ホーム 02【遊びに行く】 エジソン休憩所 〜コーヒーを五感で感じる場所〜

エジソン休憩所 〜コーヒーを五感で感じる場所〜

「吉田昌太朗さんと高橋みどりさんの結婚は衝撃的でした。それはもうガッキーと星野源が結婚した時と同じくらいの。」

 
そう語るのは亀山にあるカフェ『エジソン休憩所』のオーナー、日向野(ひがの)さん。
 
栃木県出身の日向野さんは東京の有名店『堀口珈琲』で働いた後、結婚した奥さんの実家である三重県亀山に引っ越し、カフェ『エジソン休憩所』を開店した。
 
日向野さんは学生時代に多大な影響を受けた『アンティークタミゼ』のオーナー吉田昌太朗さんと、フードスタイリストの高橋みどりさんが結婚したことに衝撃を受けるとともに、大好きだったその2人が結婚したことをとても嬉しく思ったそう。
 
吉田昌太朗さんも、高橋みどりさんも、雑誌『ku:nel』や『Arne』を読んできた世代にとっては憧れの存在で、その2人が結婚したことは確かに『その界隈』にとっては大きな祝福とともに大きな話題となった。
 
華やかなで非現実的な世界への憧れではなく、日常に根ざした仕事と生活と暮らしの中の芸術…..吉田昌太朗さんや高橋みどりさんに憧れた『その世代』は、そんな感覚と、「せっかく独立するのなら、自分の好きなことをやろう」という思いが、いつもどこかにあったように思う。
 
日向野さんが独立して開店したカフェ、『エジソン休憩所』。
 
吉田昌太朗さんや高橋みどりさんの話を聞いた後、落ち着いてカフェを眺めてみると、なるほど、日向野さんの『好きなこと』や『やりたいこと』がカフェを通してそこかしこに現れているのがよくわかる。

『エジソン休憩所』入り口。倉庫を改装したカフェ。

 

元倉庫だった名残がある天井。

亀山にある倉庫を改装した『エジソン休憩所』の不思議な雰囲気と居心地の良さは、この土地とこの建物が持つ雰囲気と、日向さんの『これまで』が、この場所で混ざり合った結果なのだと思った。

 

10月某日、『エジソン休憩所』のカフェの横のスペースにコーヒー豆の焙煎機が導入されるということを聞いて、見学を願い出た。

コーヒー豆を焙煎する現場は、友達のツテを辿ればいくらでも見学させてもらう機会はあるけれど、『焙煎機の導入の現場』はなかなか見る機会がない。
そのなかなか見ることのできない焙煎機の導入の現場を見させていただくことになった。
 
ある日の朝9時。
焙煎機が導入される日。
休業日の『エジソン休憩所』に続々と集まる人々….。
 
焙煎機のメーカーさん、煙突工事の業者さん、ガス屋さん、オーナーの友人のカメラマン、そして、僕を含めたもの好きな見学者たち。
 
まずは焙煎機の設置。
『エジソン休憩所』のカフェの横のスペースに焙煎機が運ばれていく。
焙煎機はそれ自体の自重が重いため、地面への固定作業などはなく、置くだけで設置が完了した。

 

フジローヤルの焙煎機

そして煙突の設置。
コーヒー豆の焙煎は作業の過程で多くの煙を出すため、部屋から外へと煙を出す排煙装置(=煙突)の設置が必要不可欠。

焙煎機の設置作業のほとんど時間が排煙装置の設置工事の時間だった。
煙突の設置工事

煙突の取り付け工事を見守りながら、日向野さんのちょっとしたライフヒストリーと、『コーヒーの焙煎とは何か?』という話を色々と伺った。
焙煎機の設置を見守るもの好きな人たち。焙煎機の周りでは、焙煎機と煙突の接続作業や煙突設置作業が行われている。

 

色んな角度から設置を見守る。

コーヒーの焙煎とは、そのまま、生のコーヒー豆に熱を通すだけのシンプルな作業。

焙煎機の構造もいたってシンプルで、回転するドラムにコーヒー豆を投入し、ドラム全体に熱が行き渡るように火を入れる。
 
そんなシンプルな作業なだけにその奥は深い。
 
『自分が理想とする味』をあらかじめ想像し、その味に焙煎という過程を通じてどうやってアプローチするか。
 
そのアプローチの方法には人それぞれのやり方があり、正解はない。
 
産地によって個性の違うコーヒー豆。
どの豆を、どれくらい焙煎して、どの分量でブレンドするのか….自分の理想とするコーヒーの味、そして商品として安定したクオリティのものを出せるようになるまでには、何十回も、何百回も焙煎してみないとわからない。
 
1回1回の焙煎で時間や温度などの調節を重ね、味を確かめ、細かくデータを取る。
 
商品として出せるものが出来上がるには、この後数ヶ月の調整が必要なのだそう。
 
そんな話を聞いていると、彼自身がまるで、白衣を着てグラム単位でコーヒー豆を調整し、実験を繰り返す科学者(エジソン)のように思えてきた。
 
そうこうしているうちに煙突工事も終了し、全ての設置作業が終了した。
 

その後、日向野さんは業者さんの説明を受けながら、テスト用のコーヒー豆を使って、初めて焙煎機のスイッチをONにし、初めての『火入れ』を行った。

 

業者から説明を受ける日向さん
 
焙煎機のドラムが回転し、火で温められ、しばらくすると熱気とともにコーヒーのいい香りが漂ってきた。
ほどなくして、取り付けたばかりの煙突から初めての煙が立ち上る。
 
カフェが『休憩所』なら、焙煎機のあるこの空間は『研究所』。
 
初めて研究所が始動する瞬間に立会うことができた。
 
回転するドラムに取り付けられたハンドルを抜き差しし、時々焼き上がりをチェックする(コレがやってみたかった!)
レバーを上げると、回転ドラムの中から焼きあがったばかりのコーヒー豆が。

何度も焼き上がりをチェックした後、初めてのコーヒー豆の焙煎を終えた。
 
焼きあがったコーヒー豆がドラムの中から一気に外にザーッと出される。
 
その瞬間、思わず拍手が鳴った。
 
なんとも言えない感動と喜びに包まれた。
(まるで赤ちゃんが生まれた瞬間に立ち会ったような)
 
余談だが、焙煎機の会社(フジローヤル)の方にも、色々とお話を伺った。
 
なんと、このコロナ禍でもコーヒーの焙煎機の売り上げが横ばいを維持してるそう。
(むしろ生産が追いつかないくらいだそう)
 
その一因に考えられるのがコロナ禍での『副業』にあるのではないか、ということだった。
 
コロナ禍でコーヒー豆のネット販売を行うために、新規事業のための補助金を利用して焙煎機を導入している人が多いのではないか、ということだった。
 
しかし、果たしてコーヒー豆のネット販売が、それほど上手くいくのかどうか……という話を、今度はオーナーの日向野さんに見解を聞いた。
 
「コーヒー豆のネット販売で検索をかけてみたら、星の数ほど出てくる通販サイトの中で、果たしてどうやって自分の焙煎したコーヒー豆を買ってもらうのか?」
 

という第一声。
 
確かに。
あまつさえ『コーヒー』という枠組みの中で突出した特徴を出すことができないにも関わらず、さらにネット上ではコーヒーの試飲もできない。
 
そういった中で売り上げを出していくのはかなり厳しいのではないか、ということだった。
 
僕自身もカフェをやっているのでそこはわかるつもりだが、カフェとは、それそのものが一つの『メディア』として機能していく。(していかなければならない)
 
そこで作られているものがそこで味わえる『場』、というのはとても大切で、その『場』を持たずに何かを売るのはとても難しい。
 
コーヒーがその場で味わえて、そのコーヒー豆も買って帰れる。
 
シンプルだけど、それがカフェの理想形だと思う。
 
『エジソン休憩所』では、『休憩所』の横の『研究所』に焙煎機が設置され、コーヒーを飲みながらコーヒーの焙煎機が稼働しているのが見える。
 

味だけでなく、香りや音や熱…..ネットではわからない、コーヒーを五感で感じられるカフェがそこにあった。

尽きないコーヒー談義と焙煎機設置の見学を終え、帰路に着いた。

いつかまた焙煎機が稼働しているカフェ『エジソン休憩所』を訪れて、コーヒーを五感で感じたいと思った。

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『エジソン休憩所』
三重県亀山市亀田町469
営業時間 10:00~16:00
定休日 日曜日
instagram → https://www.instagram.com/edisonkyukeijyo/

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