ホーム 01【食べに行く】 時を忘れて、ミステリアスな森へ。

時を忘れて、ミステリアスな森へ。

地名が「森」だなんて、ちょっと変わっているというか、ミステリアスだと以前から思っていた、松阪市飯高町にある森地区。今回はそんな私のミステリーツアー にどうかお付き合いください。

松阪市飯高町にある森地区には、奧香肌峡と呼ばれる峡谷がある。櫛田川の支流である蓮川の上流沿いに位置し、巨岩や奇岩、滝などの自然美に魅了されるハイカーや登山者が多く訪れる。奧香肌峡を代表する「宮ノ谷渓谷」のトレッキングには、何度か参加したことがある。個人で行くには危険な箇所もある為、是非とも地元のガイドさんと歩いてほしい私のお勧めの渓谷だ。

宮ノ谷渓谷

 

今回は県道569号蓮峡線の奥地まで行ってみることにした。この道の先に群生するジギタリス(別名、キツネノテブクロ)という花をカメラに収める為だった。滅多に人が通らない場所だと聞いていたが、その日は2、3人の先客がいた。


 

ジギタリスには毒があり、花言葉は「不誠実」「不真面目」。そして斑点などの集合体が苦手な方は、花の中の模様を決して覗かないで欲しい。写真に映った斑点を拡大してみると、背中のゾワゾワが止まらなくなる。西洋では暗く寂れた場所に繁茂し、不吉な植物のイメージがあるという。「魔女の指抜き」「血の付いた男の指」などと呼ばれていた地域もあるのだとか。

ジギタリスは、かなり急な斜面に群生しており、細い道を挟んだ反対側は断崖絶壁。ファインダーを覗きながらうかつに後退りしようものなら、足を滑らせて落ちてしまいそう。わざとそんな場所に群生しているのかと思わせるほど、どことなくミステリアスな有毒植物である。お出かけの際は、道が狭い為くれぐれもご注意を。さらに奥へと車を走らせると…そこはうっそうと木々が茂る、廃村だった。

 

地図に無い、失われた「蓮集落」

何軒かの廃墟が残ったまま

蓮(はちす)集落は、ダムの建設に伴い、水没地には含まれていなかったものの、全住民が離れる選択をした集落だ。その終点には森小学校蓮分校跡が残されている。過去には、蓮分校の教員が通勤途中に落石に巻き込まれ蓮川に転落、死亡する事故があった。蓮の住民は教員の遺体を引き上げ、分校の裏山に埋葬したという。その教員の事績を綴った「ともしびの碑」が分校の正門前に建立されたが、現在は森地区にある香肌小学校に移設されている。あえて淡々と書いているが、色んな感情の処理が全く追いついていない私。やっぱり、ミステリアスな森。

残された分校の記憶
分校跡と謎のいす

昭和60年頃まで集落には人々の暮らしがあり、子供たちの賑やかな声が校庭に響いていたのかと思うと、急に人里が恋しくなり、蓮分校を後にした。

 

本とジャズで繋がる、森地区のカフェへ。

ゆったりとしたジャズが流れる「いいたかBOOK JAZZカフェ」は、明治7年に建てられた元庄屋の古民家で、飯高町の硬水で淹れたコーヒーが楽しめる。(土・日・祝日の11時から18時まで営業)

メニューにあるマタギ餅は猟師の保存食をアレンジしたもの

東京で建築家として設計事務所を営むかたわら、自然が好きな店主の小島さんは、ツリーハウスを立てる活動もしていた。夜明けが来る前に、その気配を感じた鳥が鳴き始める。夜明けは先に音が来る、これがツリーハウスでの楽しみの一つなのだそう。

小島さんが建築に関わったツリーハウス

少年時代に、疎開先の里山で暮らした経験のある小島さんにとって、東京から森地区への移住はそれほど高いハードルでは無かったという。

小島さん:人生最初の記憶というのが東京大空襲なんです。空襲のサイレンが鳴ると、家族みんなで窓に黒い紙を貼り、光が漏れないようにした記憶があります。それが家族恒例のイベントのようで、全く嫌な感じがしなかったんです。その後、疎開先である山形県の里山で5年ほど過ごしました。

オーナーの小島さん

早く東京に戻りたいとは思わなかったという。疎開先の自然の中で伸びやかに暮らす少年の姿が目に浮かぶ。身近にいる戦争体験者が少なくなった今、体験談を直接聞かせてもらえる時間はとても貴重に感じた。

小島さんにお勧めの本をセレクトしてもらった。一冊100円で本の貸し出しも行っている。ミステリー好きな小島さんお勧めの「山怪」は、日本各地の猟師たちが実話を語った、山での奇妙で怖ろしい体験談を集めたもの。

スヌーピーの本は娘用に

読んでいると突然、私の祖母が狐の話をよくしてくれたことを思い出した。懐かしくなり、「狐が化けて家に来た話、ばあちゃんからよぉ聞いたよなあ」。と父と母に尋ねると、「そんな話、いっぺんも聞いたことないわ。」とまるでミステリーのような答えが返ってきたのだった。

時が止まったようなあの場所は、本当に存在しているのだっけ。今思い出してもそんな気持ちになる森へ。時間を忘れたい時に、また訪れようと思う。

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