それらをエサにしている伊勢海老も育つという、恵まれた海だ。
そして贅沢にも伊勢海老やアワビなどをエサにしている、タコ。
そんな産地で、タコヤキを食べたい。
おかあちゃん:おう、また来てくれたん。まぁ、座ってなぁーあ。
店のおかあちゃんは、昔からの知り合いのようにいつも迎えてくれる。
最初に訪れたのは、昨年に穴子丼の記事を書いたとき。漁村の店だ。
そのときに、近所の人がお持たせ用にタコヤキを買っていたのを覚えていた。
私:タコヤキのタコって、ここで捕れたもの?
おかあちゃん:タコも穴子もそう。今日のタコはちょっと小さいけどなぁーあ。あ、今日は鰻もあるから焼こかー?
三名で訪れていたので、穴子丼と鰻丼、そしてタコヤキを注文した。
クルクルっと焼かれ出てきたタコヤキ。
ここで食べるからこそのタコヤキ。
美味しいのはもちろん、ゆっくりと話すおかあちゃんとの時間がとても贅沢な気がした。
食感が絶妙で素材の味を活かした、甘ったるくない穴子丼もやっぱり美味しい。
鰻丼もしっかりとした歯ごたえがあり、いかにも天然物という感じがした。
その地のものをその地でいただくという、贅沢。
メディアやインターネット、グルメ本に載っていない店。
飾り気もないし、商売気もない。
しかしそこには、やさしく懐かしい時間が流れている。
その後もここで捕れた魚やカニを焼いてくれたり、おかあちゃんが漬けた漬け物を食べ比べしたり、口なおしにサクランボもいただいた。
お茶を何杯も淹れていただきながら、たくさん話をした。
いつまでも居たくなるのだが、お会計をしてもらった。
私:これ間違ってますよ。鰻丼と穴子丼の値段しか入ってない。
おかあちゃん:ほんまぁーあ。まぁ、ええよ。
私:いやいや、あかんよー。
あかあちゃん:ほんなら、タコヤキ代だけ。
ごはんのおかずになれないタコヤキ。
お会計に入れ忘れられていたタコヤキ。
でも、まるくてやわらかいそんなタコヤキが、私は好きだ。
和具浦荘
三重県志摩市志摩町和具2237-1
tel 0599-85-0003
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事