私は、ずっと記事にしたかったラーメン店がある。
いわゆる、今どきのラーメンではない。
スープは若干ぬるい。麺もやわらかい。
でも、無性に食べたくなるときがある。
津市雲出。住宅が建ち並ぶ一角。
突如、屋台風のラーメン屋がある。
長崎屋だ。
屋台風のお店に入ると、まずはゆでたまごが一個サービス。
「薄い、辛い、あったら言ってくださいねー。すぐに直るから」
毎度のこと。ラーメンと一緒にご主人から運ばれてくるセリフ。
チャーシュー、メンマ、かまぼこ、ねぎ。
とてもシンプルな具材。
スープに甘味がある。野菜だろうか。
少々、塩っ気も効いている。
無性に食べたくなるのは、そんな味。
ご主人にお話をうかがった。
57〜58年前、主に、津市の飲み屋街の近くで、ご主人は屋台のラーメンを始めたのだという。
ここに移転したのは17〜18年前。年齢的なこともあったらしい。
屋号となっている長崎屋。
ご主人は長崎県のご出身。
集団就職で三重に来た。
そして寮での生活が始まったのだが・・。
私:集団就職から一転、なぜラーメン屋を始めることになったのですか?
ご主人:それは秘密のお話。
秘密のお話をたっぷり聞かせていただいたのだが、詳細は秘密ということで。
とある事情でいろいろとご苦労があり、途方に暮れていたときにラーメンの親方に出会った。
私:私は三重県に関する記事を書いていまして、OTONAMIEというWEBサイトに記事を書いてもいいですか。
ご主人:はい、もちろん。
私:それにしても、営業時間が長いし、ラーメンの値段も安いですね。
ご主人:ラーメン屋としてお客様に助けてもらったから。お客様へ感謝して、ね。あとは去っていくだけ。
潔い言葉に胸が詰まった。
感謝して、去っていくだけ・・。
ワタクシゴトで恐縮だが、働き盛りの歳になった。
あれもしなければ、これもしなければ、と何かと騒がしい日々の生活。
その反面、今の仕事は続けていけるのだろうか、このままでいいのだろうか。そんな不安や悩みは少なからず絶えない。
私:突然の取材やのに、ありがとうございました。また記事が公開されたら連絡します。
ご主人:はい、ありがとう。
ご主人:道はひとつ。自分が選んだ仕事。ひとつの道を一生懸命やっていたら、それでいい。
ハッとした。
まるで、私の顔に不安や悩みが書いてあったかのように、ご主人は言葉をくれた。
道はひとつしかないのかも知れない。
そして、それが一本の道となったことは、道を歩き続けた本人にしかわからないのかも・・。
ぼんやりと、そんなことを帰りのクルマで考えていたら、最近疲れ気味だった自分に気が付いた。
もしかしたら・・。
なぜ私は、ここのラーメンを無性に食べたくなるのか。
お酒を飲む人にはわかると思う。
飲んだ後のシメのラーメン。
ちょっと塩っ気があり、そして甘味のある味が欲しくなる。
アルコールで胃が疲れているので、スープは熱々ではなく、若干ぬる目で。
そして翌日のことを考えると、消化の良いやわらかい麺がいい。
そう、飲み屋街近くで営業していた、屋台のラーメンの味。
つまりお酒が入ったり、夜分に疲れた客の体調をも想うやさしさが、そのままラーメンの味となっている気がした。
スッと体に染み込むそんな一杯のラーメン。
道を歩き疲れたら、またこのお店にいこう。
疲れた体に、やさしさを補おう。
長崎屋
住所:三重県津市雲出島貫町315
営業時間:昼11時〜夜11時
定休日:不定休
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事