ホーム 03【お店へ行く】 トンガ坂文庫。尾鷲市九鬼の漁村にできたアートな古本屋。

トンガ坂文庫。尾鷲市九鬼の漁村にできたアートな古本屋。

自分の本棚を、他人に見られるのは、なんだか恥ずかしい。
でも、本とは不思議なもの。
時に、日常の煩わしさを忘れさせてくれる。
時に、人の考えをも変えてくれる。
そんな一冊に出会えることは、とても幸せだと思う。

私事で恐縮だが、欲しい本があるとアマゾンで注文。
早ければ、翌日や翌々日には手元に届く。
素晴らしいことだが、もう一つの方法で本を買うことがある。
それは、ふらっと入った本屋などで、どうしても気になる本を買う場合だ。
出会ってしまった一冊、という感覚だろうか。
そういう本に限って、ずっと好きな一冊になることが多い気がする。

前置きが長くなったが、今回は漁村にできた古本屋の話をしたい。

 

人口約440人の漁村。トンガな奴がいた坂で。

三重県尾鷲市の街を抜け、くねくねとした山道を抜ける。
クルマで津ICから1時間と少し。
尾鷲市九鬼町に到着。

視界に広がる海と山と空。
家が寄り添うように建っている。

クルマから降りると開放感を感じるのは、海と道の間にガードレールがないからかも知れない。

尾鷲銘菓「虎巻き」

ここは九鬼水軍で有名な九鬼氏発祥の地でもある。

古本屋の話の前に、網干場食堂の話をしたい。
約4年前に東京から移住した若者が、九鬼の町の人と一緒に運営している。

取材日、キツネカツオなどのお刺身定食をいただいた。

地元で捕れた魚を、地元の方が調理。
元喫茶店を改修した食堂は、レトロな雰囲気を残す。

少し早いランチ時、店内には若者や地元のおっちゃんたち、また観光できた夫婦など様々。

角丸の窓からは、いつまでも眺めていたい景色。

この食堂を運営している豊田宙也さんが、今回取材する古本屋の運営にも携わっている。
早速、古本屋まで案内してもらった。

漁村独特の細い路地。
不思議と懐かしく感じる雰囲気。
生活の音。鳥の声。
それ以外に無駄な音がなく、耳をふさいでいた感性がゆっくりと目を覚ます。

漁村の街並みを楽しみながら、古本屋「トンガ坂文庫」に到着。

ちなみに「トンガ坂」とは、お店近くの坂の名前。
「トンガ」とは地元で、ちょっとした話を大きくする人や、大風呂敷を広げる人という意味。
ニュアンス的には、愛嬌のあるほら吹き、という感じらしい。
昔、この辺りに数名の「トンガ」な人が住んでいたのだとか。

 

時間を越えて。古本の新しい価値。

店に入ると絵本、アート、宗教、哲学、小説、音楽など、いろんな本。

あなたも読んだことのある、懐かしい絵本に出会うかも知れない。
豊田さんと同じく、運営に携わる本澤結香さんにお話しをうかがった。

本澤結香さん。

本澤さん:本がもともと好きで、今は絵本を集めています。お子さんにも気軽に来て欲しいです。夏休みだし、ここでだらだらと過ごすのもオススメです(笑)。お気に入りの一冊を見付けてもらえれば嬉しいです。

取材時に来店していたお客さんのお子さん。子猫に興味津々。

本澤さんは大学で美術史やアートを学び、長野から九鬼にやってきた移住者。
漁村の街並みなどが好きで、この町に暮らしている。

本澤さん:古本屋は細い漁村の路地を通らないとたどり着けないのですが、その景色や雰囲気も楽しんで欲しいです。

ここにある本は、地元の人などを中心に寄贈されたものをセレクト。

また、豊田さんや本澤さんが選んだ本も置いてある。

寄贈者からのコメントを読むと、つい本に手が伸びる。

音楽が好きなこの本の持ち主は、どんな人なのだろう。

こういう本を、この町で読んだ人は、どういう人なのだろう。

本を見ていると、時間を越えて漁村に暮らす「人」を感じる。
人が持つ、存在感。
人が過ごした、時間。
本から伝わる、私の想像上の人物像。
それは今までに感じたことのない、ノスタルジックな感覚だった。

豊田宙也さん

豊田さん:九鬼に暮らす、とあるおじいさんから「もう歳やから、この本を持っとっても、仕方ない。この本も違う人に読まれた方がいいやろ」と寄贈されたり、道を歩いていて知り合いのおばあさんから「あんた古本屋やるんやってな。これ持ってき」と渡されたこともあります。

そんな豊田さんのイチオシ本は?

豊田さん:この本です。捕鯨に関する物語なのですが、尾道を旅行中に古本屋で見つけて。なんとなく手に取ってみたら、ここ九鬼の話でした。

尾鷲出身の方に寄贈された、トンガ坂をイメージした絵画。

トンガ坂文庫をスタートするにあたり、知り合いのデザイナー、地元の林業系の会社、地元の人や移住者など多くの人の協力があり、特に内装工事をしてくれた職人さん(東京から尾鷲へUターンしてきた職人の森さん)がいなければ、オープンはできなかったと、豊田さん。

豊田さん:今考えているのは、古本屋の一つの本箱に「誰が読んだ本なのか」をセレクトしてコーナーを作ると面白いなと思っています。

なるほど。
そうする事で、本がその人を語る。
なんとなく、その人がどんな考えで、どんな感性の持ち主なのか、見た人それぞれが想像することができる。
古本に新しい価値が生まれるという、現代アートみたいだ。
そんなことを、九鬼という漁村で感じた。

本を読む時間すらない忙しい現代、とか言い訳しがちな私の暮らし。

酒ばっかり吞んでいないで、酒でも吞みながら本を読もうと思った。

 


 

トンガ坂文庫
三重県尾鷲市九鬼町121
九鬼漁村センターより徒歩2分
tel 070-4340-2323
hp https://www.tongazakabun.co
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