三重県伊勢市を拠点とし、三重県の中南勢地方を中心に活動している「伊勢管弦楽団」。
三重県文化会館で記念定期演奏会が開催されると聞き、取材を申し込んだ。
団長でトロンボーン奏者でもある吉澤晃さん。
同年代という事もあり話が弾んだ。
今回の演奏会の曲目である、マーラー作曲交響曲第2番「復活」は、80分を超える大曲である。
映画で言うなら、超大作と言える作品。
この楽曲の難かしさやテーマの奥深さについて話を伺った。
取材後、吉澤さんからしばらくトランペットをお借りすることができた。
クラギ文化ホールにて
取材日は、合唱団との初めての合同練習の日であった。
100人を超える団員、そこに合唱団が加わると260人の大所帯となる大編成だ。
合奏中、指揮者の妥協なき指示が飛ぶ。
その指揮者こそ「大谷正人」さん。
彼がこの伊勢管弦楽団を創設した人物だ。
頂いた名刺には「鈴鹿医療科学大学教授」と記されている。
彼は精神科のドクターでもある。
医者・指揮者「大谷正人」
彼は若い頃、一度は慶応大学の医学部に入学するが、自分の本心に従い東京藝術大学に入学し、再び音楽家の道を目指した。
その後三重大学医学部へ進み、卒業を機にこのオーケストラを創設した。
彼が医学の道に進みながらも、音楽の世界を目指した理由は「音楽への熱烈な愛」だとはっきりと言う。
人の生きるエネルギーが表現される音楽というものに、彼は魅了されている。
今回マーラーの曲を選んだ理由は、感動的要素が感じやすい曲であること、作曲者のエネルギーが曲を演奏することで迫ってくること、そして、何度聴いても感動するためだと話してくれた。
彼の作曲家への尊敬と豊かな探究心から、自らマーラーの曲分析をした上で精神医学に応用し、論文を医学界で発表している。
マーラー交響曲第2番「復活」の聴き方
大谷さんに「復活」の聴き方というものがあるか尋ねた。
すると「エンターテイメントにおける感動のストーリーとして聴いてもらうといい。」と話してくれた。
つまり、映画を見ているような道筋で、起承転結を想像しながら聴くということだ。
「復活」は5つの楽章で構成されている。
それぞれ、1楽章は葬送、2楽章はのどか、3楽章は踊り、4楽章は神々しさ、そして5楽章は復活、を表しており、全曲を通して5楽章「復活」への道のりが描かれている。
また大谷さんは「自分には完成された楽曲のイメージが入っており、指揮をとる時にそのイメージをトレースする聴き方をするわけです。」と語った。
映画ピノキオ
マーラーの音楽を聴くにあたり、音楽を映像化して想像を広げようと、私はピノキオの映画を見た。
大谷さんは「確かに映像化する聴き方は正しいと思います。クジラに飲み込まれ、地上に戻ってくることは、ある意味復活と同じですしね。そんなストーリーを感じながら聴いて頂くと、感動を受け取りやすくなるので、イメージを膨らせて聴いていただきたい。」と答えてくれた。
映画ピノキオでは、人の持つ命と死、良心、喜び、誘惑、希望、勇気、復活といった要素が感動的に表現されており、最後はディズニーの名曲「星に願いを」で幕を閉じる。そのラストはハッピーエンドだ。
今回の「復活」は、まさにそんなエンターテイメントが、人の持つエネルギーによって音となって、感動的なラストシーンへと繰り広げられるものだと私は感じた。
トランペットを持って
新緑の時期、吉澤さんにお借りしたトランペットを持って、海と山に出かけることにした。
目的地は熊野の山奥。ここを選んだのは、オーケストラと結びつく何かがありそうだと直感したからだ。そして、マーラーの「復活」を聴きながら車を走らせた。
目的地に到着すると、私は広い海に向かって思いっきりトランペットを吹いた。
その後、山奥に入り、渓谷でも同じ事を行い、それを何度か繰り返した。
小さな音は小さく、大きな音は大きく、約束を果たすようにこだまは返ってくる。
息を吹けば音が出て、息が切れるなら音は消え、また息を吹き込むと音が始まるさまは、命のようにも思える。
音楽にも人の息遣いが隠れている。オーケストラでは、その息遣いによって演奏者を感じ、演奏をしている。調和とは、呼吸を聴き感じることだと思う。
オーケストラは棚田のようなパズル
以前からカメラを持って訪れたいと決めていた場所、丸山千枚田。
私はそこで、ひとつひとつの小さな田んぼが、棚田となって並ぶ光景を目の当たりにした。
天気は雨だったが、実際にその絶景を見た者でなければ味わえない感動がある。
オーケストラも棚田のように、ひとつひとつの営みの集合体に見える。
近づけば個々の命の営みがあり、引いて全体をみた時は壮大な景色となる。まるでパズルだ。
水が引かれたステージで、農夫が空を眺めて田植えの時期を待つように、演奏者は指揮棒の動く瞬間を待つ。
伊勢管弦楽団の団員は、指揮者に絶大な信頼を持って田植えをする。大空に包み込まれた愛を感じながら。
取材する中で、私は一人の奏者に向けて指揮者が示す表情に注目した。それはシンバルだ。
指揮者が最大の集中力を持って奏者を見ている。それは最高の状態での収穫を成し遂げようと、最後の鎌を振りかざす目だった。
団員は全て、指揮者大谷正人の人柄と音楽性に集まる。それは三重県内だけではなく県外から、今回震災のあった熊本からも演奏に駆けつけるという話だ。
「熱くなければ音楽でなはい」
この言葉は、真理を貫く言葉に聞こえる。指揮者の空の下に集まる農夫たちは、どうすれば自分達の稲が良く育つのかよく知っていた。
三重県文化会館での定期演奏会。
私もこの絶景を見に行くとする。
伊勢管弦楽団第記念定期演奏会情報はHPへ
伊勢管弦楽団HP http://isekan.webnode.jp/
問い合わせ 080-4968-8548
取材時の団員写真を少し掲載いたします。
https://youtu.be/Wse1JxJ63lk
おまけのおまけ動画
yoshitugu imura。Otona記者。サーファーからフォトグラファーに、海に持っていったギターでミュージシャン活動もする(波音&Ustreet )ドブロギター奏者。 伊勢市在住。この記者が登場する映像