お店に入ると、四角形の大きな窓があり、その向こうには青々とした海が広がっている。尾鷲市九鬼町。元は食堂「網干場(あばば)」だった場所で、現在はイタリア料理店「amayl.(以下、アメイル)」が営業しています。

穏やかな水面を眺めながら、旬の魚や野菜が使われ、美しく彩られた料理をいただく贅沢なひととき。そんな時間を過ごせることが嬉しくて、少し遠いなと思いながら津から尾鷲まで車を走らせる。

アメイルは、大阪出身の原口 開成(かいせい)さんと埼玉出身の宮舘 凛寧(りんね)さんの2人が営むお店。店舗を持たず、シェアキッチンやイベントなどで出店しながら、全国各地で営業するスタイル。いつしか “旅する料理店” と呼ばれるようになったそう。

店名「amayl.」は、「as much as you like」の頭文字を取ってできた造語。「お客さんに “好きなものを好きなだけ食べてほしい” という思いからつけた名前なんです」と宮舘さん。
アメイルとしての活動をスタートさせたのは、2022年のこと。
「飲食業界で働いていたんですが、本格的に自分で料理を作ってみたくなり、転職しようか迷っているところでした。そのタイミングで、島根県のシェアキッチンの出店者を募集していると聞き、3週間だけ出店することにしました」(原口さん)
「初めて2人でお店をやってみたんですが、すごく楽しかったんです。もっと続けたいと思い、彼は会社を辞め、私は大学を辞めて、アメイルとして活動していくことを決めました。場所は固定せず、シェアキッチンやイベントに出店するスタイルが定着して、気づいたら“旅する料理店”と呼んでいただいていましたね」(宮舘さん)

2人で住んでいた家も引き払い、シェアキッチンが運営している宿や知り合いに住まいを提供してもらい、島根、岩手、東京とさまざまな場所で出店。あえて拠点を持たない旅人スタイルで生活することにしました。
尾鷲と縁がつながったのは、東京のシェアキッチンで営業していたとき。たまたま来店した九鬼の人から、声をかけられました。
「食堂(網干場)が営業を休止して出店者を募集しているので、よかったら九鬼でお店をやってみませんかと、声をかけていただいて。じゃあ、行ってみようかと初めて尾鷲に来たんです」(原口さん)
2023年は、1か月の期間限定の店として。2024年からは旅を一時休止し、1年間九鬼に腰を据えて営業を行いました。
「この土地ならではの旬の食材で料理を提供できたり、リピートのお客様ができて仲良くなったり。同じ場所で長く営業する面白さを感じています。ここは通りすがりで来る場所ではないので、アメイルを目がけてきてくれると思うとやりがいを感じますね」(原口さん)
「今までは移動してる私達に興味を持ってきてくださる方が多かったので、『料理が美味しいと聞いて来ました』と言われるとすごく嬉しいですね。料理でリピーターになってくれた方も多くて、わざわざ名古屋や勝浦から来てくれるお客さんもいるんですよ」(宮舘さん)
四角い窓の向こうに見える景色とおいしい料理を一緒に楽しめる、その時間は何にも変えがたい特別なもの。

この1年、九鬼のまちで過ごした二人。他の土地と少し違って感じる部分があるそう。
「移住した人が率先して毎週体操をしていたり、まちの人と移住者の垣根があまりないというか。僕らもこの場所が網干場食堂だったこともあって、食堂の関係者だった方が忙しいときは手伝ってくれたり、お家に招いてくれたりするんですよ」(原口さん)
「九鬼ってよその人の受け入れ体制ができているまちなんです。釣りをしている人に『釣果はどう?』と声をかけたり、まちを歩いてる人に挨拶したり。初めての人でも抵抗なく受け入れてくれる。移住者の私たちともちょうどいい距離でつきあってくれます」(宮舘さん)
私もアメイルからほど近い場所にある書店「トンガ坂文庫」に行った帰りに、まちの方に「いい本あった?」と声をかけられたことがあります。分け隔てなく接してくれる、九鬼の人の温かさを感じました。

2025年も、引き続き尾鷲で営業することが決まっているアメイル。
2年目となる今年、挑戦してみたいことをお聞きしました。
「先日、漁港で食のイベントをやっていたんですが、たくさんの人が訪れて賑わっていました。漁港を飾り付けるなど工夫もされて、すごく面白そうだったんですよ。僕たちも何かしたいと思い、今まちの方と一緒に計画しています」(原口さん)
「1年を通して営業したことで食材の採れ方がだんだんわかってきたので、今年は新しい料理に挑戦したいですね。今はコース料理がメインなんですが、イベント的にアラカルトとかもやってみたいし、尾鷲の市街地にできたシェアキッチンにも出店してみたいな」(宮舘さん)
美しい九鬼の海と目も口も楽しいアメイルの料理。こんな素敵なコラボレーションをもう一度楽しめるなんて!と私自身、わくわくしています。おいしい、うれしい瞬間を味わいにアメイルへ。
「amayl.(アメイル)」
住所:尾鷲市九鬼町204-9 予約:080-4891-0063 (電話のみ) 時間(予約制) セットランチ(11:30 〜/ 13:15〜) コースディナー(19:00 〜) 定休日:Instagramをご確認ください ※2025年3/8〜3/31、隠岐島の海士町にて営業するため、九鬼町での営業はお休みです。 https://www.instagram.com/sukinamonowo.sukinadake/ |

OTONAMIE×OSAKA記者。三重県津市(山の方)出身のフリーライター。18歳で三重を飛び出し、名古屋で12年美容師として働く。さらに新しい可能性を探して関西へ移住。現在は京都暮らし。様々な土地に住んだことで、昔は当たり前に感じていた三重の美しい自然豊かな景色をいとおしく感じるように。今の私にとってかけがえのない癒し。