偏愛:かたよって愛すること。特定の人や物事を特別に愛すること。また、その愛。
(コトバンクより)
Instagramを眺めていて気になる投稿を見つけた。
松阪偏愛モニターツアー。集合はMADOIという場所。
MADOIはカフェであり、図書館/本屋や雑貨店でもあり、文化センターで集会所でもある。何屋でもなく、何でも屋でもない。MADOIはそんな場。
MADOIを運営しているのはデザインプロデュース会社・合同会社馬鹿鳴都(vacant=バカント)。vacantメンバーは多彩な顔ぶれ。デザイナー、ディレクター、料理人兼イラストレーター、税理士。
松阪で生まれ育ったみなさんがvacantを設立して最初につくったプロダクトが「松阪偏愛マップ」。
今回のツアーは、”旅を介して、地域の活性化や人々の交流に貢献する”ことを目指す〈NICHER TRAVEL(ニッチャートラベル)〉が提供する旅のひとつ。〈ニッチャートラベル〉は、旅行会社の〈阪急交通社〉とナビゲーションサービスの〈ナビタイムジャパン〉の共同プロジェクトとして2022年6月から始まり、自分の愛する地域を盛り上げたいと強く願う人たちと一緒に、独創的な旅をつくっている。
おしゃれで楽しく、地元への偏愛っぷりがあふれている偏愛マップをベースにツアーを造成。以下、当日の様子をリポートします。
情報量多め?のスタート!
MADOIに集まったのは県内外から約20名のモニターツアー参加者。
ツアーのナビゲーターは阪急交通社、ナビタイム、そしてvacantのみなさん。
3班に分かれ、まち歩きをしながらスポットを巡る。まずはお弁当で腹ごしらえ。松阪といえばモー太郎弁当。
モー太郎弁当を手掛ける駅弁のあら竹の社長、新竹浩子さんと娘の廣瀬実奈さん、アコーディオン奏者の林博さんがあら竹の歌を披露。そしてみんなでいただきます。
モー太郎弁当がおもしろいのは、弁当の形状もそうだが、フタを開けると鳴る音楽。民謡「ふるさと」が静かに流れる。光に反応するセンサーが付いていて、なんと3万回も再生できるとのこと。
約20名の弁当からピーピーと「ふるさと」が流れる、シュールなランチタイム。食事中もあら竹さんによる演奏で盛り上がるMADOI。弁当を頂きながら、松阪の国学者・本居宣長の子孫で、作曲家の本居長与のレトロ感のある曲を聞けば旅情的な心持ちに。
アコーディオン奏者の林さんは国鉄時代からの現役運転手さん。あれ?今日は何を取材しに来たのだったか・・。序盤から情報量多めの昼食を終え、向かったのは本居宣長記念館。
宣長と息子のものがたり
道中、地元育ちのvacantのみなさんにナビゲートいただけるので楽しくまち歩き。記念館に到着して学芸員さんにお話を聞きながら展示物を眺める。開催していたのは冬の企画展「宣長と春庭」。
宣長は日本を代表する国学者であり医者。松阪商人の名家に生まれるも商売の才能がなかった。江戸に修行に行くが「本ばかり読んでいて話にならない」と返された。本と名の付く物なら何でも読んだという。
松阪に帰ってきてまず行ったのが日本地図の作成。伊能忠敬が全国を巡り、測量による地図を完成させる60年前だったという。
どうやって作ったかは謎だが、かなり細かいところまで地名などが記されている。その後は医者になり、松阪と伊勢を往診で通う日々。当時は徒歩で移動。夜な夜な古事記の研究を行い、32年掛けて全44卷の古事記伝が完成。
直筆の古事記伝。宣長は字がキレイで誤字がほとんどなかったという。うかつに誤字がある手紙を宣長に送れば、添削されて送り返されることもあったらしい。
そんな宣長の息子・春庭(はるにわ)もかなり器用。しかしながら29歳で病の末に失明。
鍼医者になるべく京都での修行中に宣長に送った直筆の手紙の文字には、美しく繊細な春庭のタッチは残っていない。その後も文学の研究を重ねた春庭は、動詞の活用の法則を発見。
教科書だと宣長や動詞の活用などぜんぜん興味が湧かなかったのに、やはり学芸員さんのお話はおもしろく、心が動かされる。
その後、宣長が過ごした家「鈴屋」や松阪城跡を見学しながら歩いて移動。
松阪わくわく散策!
松阪市産業振興センターで松阪市観光交流課課長・福山圭さんから松阪市の魅力についてお話を聞かせていただく。
印象的だったのは、松阪御城番屋敷に住むことができること。家賃は7.5万円で駐車場もあるのだとか。歴史好きには堪らないロマンがある暮らしだと思う。
講演のあと、豪商のまち松阪観光交流センターや周辺にある豪商の屋敷などを散策。松阪の観光のいいところは駅から城や豪商の町を歩いて巡れること。
焼肉屋は斜めっているくらいがいい。
散策のあとはMADOIにもどり、しばし休憩。
vacant代表でディレクターやデザインを手掛ける、中瀬皓太さんにお話を聞いた。偏愛マップを作ろうと思ったきっかけとは?
中瀬さん:ウシ(松阪牛)以外もあるじゃないですか、地元には。既存の松阪の観光ガイドブックなどを見ても、キレイすぎるというか。背伸びした観光ブックに「こんな松阪、僕たちは見たことない」と感じたんです。そして、等身大の方がおもしろいと。vacantらしいマップを編集したかったんです。偏愛マップのあとに、愛宕純愛マップというナイトマップも作りました。
偏愛マップに掲載されているお店などには、ひと工夫が施されている。
中瀬さん:おじいさんやおばあさんと孫が見ても、わかるところを中心に選んで掲載しました。祖父母と孫の会話になることで「今度行ってみようかな」となり、僕たちが好きなお店などの魅力を年代をまたいで引き継がれていけば嬉しいなと。
今後の展開についてもお聞きした。
中瀬さん:偏愛マップに町の銭湯も掲載していますが、マップで掲載するだけじゃなくてもっと深掘りして魅力を伝えたいですね。あと郊外のマップも作って、今回のようにツアー化してもおもしろいと思います。
ツアーの終盤、夜ご飯はやはり焼き肉。vacantがチョイスしたのは偏愛マップにも掲載している「一升びん平尾町店」。
中瀬さん:建物が斜めっていて、いいんですよ。いかにも「美味しい焼き肉」が食べられそうでしょ?
焼き肉のあと、希望者で歓楽街・愛宕町で地元で愛されるお好み焼き店の「ちょろ松焼き」などを堪能してツアーは終了。
宣長先輩と後輩たち
地元の人が、リアルにおすすめするお店やスポット。それはインターネットの評価ではなく、地元の人が知っている貴重な情報。令和5年の目線で、地元をもう一度見つめ直してみる。そこにはお宝が眠っているのかも知れない。
たのしそうに地元を再編集する皆さん触れ「たんけんぼくのまち」というテレビ番組を思い出した。そしてなんだか私も自分の地元の地図を描いてみたくなった。
日本地図という壮大なマップを描いた本居宣長は多分、日本が好きすぎるという偏愛にあふれていたのだと思う。そう想像すると夜な夜な古事記伝を書いていた宣長さんの、愛らしい一面を感じるのでした。
MADOIの由来(HPより)
円居(まどい)
「1か所に集まり会すること」、
「特に親しい者どうしが集まって楽しむこと」の意味を持つ円居。
松阪市を代表する国学者 本居宣長パイセンも
夜な夜な歌会や交流会を開き円居を楽しんでいたそうな。
昔からなんてクリエイティブなことをしてるんだろう。
遊べる集会所 MADOI
松阪市平生町10−2
hp https://madoi.mie.jp/
in https://www.instagram.com/madoi_2021/
ニッチャートラベル
hp https://www.nichertravel.jp/
in https://www.instagram.com/nichertravel/
tw https://twitter.com/nichertravel
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事