ホーム 02【遊びに行く】 02イベントレポート 「祈り」をテーマに字を書く人・伊藤潤一のこれまでとこれから。

「祈り」をテーマに字を書く人・伊藤潤一のこれまでとこれから。

ことごとくライブやイベントが中止になっている今年。

芸術の秋、みなさま音楽やアートに飢えてませんか?

 

今日は三重県の端っこで、三密を避けて開催されている書の個展を紹介します。

期間は11月8日(日)まで。

 

書家・アーティスト 伊藤潤一

わかりやすくするためにそう名乗ってはいるが、職業なんですか?と聞かれると「筆と墨を使って字を書いてます」本人はそう答えるそうだ。

2016年に一度OTONAMIEの記事になっているので、見たことある人もいるかもしれません。→https://otonamie.jp/?p=21567

なぜ書を始めたのか、書への思いなどを知りたい方は、彼のホームページをじっくりご覧いただくとして。→https://itojunichi.com

ホームページ内の経歴を見ると海外での様々な活躍が並ぶ中、前回のオトナミエの取材後2017年頃から「〇〇神社 作品奉納」などそれまでと明らかに活動のフィールドに変化が見られます。

なぜそうなったのか、また今回の個展への想いなども聞いてきました。

 

 

去年の10月、彼は伊勢の外宮参道にて個展「祈り」を開催。

2019年10月、伊勢市外宮参道ギャラリーにて。

終了後、彼のおばあちゃんがその個展を見てみたかった。と言っていた事を知ります。

紀北町に住む高齢のおばあちゃんにとって、伊勢までの道のりは少し遠かったのだろう。

その直後に熊野古道センターから、来年個展やりませんか?のオファー。

紀北町から尾鷲市までは車で30分程度、この機会を逃さない手はありません。

 

2020年になり新型コロナウイルスが猛威をふるい、予定していた全国各地でのイベントや「祈りの旅」は延期や中止せざる得ない状況に。

熊野古道センターでの個展も直前まで開催決定しないまま・・しかし、自分の中では心の準備を整えていたと言います。

 

こちらは今年4月、コロナウイルス鎮静祈願祭にて書かれた作品。

個展開催が正式決定したのはなんと開始の約1ヶ月前。

そこから作品制作と会場内で流す映像や音楽、チラシ、打ち合わせ・・・いろんな人を巻き込み急ピッチでの準備が始まりました。

 

 

8月中旬のまだ暑い日。熊野古道・馬越峠。

鼻歌を歌いながら歩くには少々難しい山道を登り、辿りついたそこは、爽やかな空気と流れる川の音がとても気持ちいい場所。

スタッフと和やかに談笑しながらのぼり始める、はじめはみんな笑顔。

 

その土地に流れる空気や自然の豊かさを感じ、流れる川の水で墨をすり、祈りを捧げる。

集中力を高め、一気に筆を振りおろす。

その瞬間、彼は無になり新たな作品が産声をあげる。

 

この時に書いた文字は「祈」と「道」

「人と道 ここで ここに ここから生き続ける「道」の文化を伝えたい」という熊野古道センターのコンセプトにからこの2文字に決めていたそう。

その時の空気感、作品が出来上がる過程、温度感を伝えたいと、会場内にはこの日の映像が流れ、川の音も再現されている。

 

ミッション完了!

 

 

時は少し遡り、2016年9月有松ミチアカリというイベントでパフォーマンスした時のこと。

「夢」という一文字を書いたところまでは覚えている、その後もう一文字を書いた時の記憶はない。

しかし、その時に彼の中に降りてきたコンセプトがある。

 

「その土地の歴史や文化と結びつく事で作品が生み出される。」

 

「長い歴史と伊藤潤一の歴史の接点を墨が結びつけてくれる。」

 

「神事(しんじ)」とも言うべき、自分の役割が明確になった瞬間。

 

転機が訪れた作品。同じ「夢」という字でも印象はここまで変わる。

 

それまでは美しいものが創りたくて、ひたすら書き込み書きこみ、集中の境地に辿り着いた時に書き上がったものを作品として完成させていた。

鍛錬ともいうべき書の道。

しかし、その有松でのパフォーマンス以後は、その土地の自然や空気に触れ、その地に流れる水を使い、歴史と繋がる一瞬に集中力を極限まで高めて一発で書く。

それは、まさに書の道からの脱却。

でもそれこそが、自分にしかできない役割だと感じた。という。

 

今回の個展に飾られているものは、書の展示会では異例ともいうべき一発で書かれたものばかり。

作品の空気感をぜひ生で感じてほしい。

 

こちらは雨が降ると龍が姿を表すと言われる「姿見池」にて奉納した作品。

 

 

そんな話を聞きながら、私は素朴な疑問をいくつかぶつけてみることにした。

−−伊藤潤一にとってパフォーマンスと作品展の違いは?

神社仏閣・自然の中でのパフォーマンスはその場所に観客がいたとしても観客を意識していない。よく見せようとした時点で負け。

パフォーマンスの時の対象は人ではなく、神様や自然、その場所に失礼がないように書くだけ。

逆に個展は来てくれた人に喜んでもらいたい。が1番にある。

だからみっちり図面を書いて会場演出を考えBGMにもこだわる。書く人から離れてプロデューサー的目線でその作品が一番ふさわしい場所に配置したりもする。

 

聞きながら気づいたことがある。

書家としての伊藤潤一にもプロデューサーとしての伊藤潤一にも共通して、よく見られたいという「欲」がない。

ありのまま。

映像や写真にパフォーマンスを残す中で、

カメラマンに「あるタイミングから、目が変わるよね」と言われる。

また、別の人にはこう言われたこともあるという。

「潤くんが書く前に集中力を高めだすと周りの空気が変わる。書き始めると、息が苦しくなるようなピンと張り詰めた空気になり、終了間近、落款が紙から離れると ふわっ とまた空気が軽くなる。」

この瞬間、空気の流れが変わる。

 

続いて、ちょっと聞きにくいオカネの話もぶつけてみた。

−−伊藤潤一の個展を入場料無料で開催する理由は?

(今まで伊賀、有松、伊勢での個展、そして今回も全て入場無料で開催。)

単純に、今はたくさんの人にみてほしいから。かな。

入場料をfreeにすることで、作品に価値を感じていない人もいっぱいくるかもしれんし、今までも「入場料、ちゃんととったほうがいいよ」ってたくさんの人に言われた。

でもその100円や500円を払えない人も、払いたくない人もおるかもしれん。

そうすると、こちらが作品を見られる人を選んでしまう事になる。それが嫌で・・。

会場に来て、初めて作品に価値を見出してくれたり、書道のおもしろさに気づく人もおるかもしれん。

お金という価値観で自分の世界から誰かを排除したくないし、お金がないと何かができないというのは嫌。

世の中は大きくて難しいことも多くて、1人で簡単に変える事はできやんけど、せめて自分の周りだけはNO BORDER がいい。

 

今はそう思っているそう。

そこには彼自身が書道を始めるきっかけとなった出逢いや、ストリート時代に触れた人の温かさ、東日本大震災の後、東北の地で出逢った人々と過ごしたの経験から感じるようになったのだという。

 

−−最後に、これから会場に来る人にメッセージなどありますか?

活動のテーマが「祈り」なので、ぜひ会場でそれを感じてほしい。

今までは伝えたいことが多くて言葉や文章をたくさん綴る作品もあったけど、今のスタイルになってからは漢字一文字が多い。

それは言葉や文章で伝えることは簡単やけど、それだけでは足りなかったり、変に安っぽくなってしまう時もあるから。

作品にする漢字一文字というは、一見その場所と関係ないかもしれない。

けど、その一文字と土地の歴史と伊藤潤一が繋がることで生まれるメッセージがある。

そんな作品の背景にあるメッセージを、ぜひあなた自身で感じてほしいと思う。

 

期間中、在廊日は未定。 もしかしたら、本人後ろにいるかもしれません。笑

 

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伊藤潤一書作展

2020年9月12日(土)〜11月8日(日)

午前10時〜午後5時 会期中無休

三重県立熊野古道センター

三重県尾鷲市向井12−4

※会場へお越しのお客様はマスクの着用にご協力ください。

 

 

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