東側一帯が海に面している三重県。海といっても、それぞれの地域で表情は違う。島国・日本の原風景である漁村や遠浅の砂浜、リアス海岸の険しい海や日本一長い砂礫海岸もある。
志摩市にある国府白浜[通称:国府の浜(こうのはま・こう)]は、近畿地方のサーフィンのメッカ。アメリカ西海岸の田舎町のような開放的な海や店、サーフィンで自然を謳歌するライフスタイルには憧れるとともに、県民として自慢したくなるエリアだ。そんな国府の浜に環境課題解決型複合施設ができたと聞いて仕掛け人を訪ねた。
“いつの時代も100点はないと思うんです”
取材中、仕掛け人は印象的な言葉を続けた。
“不満があるはずなんです”
彼の表現はやや抽象的ではあるが、心に残る。それは、今まで世の中になかったものを作った人に共通している、言葉では説明できない概念的な表現方法だと思う。新しいアイデアをかたちにして歩みを進める。その原動力はどこからやってくるのだろう。
“10年間、嫌なことを積み重ねてきました・・。基礎体力がついた(笑)”
東山迪也さん(36歳)。
地元、伊勢志摩の高校を卒業後、大阪で音楽理論、音響、照明など音楽を総合的に学んだ。音楽活動をこなすなかで、自分のスキルを活かせるのはウェディングだと思い至り三重県内の結婚式場に就職。しかし、型にはまった結婚式しか行われていないことに疑問を持った。
東山さん:それが25歳くらいのときです。当時はほとんど存在しないフリーランスのウェディングプランナーとして独立しました。
結婚式場という場は持たず、新郎新婦に寄り添いながら、主に県内で結婚式場でない場所でもウェディングをプロデュースする新しいやり方は好評で、口コミでうわさは広まっていった。30歳で伊勢市にあったインターネットカフェをリノベーションし、FOLKFOLKを設立。FOLKFOLKはウェディングだけでなくホステル、カフェ、知育玩具のサブスクリプションサービスも行う。
東山さん:FOLKとは人々を表す言葉。FOLKFOLKは人が集まる場だと考えています。でも人が集まって、SNSを交換するだけではもったいないと思っていました。そこでCO Blue Centerの構想が徐々に固まっていったんです。
安らぎながら働く
環境課題解決型複合施設を掲げるCO Blue Centerは、東山さんの親戚の家だったが誰も住まないことになり買い取った。
古民家などを改装した敷地内にはコーヒースタンド、サウナ、図書館、ギャラリー、レンタルオフィス、コワーキングスペースなどがある。なかでも目を引くのがビニールハウス。多気町で特許技術を使い、トマトなどの栽培を行うポモナファームの施設だ。
ポモナファームでは代表の豊永翔平さんがCEOを努めるアグリテックベンチャー企業「CULTIVERA」が持つ「Moisculture」という特許栽培技術で、水耕栽培ではなく湿度で野菜を育てている。目的は世界的な気候変動への対応。塩害による土壌不足、水質汚染や水不足などで大規模な食糧危機が叫ばれる未来を見据え、少量の水分、廃棄水ゼロ、土壌やエネルギーのコストもほとんど掛からない栽培技術を行っている。水、土、エネルギーのオフグリッド化で食糧危機の被害を減らす取り組みは世界から注目が集まっている。
東山さん:豊永さんと出会ったのもFOLKFOLKの音楽イベントでした。ビールを飲みながら話をしていて、農作物を生産するための水不足に対応するために、海水を使った生産のためのラボをしたいと話していました。いまビニールハウスがあるところには牛舎・納屋があったのですが、豊永さんが設計していたハウスのサイズとドンピシャ。CO Blue Centerのコンセプトに意気投合した瞬間があり、お互い「これや!」ってなりました。
東山さんが生まれ育った志摩市にも、日本全国の地方が抱える課題がある。人口減少、少子高齢化、空き家問題などなど。
東山さん:自然豊かな国府の浜のロケーションは、サテライトオフィスにするのに最適だという思いがありました。また企業をスタートアップする人は、がんばりすぎて身体を壊すケースもあります。ここで安らぎながら働くことができれば、いろんな職種の人や、地元の人も集まり、新しい何かが生まれると考えています。そうやって地域を再生するには、大きすぎない500人〜1500人くらいの人が暮らす集落が理想です。増え続ける空き家の利活用も含めて、私は国府という地域で検証しています。結果がでれば地方のロールモデルになると思うし、実際にCultiveraの海水農場ハウスとともに人が集まる場の仕組みづくりも合わせて、ジャカルタのジャパンタウンから声を掛けていただいてます。
優しい時代の風がそよぐ
FOLKFOLKやCO Blue Centerの運営の他にも、プロデュース業やソーシャルビジネスファンドなど6つの事業を展開する東山さん。廃プラスチックから地域通貨をつくるRE;COINも興味深い仕組みだ。子どもが海で廃プラを拾ってくる。それが廃プラでできたコインに変換される。そのコインが地域で使えれば、子どもたちの目には廃プラはゴミではなく資源に映る。循環が求められるその先にある未来を、発想力でたのしんでいるように思えた。ここで改めてお聞きしたい。発想力の原点とは?
東山さん:個人で事業をはじめて10年間。お金もないし、仲間にも恵まれない嫌な時期もありました。10年前に不満を抱いていた自分に、今ならしてあげられる。自分の若いときと若者を重ねると、苦しんで欲しくないなと思うんです。自分より10歳下の世代が伸びてきたら、地域も変わる。そういう世界を若者に見て欲しいです。
次世代の可能性を話す東山さんを見ていると、思うことがあった。それは東山さんは、自分のやりたいことを中心に、生きているのではないということ。
東山さん:自分を主体として好きなことをやっている感じではないです。人と人が繋がってシナジーが生まれる時、それぞれの好奇心が絶頂になる瞬間。この人とこの人がつながったら絶対やばいな、みたいなことに喜びを感じるタイプなんです。
「10年間、嫌なことを積み重ねてきた」と表現する自身の経験をもとに、新しい時代をプロデュースし、地域の可能性を拡げる東山さん。
この10年間で時代は大きく変わったと思う。東山さんはそんな時代の波にトライし続けるサーファーのごとく力をつけてきたのだと感じた。そして新しい時代の波にも挑む。課題が生まれるから、発想が必要となってくる。
ここから歩いて約30秒のところには、サーファーたちが波乗りをたのしむ海がある。
サーフィンをしたり海を眺めては自然を感じ、ハンドドリップコーヒーをじっくり味わう。仕事に集中した後は、サウナや縁側で人と語り合いリフレッシュする。
地域と地球を想う環境課題解決型リトリートセンター「CO Blue Center」が、未来をつくる発想が飛び交う場になっているところを想像してみる。するとここに流れている、新しい時代のやわらかな空気の心地良さに、ふと気がついたのでした。
CO Blue Center
志摩市阿児町国府2920
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HP https://co-bluecenter.com
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事