小さい頃、クリスマスプレゼントを買ってもらったおもちゃ屋さん。店の前を通るたびに、甘い匂いに誘われてしまうお饅頭屋さん。初めて自分のお小遣いで洋服を買った古着屋。津出身の私にとって、たくさんの思い出が詰まった津の商店街。残念ながら、今は思い出の店のほとんどが閉店し、空き店舗に変わっています。
全盛期を過ぎ、静かになった商店街。しかしその一方で、若者が空き店舗を使ってお店を始めるなど、新たな変化も起きつつあります。今回は、5名の学生とともに、津市中心市街地「まちづくりフィールドワーク」を実施。
津新町駅からスタートし、丸之内、大門などの商店街をめぐりました。その中で津のまちの魅力や課題を発見し、どのようにすればもっと愛される場所になるのかを考えました。
何度も通ったことがある場所でも、視点を変えてみると、これまで知らなかった一面が見えてきます。例えば、岩田橋から西に向かって見た景色。
商店の人たちの暮らしが垣間見え、まるで昭和時代にタイムスリップしたかのような感覚に陥る。店が軒を連ねる表側とはまったく違う表情を見せてくれているのです。
歩きながら、まちの記憶をたどる
今回巡った商店街の周辺は、江戸時代は津城の城下町として、そして伊勢神宮へ向かう参拝客で常に賑わうまちでした。特に大門地区は津観音の門前町として栄え、お伊勢参りが盛んだった江戸から明治期までは人がまっすぐ歩けないほど混雑していたのだそう。第二次世界大戦の空襲でまちが焼失するまでは人の絶えない繁華街だったのです。
しかし現在では、郊外型ショッピングセンターの台頭、アクセスの不便さなども相まって、歩いている人をほとんど見かけません。こうして改めて商店街を歩いてみると、やはりたくさんのお店がシャッターを下ろしています。
でも、その下ろされたシャッターによくよく目を向けると、面白いことに気づきました。津藩主・藤堂高虎、津祭りで披露される「唐人踊り」など津の歴史や文化に縁のあるモチーフが描かれているのです。
フィールドワークに参加した県外出身の三重大学の学生には、「唐人踊りを知らない」という人も。不気味な表情のお面にカラフルな衣装。笛の音に合わせて踊る唐人さんが、時折ぴょんぴょんと飛び跳ねながら近寄ってくる。小さな頃はそれが恐怖で、津祭りで唐人さんを見かけると、思わず逃げ出したものです。
まちを「見る」という意識を持って歩くと、建物のデザインや描かれている文字にも興味が湧いてきます。こちらは現在、津市を中心にスーパーマーケット等を展開する「マルヤス」創業の場所。元々はフルーツ専門店だったそう。立体的なブドウの装飾がかわいい。
現在も砂糖などの卸売業を営む太田商店の建物は、佇まいが渋くて、かっこいい。なんだか妙に気になって足を止めてしまいました。
側面にまわると、いくつもの建物が連なり縦長の形状になっていることがわかります。正面からだけでは見えない建物の構造が見えてくる。この建物がどのような歴史を辿ってきたのか、想像するのも楽しい。
道路を挟んで向かい側に目をやると、「千虎金物店」「大原靴」という文字が見えます。今ではスーパーや百貨店、ネットで買い物をするのが当たり前になりましたが、昔は生活に必要なものは専門店に行って買っていた。手間がかかるからこそ、物を買うという行為自体も大切にしていたんじゃないかな。
私がもっとも惹かれたのは、倉田金属の建物。モスグリーンのタイルに映える明朝体のフォント。金属を扱う企業だけあって、四角が組み合わさった鉄格子がユニークでかっこいい。錆びた鉄がより一層、アンニュイな雰囲気を醸し出しています。まるで映画のワンシーンに出てきそうな佇まいだけど、きっと賑やかな繁華街にあったら見逃してしまう気がする。
学生からは「廃れてしまった寂しさも感じるけれど、今だからこそ見える景色もある」という声も。静かなまちを歩きながら、じっと目を凝らし耳をすまして、過去の息遣いを感じる。そんな想いを持ちながらまちを歩けば、これまで気づかなかった魅力を見つけることができるかもしれません。
扉の先は異世界!?「大門商店街 飲食店街」へようこそ
津観音の東側に位置する「大門商店街 飲食店街」にも、思わず写真に収めたくなる景色がたくさんありました。とはいえ、昼間はほとんどのお店がしまっているため、暗くてうっそうとした雰囲気。なかなか足を踏み入れづらい場所です。
昼間はひっそりとしている商店街も、夜になるとお店に明かりが灯り、このディープスポットを好んで足繁く通う人たちで賑わいます。
キーホルダーにしたくなるようなかわいい看板や、異空間につながっていそうな不思議な形のドア。
さほど広い場所ではないのに、迷い込んだら抜け出せないダンジョンのような気もしてくる。
ちょっと入ってみたいような気もするけど、やっぱり勇気がでない…。そんな方におすすめのスポットが「ランタン通り」です。ここは、地域活性化に取り組む「NPO法人サルシカ」が企画・設置した場所。
キャンプスタイルのバー「キャンプバー・ランタン」やベトナムカフェ 「アンコムチュア」などのお店が営業しており、大門商店街の中では、どんな人でも気軽に訪れやすい雰囲気です。
店の前の通路にはランタンが飾られており、ノスタルジックな雰囲気。店内ではクラフトビール やワイン、キャンプ気分を味わえる料理を楽しむことができます。
学生の中には「地元の大人が行く飲食店やスナックに行ってみたい」と好奇心をくすぐられた人もいたようです。しかし、外から店内の様子が見えないお店も多く、入るとなると躊躇してしまう。
こうした店の入りづらさを逆手に取り、SNSに「お店の扉をあける動画を投稿しては?」というユニークな意見も。また、スナックを初訪問するイベントや、ディープスポットを集めたまち歩きマップづくりなどのアイデアも出ました。
もう一度、賑わうまちを見てみたい
まち歩きの途中で立ち寄ったのは、オーデン大門ビル。昭和3年に「四日市銀行津支店」として建てられたギリシャ建築を思わせる立派なビル。明治から昭和初期にかけて建築された銀行の建物は、このような形式の建築が多くあるのですが、古くはギリシャの神官が農民や商工業者に金を貸していたことから、ギリシャ風神殿造りが採用されたのだそう。(諸説あり)
昭和20年の戦時下、辺り一体が焼け野原になった大空襲にも耐え、90年経ったいまなお、その姿を私たちに見せてくれています。
このような魅力あふれるオーデンビルは、現在一階部分は子育て支援の団体が活用していますが、2023年3月いっぱいで閉館。その後の予定は未定です。そこで学生たちと、どのようにこの場所を面白く活用できるかを話し合いました。
特にユニークだったのが、ジャズライブを行うという活用方法。このようなクラシックな洋館でジャズを聴けるなんて最高ですよね。入場口は下に設置して、ここに楽器を置いて…と想像が膨らみます。
高校生や大学生が勉強したり、フリーランスが仕事をするコワーキングスペースとして活用してはどうかという意見も。オーデンビルが建つ大門エリアは夜営業のお店が多く、若年層には立ち寄る場所が少ない。そのため、まずは気軽に立ち寄れる場所が欲しいとのこと。
昼は学生向けのコミュニティスペース、夜はバーなど大人が立ち寄る場所と、時間によって用途が変わるのも面白いのではというアイデアも。他にも、ゲストハウスなどの宿泊施設があれば観光客も呼び込めるのではなど、これまでの概念にとらわれないさまざまな意見を聞くことができました。
学生たちの意見を聞いてみると、若い世代こそ「古いからこそ面白い」という感覚を持っていることに気づかされました。こうしたアイデアを一つひとつ形にしていけば、若者と商店街に接点が生まれ、「レトロ商店街を楽しむ」ムーブメントが起きるかもしれませんね。
全盛期の頃のような華やかさは見られず、静かな時間が流れる津の商店街。しかし、こうして自分の足で歩いて、建物や景色を見つめることで、「今だからこそ見れるまちの姿」があることに気づきました。
色あせてしまった壁の色も、昭和の匂いを感じさせてくれる看板やタイルも、壊されてしまったら2度と見ることができません。ぜひあなたも一度、カメラを片手に津のまちを歩いてみてください。少し視点を変えるだけで、これまで見えてこなかったまちの表情に出会えるはずです。
OTONAMIE×OSAKA記者。三重県津市(山の方)出身のフリーライター。18歳で三重を飛び出し、名古屋で12年美容師として働く。さらに新しい可能性を探して関西へ移住。現在は京都暮らし。様々な土地に住んだことで、昔は当たり前に感じていた三重の美しい自然豊かな景色をいとおしく感じるように。今の私にとってかけがえのない癒し。