ホーム 02【遊びに行く】 いつまでも変わらないでいてほしい場所

いつまでも変わらないでいてほしい場所

JR熊野市駅からまっすぐに進むと、ほどなく開放的な太平洋の海と美しい七里御浜が迎えてくれます。それに沿って走る国道42号線からは名勝・獅子岩。この辺りは、花の窟神社、鬼ヶ城、松本峠と見どころいっぱい。でも、熊野の魅力はそれだけではありません。

交通のアクセスがさほどよくない、東京からも大阪からも遠いこの地には、世界遺産を目的で訪ねる人が多いでしょう。でも一週間でいい、暮らすように旅をすれば、世界遺産だけではない熊野の不変の魅力を十分に知ることが出来ます。

熊野市街地から県道34号(七色峡線)を七色ダムに向かって、車で走ること50分、山間に開けた神川町に着きます。春には桜が人を呼び、七色ダムから北山村に抜ける辺りは、ツーリングスポットとしても人気。日本で唯一那智黒石が採掘されるため、碁石の里としても知られます。人口は500人に満たないでしょう。それでも、この町の温かさ・懐かしさはずっとここに在り続けます。

変わることが当たり前の生活環境にどっぷり浸かってしまった今、変わらないことの凄さを、ここへ来ると考えさせられます。変わらないことは尊いとさえ思えます。

神川にはもうひとつ誇れる場所があります。県道34号、正面の家の向こうに現れます。

碁石の里「神川温泉」共同浴場

ここは、加水なし100%源泉かけ流しの硫黄泉、知る人ぞ知る名湯なんです。一見すると、とても素朴な地元の共同浴場ですよね。でも、温泉ファン憧れのスポットでもあり、隣の奈良県からもわざわざ峠を越えて来るほどです。

お湯は透明で柔らかく、入った後はじんわりポカポカが続きます。熱い場合は「冷」のコックをひねると冷水が出て来ますが、実はこれが源泉そのもの。神川温泉は冷泉なので、入浴出来るように加温しているのです。

写真を見ていただくとおわかりと思いますが、一度に入れるのはせいぜい3~4人程度。なので、満員の場合は受付のあるサロンで待たされることになります。この待ち時間、地元のおじい様やおば様が談笑されており、溶け込むように自分もその空間に浸れます。旅先ではこの日常感が、自分にとっての非日常となるのですが、不思議とそうではありません。

この施設は地元集落の人たちで維持運営されているそうです。「大変なのよ」と言いながらも、長く続けておられます。小さいながらもとても清潔で居心地の良い空間です。冬場は外に出ると真っ暗、でも灯りが全然ないわけではない。臼のようにこじんまりと囲まれる集落は、冬の静寂と星の美しさが反比例し、都会とはまるで逆。この体験が自分を「無」にしてくれます。

過疎が懸念されて久しいこの地は、訪れる度に何も変わらない。そう思わせてくれる、それを確認しに来るための場所。もしかするとここは、熊野の神々に守られているのかもしれない。そんなことをたまに考えます。どこか片隅で覚えていてくれて、神川を訪れる人がいてくれたら嬉しい。

 

碁石の里「神川温泉」共同浴場

住所 三重県熊野市神川町神上214
TEL 0597-82-0001
営業時間 16:00〜20:00
定休日 日・月・水・金曜日
料金 大人400円 小人200円

 

 

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