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農業用倉庫からはじまる新しいローカルのかたち、いなべの田園に佇むセレクトショップ

三重県いなべ市。
のどかな田園風景のなか
一棟の古びた農業用倉庫が静かに息を吹き返している。 

落ち着いた深緑の外壁に、引き締まった黒縁の屋根。
自然に溶け込みながらも
どこか都会的な洗練を纏ったその扉を開けると
外観の重厚なトーンとは対照的な白を基調とした無垢な空間が広がる。

 

セレクトショップ兼プロダクト事務所の「オオイズミスペース」。
かつて農業用倉庫だったこの場所を再生させたのは
オーナーの日下部(くさかべ)さんだ。
東京でアパレルの最前線に身を置いていたが、
地域おこし協力隊という肩書きを携えてUターン。
わずか数年で地域の作り手たちを巻き込んだプロダクト事務所兼セレクトショップを築き上げた。

なぜアパレルマンはこの地で、倉庫を再生させたのか。
なぜ、彼の選ぶ三重の品々は、これほどまでに私たちの心を打つのか。
その背景には今の時代を象徴する「新しいローカルの生き方」があった。

 

日下部 真太郎(くさかべ しんたろう)/
セレクトショップ兼プロダクト事務所「オオイズミスペース」オーナー

東京のアパレルメーカー勤務を経て、2023年に三重県いなべ市へUターン。地域おこし協力隊としてマルシェやイベントの企画・運営に携わる。セレクトショップ兼プロダクト事務所「オオイズミスペース」のオーナーとして、地域の作り手や素材を活かした商品セレクト・企画を行う。さらには自社ブランド『bou』の開発・販売、企業・団体向けのグッズ制作や商品開発支援も手掛けている。

 


本物を掬い上げる、セレクトの視点

 

靴を脱いで、一段上がった板間のスペースへ。

「農業用の倉庫だったので、リラックスして過ごしてほしくて」と日下部さんは笑う。
足元は三重の木材を感じる温かみがあり
まるで気心の知れた友人のリビングに招かれたような充足感に包まれる。

 

視線を上げて驚かされたのは、セレクトされた品々の「顔つき」だ。
例えば、川越町のファクトリーブランド「HAAG」のスウェット。
一見シンプルだが、触れた瞬間に指先が喜ぶような柔らかさがある。

 

参照:https://oizumispace.official.ec/items/132090289

 

「『スマイルコットン』という特許取得の生地を使っているんです。
カシミヤのような軽さがあって、着ていることを忘れるほど。
全国的には有名ですが、この企業について知っている地元の人たちは意外と少ないんです」

 

ほかにも、亀山市の商店が開発・製造したクラフトシロップ「AU(逢う)」がある。
本来は捨てられるはずだった素材が、ご縁によって生まれ変わった一品だ。

 

参照:https://oizumispace.official.ec/items/129444541

 

どれも作り手の実直さと風土の個性を伝える商品で
日下部さんの語りからは、まるで宝探しをしてきた少年のような躍動感を感じられた。

 

「尖った流行りものよりも、暮らしにフォーカスした商品を伝えたい。
背景や作り手の思いを、僕が通訳のように伝えていく。
それがこの場所の役割だと思っています。」


「地産地消」という言葉で片付けるには、あまりに解像度が高い。
東京のアパレルシーンで数多の生地やデザインに触れてきた彼だからこそ
三重に眠っていた「本物の価値」が、日下部さんによって掬い上げられていく。

 


作る、伝える、誰かの役に立つ


店内の中心にあるのは、日下部さんが自ら設計したオリジナルブランド「bou」のアイテムだ。
なかでも必ずと言っていいほどリピーターになるという靴下には
彼のキャリアのすべてが凝縮されている。

参照:https://oizumispace.official.ec/items/133970392

 

「僕が目指しているのは、
メインのコーディネートを邪魔しないけれど、気づいたら毎日手に取ってしまうもの。
衣服というよりは、生活を補完する装備品です」

 

その言葉通り、この靴下は機能や履き心地を優先して作られた。
ベースにしたのは、意外にもアメリカの糖尿病患者向けに作られた医療用靴下。
足のむくみが深刻な問題となる患者のために、締め付けを極限まで排除した設計だ。
日下部さんはこの構造をヒントに、
特殊な編み方で、驚くほどの伸縮性とズレない絶妙なホールド感を両立させた。

 

さらに驚くべきは、その肌触りだ。

「通常の靴下は、強度を出すためにナイロンなどの補強糸を混ぜて編みます。
でも、肌に触れると独特の摩擦や違和感を生む。
だから僕は『プレーティング加工』という技術を使い
化学繊維をすべて外側に、オーガニックコットンをすべて内側にくるように設計しました。」

参照:https://oizumispace.official.ec/items/133970392

 

内側は、ふわふわのパイル地。
まるでガーゼに包まれているような
あるいは床の硬さを忘れさせるクッションの上を歩いているような感覚。

「靴下ごときでストレスを感じたくないんです。
お風呂上がりの蒸れた足でもスッと履ける。そんな当たり前の快適さを形にしたかった」

 

この「装備品」は、いまや店舗の枠を飛び越えている。
履き心地に惚れ込んだ亀山市の訪問看護会社が、
外出が困難な患者さんのためにと、往診先での販売を申し出たのだ。

 

「本当に良いと思うものを具現化して、それが予期せぬ形で誰かの役に立つ。
それはセレクトショップという『伝える場』と
プロダクト事務所という『作る場』の両方を持っているからこそ味わえる醍醐味ですね」


「やりたい」を阻まないまち、いなべ


日下部さんがいなべ市にやってきたのは2023年8月。
東京で働いていた彼が、妻と共にUターンを決意したきっかけは
意外にも桑名での結婚式だった。
多度大社で式を挙げ、歴史ある料理屋で披露宴を行う。
打ち合わせのために三重に通い、滞在を重ねるうちに、
二人の心は「三重で暮らしたい」という思いに変わっていった。

 

「職探しからのスタートでした。
そんな時、アパレルやデザインのスキルを活かせる『地域おこし協力隊』という
選択肢を知ったんです」

地域おこし協力隊の任期は最長で3年。
日下部さんはその期間を独立のための「滑走路」と捉えた。
市役所を活用したマルシェの企画や、県外でのイベント運営。
自らの足でいなべの魅力を発信し続けていると、いなべの持つ「不思議な引力」に気づかされる。

 

「いなべは移住者に対してすごく寛容なんです。
私みたいに面白いことを始めようとすると
市全体が『それはいいですね』と面白がってくれる空気がある」


象徴的なエピソードがある。
移住してわずか数日後、いなべ市のカフェで食事をしていた時のことだ。
たまたま応援にきていたカフェのオーナーと意気投合し
数日後には一緒に酒を酌み交わしていた。
すると「じゃあ、何か一緒にやりましょうよ」 と
今では協働でオリジナルグッズを制作したり
京都のイベントに出店したりするまでの関係になった。

 

「いなべには、まちづくり団体やスキルを持った人たちが身近にいて、助け舟を出してくれる。
やりたいことがあったとき、声を上げればすぐ手が差し伸べられ、実現へと向かっていく。
都会で感じていたような、何かに阻まれるストレスはありません。」

 

かつて高校生の頃に見ていた「おじいちゃんとおばあちゃんしかいない過疎の町」のイメージは、
今や180度覆されている。
自らのスキルを武器に、軽やかに「やりたい」を形にする挑戦者たちの場なのだ。

 

「できるか、できないか」ではなく「やりたいか、やりたくないか」で選べる。
日下部さんの言葉からは、いなべという土地が持つ「可能性の深さ」を感じた。

 


農業用倉庫から、ローカルの未来へ


現在のオオイズミスペースは、もともと耕運機が眠る無骨な農業用倉庫だった。

 

壁を白く塗り、廃材を活用して自らの手でリノベーションを施した空間には、
日下部さんのこだわりが宿っている。
資金の一部を募るために挑戦したクラウドファンディングもまた、住民たちの注目を浴びた。

 

「リターンにいなべの温泉券や特産品セットを用意して、
地域の企業も巻き込みました。
オープン前から街の人に面白がってもらえました。」

 

 

 

地域おこし協力隊としての任期は、残り半年。
最後に今後のことについても聞いてみた。

「『ものづくりの相談窓口』としてもっと知ってもらいたい。
ノベルティを作りたい企業や、何かを始めたい人のサポート。
アパレルのスキルを使って、地域の困りごとを形にする場所であり続けたいです」

 

諦める理由を探すのではなく、やりたいことをどう実現するか。
いなべに根を張り、プロとしての誇りと柔軟な遊び心を持ち合わせる日下部さん。
農業用倉庫の扉の向こう側には、新しいローカルの未来が広がっていた。

 

【オオイズミスペース】
住所:三重県いなべ市員弁町大泉1120-1
営業時間:13:00〜17:00
公式HP:https://oizumispace.official.ec/
Instagram:https://www.instagram.com/oizumi_space

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