今回は「るみ子の酒」でお馴染み伊賀市千歳にある森喜酒造場さんをご紹介します。
日本酒に詳しくない方でも、こちらのイラストのラベルを見たことあるという方は多いのではないでしょうか。
ドラマにもなった名作漫画「夏子の酒」の作者:尾瀬あきら先生による描き下ろし。イラストのモデルは森喜酒造場の5代目であり、女性杜氏の先駆け的存在、森喜るみ子さんです。
ちなみに「夏子の酒」の夏子=「るみ子さん」だと勘違いしている方も多いようですが、漫画の舞台になった蔵は、新潟の久須美酒造さんです。
さて、こちらがるみ子さん。
この笑顔とポーズを見てもわかる通り、チャーミングで気さくでとても魅力的な女性です。お隣りで優しく微笑むのはご主人の森喜英樹社長。二人三脚で酒造りを続けるお二人にイロイロお伺いしました。
森喜酒造場はどんな蔵?…
1893年創業。年間製造量300石(一升瓶で約3万本)、伊賀盆地にたたずむ小さな酒蔵です。
造りを担うのは森喜夫妻と数名の蔵人たち。今でこそ女性も酒造りに参加できる時代になりましたが、かつては女人禁制の世界。。。ですが、森喜酒造場では20年以上前からるみ子さんが杜氏をつとめ、蔵人頭も16年のキャリアを誇る女蔵人いう全国的に見ても珍しい女性が活躍する蔵です。
そこにはこんな理由がありました。
「るみ子の酒」誕生秘話…
森喜酒造場の長女として生まれたるみ子さん。小さな頃からお酒は身近なものでしたが、すぐに蔵に入ったわけではなく、大学卒業後は薬剤師の道へすすみ、順調にキャリアをつんでいました。
そんな中、それまで蔵の経営を指揮してきた父親が病に倒れ、急遽蔵を継ぐことになったのが平成元年。人手不足、慣れない造り、廃業の危機・・・女人禁制なんて言っている場合ではなく、とにかく必死だったそう。そんな時、たまたま手にとったのが漫画「夏子の酒」。当時の自分の境遇と、夏子の境遇があまりにも似ていて、涙を流しながら全巻を読破。そのまま筆をとり、尾瀬先生に手紙を書いたのが「るみ子の酒」のはじまりでした。
尾瀬先生の紹介で他の蔵へ造りを見学に行ったり、いろんなお酒を勉強する中で「純米酒の魅力に気づいた」と言う、るみ子さん。そして、再起をかけて全量純米酒蔵にすることを決意。そんな思いを込めて造った純米酒を、尾瀬先生が「るみ子の酒」と命名。るみ子さんの姿をラベルにしてくれたそうです。
何がすごいって、この一連のストーリー中、るみ子さんは妊婦さんだったということ。しかも、年子の長男、次男がいて身重で、酒造り・・・。初代「るみ子の酒」の最後のしぼりが終わった3日後に生まれた末娘さんも、現在24歳になっています。まさにお酒の申し子ですね。
手仕込み全量純米酒蔵…
そんなわけで、現在、森喜酒造場が醸すお酒はすべて純米酒(※純米酒:米と米麹だけで醸したお酒)。造りはもちろん、ラベル貼りや出荷まですべて手仕事で秋から冬を駆け抜けます。
百聞は一見にしかず。
造り真っ只中の冬に蔵へ潜入させてもらったときの様子をご覧ごください。
と、ものすごく端折りましたが「できるだけ手をかけたい」と昔ながらの酒造りを貫きます。さらに、同蔵のすごいところは、春から秋にかけて、米作りもやってしまうところ。なんと、酒の原材料となる酒米の一部を自田で栽培しているのです!
育てているのは酒米の王様「山田錦」。
飯米よりも遅めの6月頃に田植え、農薬不使用、減肥料で逞しく育てるので、真夏の雑草抜きは大変な作業。そして秋に稲刈り。そのお米を10月からの仕込みに使います。
ちなみにこの自家栽培米を使ったシリーズは「英~はなぶさ」という銘柄のお酒です。現在、代表銘柄は「るみ子の酒」「英」「妙の華」の3種類。そしてそれぞれ造り方、酒米などによりバラエティ豊かな味わいで全ラインナップは20種類以上にも。原材料の米にこだわり、手で仕込み、手で届ける純米酒は、旨味がしっかりと感じられる力強いお酒ばかりです。
私の個人的な感想ですが、森喜さんのお酒を飲むと、お腹がすいて、肴がすすむすすむ。飲み飽きないから、ついつい盃を重ねてしまう。そしてなんかホッとする。燗もいいんですよね~。
全国的に知名度があがった今でも「日々、勉強。基本通りの造り、当たり前のことを当たり前にできるようになりたい」と、どこまでも謙虚なるみ子さん。
飲んで美味しい、美味しいから飲みたい、ずっと飲んでいたい…そんなシンプルな欲求を満たしてくれる同蔵の日本酒。むつかしい知識がなくてももちろん楽しめますが、実は酒米の栽培だけでなく、きもと造り、山廃造り、低精米酒、貴醸酒、日本酒リキュール、料理用純米酒、熟成酒などなど、酒ツウがトキメク〝チャレンジ”もいっぱい。
造り手の酒愛が伝わってくるこだわりが今日も日本酒ファンを魅了しています。
森喜酒造場
住所:伊賀市千歳41-2
TEL:0595-23-3040
URL:http://moriki.o.oo7.jp/
kanzaki chiharu。OTONAMIE公式記者。伊賀市在住のフリーライター。出身地、広島のタウン誌→東京の編集プロダクション→フリーランスとして独立して早20年。現在は伊賀に拠点を持ち、伊賀の情報誌の執筆をはじめ、企業広告コピー、イベント企画提案などを手掛ける。日本酒好きが高じて、「伊賀酒DE女子会」の企画運営をはじめ、日本酒関連の執筆、コーディネート、イベント運営も行う酔っぱライター。得意ジャンルは日本酒、伊賀情報。2016年「日本酒女子普及委員会」会長に就任。https://ameblo.jp/iganonihonsyudaisuki/