11月3日上野運動公園競技場で行われたエキサイティングシリーズ下位リーグ5節は、ホームの伊賀が3-1で湯郷に勝利。最終節を待たずして下位リーグ2位以上を確定させ、1部残留を決めた。
スタンドまで届く大声で気合いを入れる両チームの円陣が、この試合の激しさを予感させた。
勝った方の1部残留が決まる伊賀FCくノ一と湯郷ベルの大一番は、「差し合いになる」という金鐘達監督の予想通り、両者の意地がぶつかり合った。
前々節の高槻戦で手痛い敗戦を喫し、あとがなくなった伊賀は、「まだ完治していないが、そうは言ってはいられない状況なので」(金監督)とFW小川志保を前節の埼玉戦より先発起用。小川とマレアナ・シムを2トップに、杉田亜未をボランチに戻したシステムが的中し、アウェイで勝ち点3を得た。
今節も同じ布陣で湯郷を迎え撃ち、序盤こそ湯郷の勢いに押し込まれたものの、前線からプレッシャーをかけて徐々に流れをつかむ。
16分、MF鈴木薫子が宮間あやへのパスをインターセプトし、中央の小川へ預ける。小川はドリブルで湯郷DFを引きつけ、絶妙のタイミングで前線にスルーパス。それを受けたシムが左足を振り抜き、逆のサイドネットへ突き刺した。
日本での初得点を決めたシムは、「(小川)志保からのボールがパーフェクトだった。パスが本当にちょうど良いところにきたので、私にとっては簡単だった」と振り返った。
2点目も、2トップのコンビネーションから生まれた。23分、小川がドリブルで持ち上がり、DFに当たってルーズになったボールをシムが拾ってミドルシュート。リオ五輪出場を目指すアメリカU-23代表が、なでしこジャパンのGK福元美穂から2得点を奪う。
勢いに乗る伊賀は、さらにその2分後、同じくリオ五輪を狙う杉田が、シムとのワンツーで抜け出しスライディングシュート。試合を決定づける3点目をあげる。
しかし下位リーグに入り2度も後半アディショナルタイムに追いついている勝負強い湯郷は、3点差にも屈しない。前線にスピードのある浅野未希を投入し、追い風を味方に、宮間の正確無比なキックで伊賀の最終ラインに揺さぶりをかける。
61分、シムが「スピード、技術、フィジカルが揃った理想の選手」と評する、アメリカU-23代表候補エディー・エリザベスのスーパーゴールが決まると、湯郷の攻撃はさらに加速する。
「湯郷は1点入れると勢いに乗ってくるチームだし、セットプレーでもいいキッカーがいる。
1点入れられて、相手が放り込んでくる中でバタバタする場面もありましたが、みんなの表情を見ていても最後まで集中していたし、追いつかれる不安はなかった」と話すキャプテン・那須麻衣子を中心に、90分集中力を切らさず、湯郷の怒濤の攻撃をしのぎ切った。
前線からの守備で、取り戻した伊賀“らしさ”
1週間前とは全く別のチームがそこにはあった。
「高槻戦はチームの状態も良くなかった。埼玉戦の前に選手で話をして、前から(プレスに)いくということを突き詰めていこうと話をしました」(那須)
伊賀の下位リーグ第3節までの失点はわずかに1。この数字だけ見れば、守備は悪くはないように見える。しかし守備に重心が置かれた分、攻撃が単発となり得点もわずかに1。伊賀が目指す“攻撃のための守備”は機能していなかった。
「以前から、前から(プレスに)行こうという話はしていたのですが、なかなかできずにここまできてしまった。高槻戦の負けがあったから、スイッチを入れられた部分もあった」(那須)
降格の危機に直面し、伊賀はようやく「前線からの守備で、高い位置でボールを奪い、速い攻撃を仕掛ける」という原点を見つめ直した。
先制のシーンでは、小川にボールが入った瞬間、FWのシムだけでなく、MFの杉田、松長佳恵、鈴木が一気に駆け上がり、守か攻への切り替えの速さが際立っていた。攻撃が単発に終わった高槻戦とは違い、厚みのある攻撃から多くのチャンスが生まれた。
杉田も「前節(埼玉戦)から、より前で奪っていこうという意識を持っていたので、その分攻撃にかけられる枚数も増やせて、厚みをかけられた」と手応えを口にする。
高槻戦での敗戦という高い“授業料”を払い、シーズン終盤にようやく本来のスタイルを取り戻した伊賀。リーグ戦は1試合を残すのみだが、原点である“攻撃のための守備”を武器に、15日から始まる「皇后杯」でタイトルを狙う。
【試合結果】
2015プレナスなでしこリーグ エキサイティングシリーズ下位リーグ 第5節
伊賀FCくノ一 03-1 (前半3-0) 岡山湯郷Belle
【得点】16分、23分 シム マレアナ、25分 杉田 亜未
公式記録
【下位リーグ順位表】
順位 | チーム名 | 勝点 | 試合数 | 勝 | 分 | 負 | 得点 | 失点 | 得失点 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 伊賀FC | 15 | 5 | 3 | 1 | 1 | 6 | 3 | +3 |
2 | 湯郷ベル | 12 | 5 | 1 | 3 | 1 | 6 | 6 | 0 |
3 | 大阪高槻 | 10 | 5 | 2 | 1 | 2 | 7 | 8 | -1 |
4 | AS埼玉 | 7 | 5 | 1 | 1 | 3 | 6 | 8 | -2 |
akubi。OTONAMIE公式記者。
スポーツライター・カメラマンとして、なでしこリーグの伊賀FCくノ一の取材をしています。三重の皆さん、ぜひ伊賀FCくノ一を応援してください!
得意ジャンル:サッカー(特に女子サッカー)、フットサル、スポーツ
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