三重県に暮らしていても「今日の夕飯は、また伊勢海老かー」とはならず「また松阪牛かー」ともならず「またカレーライスかー」はときどきあります。
むしろ伊勢海老やアワビ食べる機会は、都心のフレンチやイタリアンレストランの方が多いのかも知れません。
これは三重県民あるある(?)かも知れませんが子どものとき、父がゴルフか何かの賞品で伊勢海老を持って帰ることがあります。ふたをあければ、おがくずのなかでむくむくと動く生きた伊勢海老。普段はまず台所にいるはずのない伊勢海老の圧倒的な存在感。ザリガニすら触ることを躊躇するのに、海老界の王様・伊勢海老という特別な存在に興味がでて、おそるおそる箱のなかにいる伊勢海老を手で取り出そうとします。しかし「ビンビンッ!」と動く伊勢海老に「わ!」となり、ついシンクに落としていまい、シンクでも「ビンビン!」と生命力溢れる伊勢海老に敗北感を覚えるのです。
伊勢海老はこの「ビンビン力」で海のなかで敵から逃げ、甲冑のような殻をまとい、自然のなかで力強く生きてきたんだなと思うと、50mを10秒台で走る自分は、本当はもっとがんばれるのではないかと思えてくるのです。
さて余談はここまでにして・・。
ゴルフコンペか何かで「おめでとう!伊勢海老当たりだよー!」「やった伊勢海老が当たったー!」というシーンが一生に一度や二度はあるかも知れません。しかし「やったー!」と喜んでいる場合ではないのです。漁師町の人など海老さばきに慣れた人でない限り、家に帰ったらゴルフで疲れた身体で生きた伊勢海老との格闘が待っています。そして丸ごと一匹の伊勢海老は、どうやって食べたらいいのか・・、考えなければなりません。台所で生きた伊勢海老を片手に「ひぇー!」と声を漏らせば、大人たる威厳にも関わります。しかし「あぁ、松阪牛が当たった、アイツがうらやましい」と嘆くことなかれ。キチンと調理して伊勢海老を美味しくいただければ、その場で一躍ヒーローになれるかも知れません。松阪牛のすき焼き鍋奉行になるより、鼻高々なわけです。
では、伊勢海老のある人生をたのしむために、美味しい食し方をご紹介します。
別件の取材(三重の里 いなか旅のススメ)で、鳥羽市相差にある海女小屋「はちまんかまど」にやってきました。ここでは本物の海女さんが、伊勢志摩の海の幸を焼いてくれます。海女さんとのおしゃべりも楽しみのひとつです。
生きた伊勢海老は氷水に浸すとおとなしくなります。伊勢海老が曲がらないように尻尾から頭に掛けて串を刺します。
後は丸ごと焼いていくだけ。シンプルな調理法ながら、火を入れることで甘味が増し、伊勢海老の大きな身の食感を贅沢に味わえます。
ちなみに海女さんたちは今朝も海に潜っていて、今年のアワビは肉厚だそう。そんな美味しそうなアワビも焼いてもらいます。
焼き上がるまで海女さんにお話を聞きました。鳥羽や志摩の海女さんは日本で一番数が多く、日本遺産にも認定されているほど。私はこの地域の出身ではありませんが、友人の母が海女さんだったり、まるで田園地域に農夫が多いように、海女さんがいる暮らしが根付いています。地元の人からすると当たり前のことなのですが、世界的にもこのような暮らしが残る地域は特別で、はちまんかまどには多くの外国人観光客も訪れます。それは日本人が南フランスのワイナリーで、地元の農夫とワインとパンやチーズなどを愉しむような感覚なのでしょうか。などと考えていると伊勢海老が焼き上がりました。
身の取り出し方も海女さんが丁寧に教えてくれます。
まず頭と身の部分の殻を持ちます。
身を持っている手を少しひねり手前に引くと、頭に詰まった身も取れます。
身の部分の殻は、横を持ってギュッと握り潰すと
殻が外れやすくなります。
頭も側部を両手で持ち、
力を入れる(頭は結構な力が要ります)と二つに割れて、海老味噌も愉しめます。
デン!と大きな伊勢海老の身に海老味噌を付けていただきます。海老=プリプリという表現では足りない、ブリンブリンの食感の伊勢海老は甘く、香ばしい海老味噌をつければ味に深みがでます。豪快にいただく伊勢海老からは磯の香りも相まって至福のひと時です。
アワビも火を入れることで柔らかな食感になり、噛みしめると溢れる旨味や海藻の風味を感じ「海の幸が豊富な日本は最高!最高!」と思うわけです。
味噌汁は伊勢海老出汁にアオサの風味、海女さんが獲ってきたヒジキ、貝に干物。海の横というシチュエーションで潮風も心地良い癒しの時間。
食事が終わるころ、海女さんたちが集まってきて「相差音頭」の演舞を披露。想い出に華を添えてくれた海女さんたち。
そして最高齢の海女さん・レイ子さんの「元気な海女・レイ子のお守りストラップ」も購入できます。(取材ということでプレゼントしてもらいました。ありがとうございます!)
これで生きた伊勢海老がうっかり自宅に届いてもご安心ください。また、日常の喧騒から抜け出し、非日常の旅に出かけたくなったら、風光明媚なリアス海岸が広がる伊勢志摩で海女さんとお食事はいかがでしょうか。
そこには、ゆったりとして時間が流れています。
Photo 松原 豊
取材協力
海女小屋 はちまんかまど
〒517-0032 三重県鳥羽市相差町819
はちまんかまど予約案内所 TEL 0599-33-1023
HP https://amakoya.com/
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三重の里 いなか旅のススメでは、OTONAMIEのライターさんが特集記事を綴っていきます。
ぜひご覧ください。
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村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事