私が暮らす津市安濃町にあのう温泉という、いささかシブめの温泉があります。市が経営していて利用料は13歳以上は300円、3歳〜12歳は150円、2歳以下は無料という良心の塊のような価格設定。泉質はナトリウム塩化物。少ししょっぱい系の湯で効能は疲労回復、神経痛、関節痛、きりきず、やけどなど。
自宅から自転車で5分くらいで、たまに行くと地元の人で結構賑わっています。そんなすばらしいあのう温泉に、最近おしゃれな「安濃古道具屋」とコワーキングスペース「DEER KICK LABO」からなるアノウラボができました。
みんなでつくったコワーキング
アノウラボがあるのは温泉がある施設の2階。運営する安濃町出身・在住のデザイナー、森谷哲也さんにご案内してもらいました。
廊下は昔ながらの公共施設という感じですが、
扉をあければスタイリッシュな雰囲気のコワーキングスペース。
漆喰が塗られた壁は、開業のときのクラウドファンディングの支援者や仲間で塗ったそうです。
森谷さん:ムラがあるのも、子ども達も含めてみんなで作ったからです。
そんな味のある空間のデスクやイス、カウンターは津の杉を使用。製材所を営んでいた祖父、木材加工とアンティークのMokuzanを運営する父をもつ森谷さん。昔、安濃は杉の産地だったと教えてもらいました。
森谷さん:ここからの眺めがいいなと思うんです。
一面に広がる田んぼ、長谷山や経ヶ峰の山々を望むコワーキングスペースはイベントスペースとしても活用され、地元の親子などを対象にしたワークショップも開催。
森谷さん:みんなで小麦を生産してパンを焼いたり、将来的には農業も体験できるようにしたいです。
農村・安濃のポテンシャルを活かした取り組みに期待。
鬼化けするかも知れない!?子どもたち
コワーキングのとなりの部屋は安濃古道具店。置いているものがユニークで見ていて飽きません。
実用的なランプシェードから、錆び具合がオシャレな栓抜きや鍵、またヒーメリなどのオブジェまで様々。
海で使うイカリもショップなどのインテリアにしたら映えそうです。
こちらは森谷さんがデザイン・プロデュースをしているビスケットネックレス。自分でビスケットや紐の組み合わせを決めてオリジナルの一品を作ることができ、ワークショップなども行っています。木材は需要が減ってきている尾鷲のヒノキを使用することで、地域のPRにも繋がる活動です。
ところで、なぜ森谷さんはアノウラボを始めたのでしょう?
森谷さん:あのう温泉のある安濃交流会館について関心表明という「意見の言える機会」があったからです。
そのような機会に参加したのは、生まれ育った地元への思い入れのような感覚でしょうか?
森谷さん:けっこう微妙に思い入れがあるんですよ(笑)。
アノウラボのキャラクター「アノウサン」にもその思いが込められ、旧安濃町の町章をモチーフにされています。
森谷さん:着ぐるみで「着るアノウサン」や「食べるアノウサン」にも展開したいです。
美し国おこし・三重の地域担当プロデューサーも務めた森谷さんは、安濃町以外の地域に関わるお仕事がメイン。奔走するなか、とある友人に「安濃におるのに地元で何かしないの?」と問われ、背中を押されたといいます。
森谷さん:教育支援や、空き家が増えているので不動産の仕組みを変えたいと思っています。そのためにはまず「場」がいるなと。
こんなエピソードを教えてくれました。
森谷さん:アノウラボに地元の10代の子がきて、WEBの勉強のためにコワーキングスペースのホームページを作りたいと相談があったんです。いわゆるjimdoなど簡単にだれでも作れるホームページではなく、HTMLやCSSのプログラミングコードを書いて作るホームページです。素晴らしい意欲だなと関心してふと思ったのですが、学校教育ではその意欲は引っかからない。これってちょっとやばくないですか?学校の授業じゃなくても、大人が子どもに提供できることはいっぱいあると思うんです。
そう話す森谷さんは、地域の人間関係の繋がりが薄くなってきていることも肌で感じているといいます。
森谷さん:僕たちが子どものときにあった人間関係、例えば「ちょっと年上のお兄さんやお姉さん」みたいな人に何かを教えてもらっていた。これを「ナナメの関係」と呼んでいるのですが、それを地域に作りたいです。地域内の上下の繋がりです。地域内で子どもたちに何かを教えて、それを大人たちがおもしろがれば、子どもは鬼化けします。例えばアノウラボで、子どもが自分たちでなにかを売って、儲けてもいいと思うんです。
まさに地域に「場」が求められる現代、そこに子どもの存在があればもっと輪は広がっていきます。そういった繋がりから空き家問題にまで展開する可能性も。
森谷さん:空き家が増えているのに、貸さない、売らないでは老朽化による倒壊や町の景観への影響など、実は周りが一番困る。貸す借りるのマッチングができれば解消できると思います。不動産の取り扱いは資格がいりますが、唯一いらないのは行政。そういった方々とも連携していきたいです。
今までいろんな地域の「場」を取材してきましたが、それぞれの「場」で思いやコンセプトが違うのがおもしろいなと思います。そして共通しているのは「場」を運営している皆さんがたのしそうなこと。まるで子どものころに秘密基地を作り、そこで友だちと語らうかのような自由でわくわくしている感じが伝わってきます。
アノウラボで仕事して、煮詰まったら温泉入って、仕事しながら誰かとおしゃべりして、帰りにもう一回温泉に入るって・・最高!
いつしか安濃町のランドマークになるかもしれないあのう温泉は、できれば町民として、このままシブめの外観であって欲しいと思うのでした。
取材日:2021年1月12日
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村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事