オンラインとリアルで三重の人や暮らしとつながるコミュニティ「日々三重」。地域で活躍するプレイヤー(地域プレイヤー)の方々の活動を紹介したり、三重県に移住した人たちの暮らしぶりをコラム形式で発信し、多方面から三重の魅力を伝えています。
南北に長い三重県。それぞれの分野・地域で活躍はされているプレイヤー同士が繋がる機会がなかなかありません。そこで2023年9月30日、日々三重で紹介している地域プレイヤーの方々に集まっていただき、親睦会(OTONAMIE主催)を行いました。今回は、その様子をレポートします。
個性的な三重の地域プレイヤーたち
皆さんに集まっていただいたのは津駅からほど近くの飲食店。いなべ市、名張市、そして南伊勢町など県内のあちこちから7名の地域プレイヤーに集まっていただきました。まずは、初めましての自己紹介を兼ねて、それぞれの活動内容についてお話いただきました。
①度会郡南伊勢町阿曽浦 「まるきんまる」 橋本 純さん
トップバッターは、南伊勢町の阿曽浦で漁師として働く橋本さん。阿曽浦に生まれ育ち、大学を卒業後はヨーロッパやアフリカなど世界中を旅していました。一時期は、ハワイでイルカセラピーの仕事をしていたこともあるんだとか。
しかし、久しぶりに帰った故郷の衰退ぶりを目の当たりにし、Uターンを決意。実家の「友栄水産」の跡を継ぐことにしました。真鯛の養殖や小型の定置網漁を生業としながらも、2007年にゲストハウス「まるきんまる」をオープン。
宿泊だけでなく、漁船で漁に出る「漁師体験」や、鯛を養殖をしているイカダで泳ぐ「鯛になれる体験」など、漁師がいる宿でしかできない唯一無二の体験を提供しています。
また世界中を旅する中で身につけた語学力を活かし、海外からの観光客も積極的に受け入れています。その中で、漁村の暮らしに魅了されて社員になった方もいるんだそう!
「今働いているスタッフはフランス人、シンガポール人、日本だと奈良、岐阜の出身者がいます。地元の出身は、65歳を超える男性が1人だけなんですよ。国内だけではなく、世界中からいろんな人を受け入れて、面白いことをやっていきたいですね」
友栄水産では、漁業の仕事や漁村での暮らしを体験したい人のために、インターンシップ制度を設け、学生・社会人、国籍を問わず幅広い人を受け入れています。現在新たな取り組みとして、地域の交流の場となるスペースを開設し、阿曽浦に人が訪れる仕組みをつくろうと模索中です。
「僕の役割は海と人を繋ぐことだと思っています。そのポジションを維持しながら、今後も頑張っていこうと思います!」
② 大台町・佐原 「奥伊勢テラス 」西口 茉実さん
「キャスターマミこと西口 茉実と言います」と挨拶してくれたのは、大台町観光協会に所属する西口さん。県内を中心にMCの仕事をしており、大台町の行政番組アナウンサーを担当したことをきっかけに、大台町へ。豊かな山に囲まれた暮らしをしてみたいと、2016年に移住を決意しました。
すごく気に入った空き家があり、すぐに移住。同時に地域おこし協力隊として、移住促進の情報担当を担うことになりました。
「実際にやってみて思ったのは、移住関連の情報だけ発信していてもなかなか移住には結びつかないということです。移住を検討している方は、観光で遊びに来て、魅力を感じて移住するんじゃないかと。だからまずは足を運んでもらうことを目指して、大台町の面白さを伝えることにしたんです」
そこで西口さんは自らまちを歩いてネタを集め、地球の歩き方が運営していたブログ「田舎の歩き方」や「OTONAMIE」を活用し、移住者目線での大台町の魅力を発信し “おおだいファン” を増やす取り組みを続けました。
その甲斐あって、今では「元々の住人より大台町のことを知っている」と言えるまでに。まちを歩けば「まみさ〜ん!」と声をかけられるほど、まちの人にも信頼される存在になっています。
現在は大台町の玄関口でもある「奥伊勢テラス」で観光案内人を行いながら、移住希望者の相談も受けているだけでなく、大台町の空き家を管理するクリエイティブ集団「AWAプロジェクト」とタッグを組み、増加する空き家問題にも取り組んでいます。
「町内に空き家は500件以上あるんですが、空き家に住みたいという人がいても、改修には膨大な資金が必要で対応できていない状況なんです。県内でこうしたつながりを持つことで、課題解決に繋がるようなヒントをもらえたら嬉しいですね」
③度会郡南伊勢町五ヶ所浦 うみべのいえ 西岡 奈保子さん
南伊勢町五ヶ所浦から参加してくれたのは、西岡 奈保子さん。空き店舗や空き家が増えた旧商店街地区をひとつの家に見立てた「うみべのいえプロジェクト」でリーダーを務めています。このプロジェクト、ちょっと一言では言い表せない仕組み。
「3年前ぐらいから空き家を改修し、誰でも飲食店に挑戦できるシェアキッチン『うみべのいえキッチン』や、誰でもくつろげるまちのリビング『うみべのいえリビング』をスタートしました。海辺全体を家と捉え、キッチン、リビングなど暮らしをより楽しむための機能をまちに増やしています」
うみべのいえキッチンを卒業した方が、町内にお店を構えるなどまだまだ進化している最中です。
名古屋から南伊勢町に移住して6年目。今も名古屋と行き来しながら、名古屋では保育園のコンサルタント業、南伊勢では移住者の仕事にまつわる相談に乗る、おしごとアドバイザーとして活躍しています。2018年からは、コワーキングスペース「むすび目コワーキング」を運営し、地域と人の結び目になる場づくりを行っています。
「私も移住者として、橋本(純)さんをはじめとする地元の方にお世話になりながら、活動を続けてきました。南伊勢は、移住者だけでなく、住民の皆さん自らまちを良くしようと活動されています。何が起こってるのか、ぜひ確かめに来てください」
④ 松阪市平生町 vacant 中瀬 皓太さん
村山さん(OTONAMIE編集長)が中瀬 皓太さんを訪ねたとき、中瀬さんが着ていたのは「東京」と書かれたTシャツ。地域愛バリバリの「松阪偏愛MAP」を制作するにも関わらず、「東京」を着ている。「なぜ東京なんですか?」と聞くと、「え、東京のが楽しいやん」と返事が返ってきたそう。
とはいえ、生まれも育ちも松阪の中瀬さん。ディレクターやデザイナーとして活躍する側ら、5人の仲間とともに地域特化型クリエイティブチーム「vacant(バカント)」を結成し、メンバーそれぞれが偏愛する飲食店や銭湯、書店など、個性的なスポットが掲載された「松阪偏愛MAP」「愛宕純愛MAP」を制作。リアルな視点も必要ではないかと、暮らしに必要な情報を集めた「松阪生活MAP」も発行しています。
また、vacantのメンバーで、「MADOI(まどい)」を運営。カフェ/図書館/雑貨屋/文化センター/集会所といった役割を持つ、クリエイティブな集会所です。でもそれは「まちおこしをしよう」という感覚ではなく、自分たちが暮らしを楽しめる場所をつくろうという思いで活動しています。
「生まれてこの方、松阪を出たことがないので、僕は『松阪に移住してきてください』と言えるような立場にない気もしていて。ただ、もし『移住したい』という人がいたら、良し悪しをひっくるめてこのまちのことを伝えるのが僕らの役割だと思っています」
⑤ いなべ市北勢町 筆談カフェ桐林館喫茶室 金子 文絵さん
OTONAMIEでも何度もピックアップさせていただいている、桑名市のお寺「善西寺」。住職の矢田さんの紹介で巡り合ったのが、いなべ市で筆談カフェを営む金子 文絵さんです。ぜひ日々三重に参加していただきたいと、声をかけさせていただきました。
教員や看護師としてのキャリアを持つ金子さん。2020年に「福祉×アート」をテーマに一般社団法人kinariを立ち上げ、同年8月に筆談カフェ「桐林館喫茶室 」をスタートしました。
「私たちの運営するカフェは、『音声はオフ』という独自のルールを設けています。筆談や手話、ジェスチャーなどで、音のないコミュニケーションを楽しむことができるカフェです。聴覚障害を持つ人だけの場ではなく、みんなが障害を持つ当事者の人の日常を体験してみる。そこから何かを感じてもらえればうれしいですね」
また第3金曜には、筆談カフェが入居する廃校で、マルシェ「kinari market」を開催。地域の中で人やモノを繋ぐ「コミュニティーナース」である金子さんが提案する、人や地域のものとつながる場です。その話を聞いて、他の地域プレイヤーから「マルシェに出店したい!」という声も上がりました。
「筆談カフェをスタートしてみて気づいたのは、たくさんの人を集客したり、話題集めの場である必要はないということ。そのためにも、今後は行政や福祉業界と協力して事業を進めていこうと考えています」
⑥名張市元町 FLATBASE 野山 直人さん
続いては娘さんの運動会の後に、急いで駆けつけてくれた野山 直人さん。名張市の旧市街地にあるコワーキングスペース「FLATBASE」を運営しています。コワーキングスペースという機能を持ちながらも、近所に住む方がふらっと立ち寄ってお話をしにきたり、差し入れに野菜を持ってきてくれる、アットホームな場です。
工務店を営む野山さんが自ら、築100年を超える町家をリノベーションしてつくられました。
「名張は古くから米や酒づくりが盛んで、美しい街並みを持つ歴史の深いまちです。地域では当たり前になっていることも、きちんと “見せる” ことができればまちの魅力になるのではと思い、やってみようと思ったんです。そのためにも『まずは人が集まる場所をつくらないと!』と、町家にコワーキングという機能を持たせたFLATBASEをオープンしました」
この場所で、みんながやりたいことにチャレンジできる土壌をつくりたいと話す野山さん。
「FLATBASEでは、不定期で現役大学生がコーヒースタンド『FLAT COFFEE』を出店しています。学生の1人が『コーヒーが好きだからいつかお店をやりたい』と話していたので、『じゃあ、ここでやりなよ!』って声をかけたんです。学業があるため不定期営業ですが、それでもチャレンジできる場を提供したくて」
他にもコワーキングの利用者同士でプロジェクトが立ち上がったり、東京の芸大とアートプロジェクトを始めたりと、共創の種が生まれています。
また、地域の酒米の収穫イベントに参加した際に撮影した動画がバズり、1700万再生を記録。改めて「発信する大切さ」に気づいたそう。
「地域の中では当たり前の光景でも、誰かにとっては非日常だったりする。もっと地域の当たり前を発信していけば、名張のことに興味を持つ人もいるのではないかと。そのためにも、今後は地域の中でやりたいことがある人、発信したいことがある人のお手伝いをしつつ、地域内で経済が循環するような仕組みをつくっていきたいですね」
※地域プレイヤー・野山さんをゲストに迎えFLAT BASEで行う日々三重の「三重の暮らし体験会(1泊2日)の参加者(県外在住の方)を募集中(無料です)!
詳しくはこちらから!
https://www.facebook.com/groups/1513311142742459/posts/1556197241787182
⑤ 多気町丹生 地域資源バンクNIU 西井 勢津子さん
最後にお話しいただいたのは、約14年前に多気町丹生地区へ移住し、地域資源の活用に取り組む「地域資源バンクNIU」の代表の西井勢津子さん。今行っている事業の一つは「自転車の町プロジェクト」。サイクリングツアー「CAZACLE(カザクル)」や、山あそびで体と脳を刺激する「マウンテンバイクの学校」など丹生の自然、人材を活かしたビジネスを展開しています。
名古屋在住でしたが、「地域資源を活かす事業をしたい」という目的から、空き家を探していた西井さん。ご縁があり、丹生で空き家を借りることができたそう。この日は移住者として「空き家とどう向き合うか」ご自身の体験を踏まえて話していただきました。
「私が家を探し始めた14年前は、空き家を貸したいという人は少なかったんです。でもたまたま丹生に『家を貸したい』という方がいて、お借りすることができました。10年住んで、そろそろかなと思って大家さんに『買いたいです』とお伝えしました。移住していきなり空き家を買うのはリスクが高いし、すぐには住み続ける覚悟を持てない人もいますよね。だから、私のようなパターンは移住者にとってすごくいいんじゃないかと思います」
いつまでも大家さんが元気でいてくれるわけではない。だからこそ、最初は借りるという手段をとったとしても、その後どんな暮らしをするのかを考え、空き家を存続させるのか判断する必要があると西井さんは話を続けます。
「老朽化すれば40年は持たないし、年齢を重ねて夫婦だけで住むようになったら平家に住みたい。私たちは30、40年後のことを考えて、空き家を潰して建て替えようという決断をしました。これ以上痛まないように丁寧に住んでいるけど、それを続けるのは大変なことですよね。私たちがいなくなったあと、最後にその家はどうなるのか。理想だけじゃなく、現実もひっくるめて考えるのが、空き家に住むということなんだと思うんです」
移住から14年経過して「移住者」から「地域の一員」として、立場が変化してきた西井さん。サイクリング事業以外にも、まち歩きMAPの制作やシェアキッチン「サラダボール」の運営などまちに新しい風を吹き込んできました。しかし今後は新しい事業を起こすのではなく、地域の人たちが大切にしている活動を、引き継いでいこうと考えていると言います。
「丹生には農地や農業用施設周辺にあじさいを植栽する『あじさいいっぱい運動』や、地域のお祭りなど年齢が70歳以上の人たちで構成されている取り組みがいくつかあるんですが、それをできる範囲で引き継ごうと思って。その人たちがつくった取り組みを、最後まで見届ける人間になろうと思っています」
次回はもっと深く、濃い会にしましょう!
皆さんのお話が終わったあとは、各テーブルで歓談タイム。どのテーブルも大いに盛り上がっていました。
中には、日本の未来について語り合ったという方達も。「勉強になった」「刺激を受けた」と、どの方にとっても有意義な時間を過ごせたようでした。
「普段これでいいのかなと思いながら取り組んでいるけど、地域プレイヤーの人たちと話すことで自信を持てました」という嬉しい声も。困りごとに対して解決に繋がりそうなアドバイスをもらえたという話もあり、各地域でキーパーソンとなる方達が集まると、とても良い相互作用が生まれるのだと感じました。
また「もっとこういった場を設けてほしい」との要望も。こうした交流の場を設けることで、地域同士の交流が活発になり、三重県全体がひとつのチームとなって発展していけるといいですね。今度は、今回参加できなかったプレイヤーの方にも参加していただき、もっと深く、濃いつながりをつくっていきましょう!
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OTONAMIE×OSAKA記者。三重県津市(山の方)出身のフリーライター。18歳で三重を飛び出し、名古屋で12年美容師として働く。さらに新しい可能性を探して関西へ移住。現在は京都暮らし。様々な土地に住んだことで、昔は当たり前に感じていた三重の美しい自然豊かな景色をいとおしく感じるように。今の私にとってかけがえのない癒し。