ホーム 02【遊びに行く】 シェアオフィス&コワーキングスペース「シェアスペース土井見世」で巡礼の持つポテンシャルに驚く。

シェアオフィス&コワーキングスペース「シェアスペース土井見世」で巡礼の持つポテンシャルに驚く。

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今、日本各地にコワーキングスペースやシェアオフィスなどの拠点が次々とできている。パソコンさえあれば仕事が成り立つ職業も増え、フリーランスで働く人にとっては家で仕事をするより仕事モードに入りやすかったり、気の合う仲間と空間をともにすることで新しいアイデアが生まれることもある。またそのような人との出会いから、新しい人との繋がりもできるなどメリットは多い。

訪れたのは、JR尾鷲駅から徒歩10分ほどのところにある土井見世邸。昭和初期、和風モダニズム設計の古民家は、尾鷲市有数の山林経営者の住宅で国指定文化財に指定されている。長い間空き屋だった土井見世邸は、土井見世家とおわせ暮らしサポートセンター(以下サポセン)の協働により、シェアオフィス&コワーキングスペース「シェアスペース土井見世」として2019年に運営を始めた。

心地よい日だまりに包まれる縁側や、細部に施された装飾にも趣を感じる洒落た空間だ。シェアスペース土井見世の敷地内には蔵や納屋もあり、そちらの活用も検討されている。ちなみに利用者はミーティングなどで、茶室や純洋風の応接間を使うこともできる。

1980年に約31,000人が暮らしていた尾鷲市の人口は2015年に約18,000人で、このまま減り続けると2045年には8,000人を切るという推移もある。そんな尾鷲市にあるシェアスペース土井見世は一般的なシェアスペースと違い、緩やかな関係人口をつくる拠点になることも目的にしていて、地域内外から人が集い交流できるイベントも開催している。今回、サポセン代表の木島さんと元尾鷲市地域おこし協力隊の豊田さんが「巡礼から定住へ」というイベントを開催すると聞き、参加した。

 

熊野古道伊勢路の魅力は石畳みではない。

シェアスペース土井見世は街中にあるのだが、実は熊野古道沿いに立地している。世界遺産熊野古道といえば紀北から尾鷲に掛かる美しい石畳みが有名な馬越峠があり、そこには年間3万人程の観光客が訪れている。しかし、古道が目的の観光客で尾鷲の町に立ち寄る人は少なく、そのまま帰ってしまう。そのような課題に対して、尾鷲の町の魅力や巡礼とは何かを知ってもらい関係人口に繋げたいというのが「巡礼から定住へ」の趣旨だ。イベントは午前11時〜午後5時まで三部構成で行われた。第一部「知る」は、熊野古道伊勢路の研究者によるトークライブ。第二部「食べる」は、尾鷲市ふるさと納税返礼品の試食会。第三部「つくる」は、型染トートバッグ作りのワークショップ。

左:豊田さん 右:木島さん

本当に人が集まるのか不安だった、と話す木島さんと豊田さんだが、蓋を開けてみれば第一部から第三部まで計50名くらいが集まっていた。このレポート記事で全ての部をお伝えしたいところなのだが、とても長い記事になってしまうので、第一部を中心に書かせていただく。「熊野古道伊勢路を歩く−熊野参詣道伊勢路巡礼−(サンライズ出版)」の著者であり、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」の保護を担当した経歴を持つ伊勢路の研究家、伊藤文彦さんをスピーカーに迎えたトークライブが始まった。

熊野古道は巡礼者の参詣道として、かつては蟻の熊野詣と呼ばれるほどの人が訪れていた。浮世草子・風流比翼鳥(1707)八「有王おもひのあまり、伊勢へ七度、熊野へ三度」とも残されている。伊勢路は伊勢神宮から熊野三山に向かう熊野古道。その道中にある馬越峠は私も過去に歩いたことがあり頭に浮かぶのは石畳みの小路と、山登りをしない私の膝は笑うほどに疲労したこと、あと一緒に行った友人が逆膝カックンになりかけて冷や汗をかくという思い出だ。

伊藤先生

伊藤先生:熊野古道伊勢路は石畳みのイメージがありますが、重要なのはそこではないんですよ。

先生は、江戸時代を中心に伊勢路を歩いた巡礼者が書いた数多くの日記を文献として漁った。そこに記してあるポジティブな言葉とネガティブな言葉を、どの地点で書かれたのかを吸い上げ分類する調査を行った。

伊藤先生:峠を越えるときはネガティブな言葉が多く、尾鷲の町に辿り着いたときにはポジティブな言葉が多いです。

船着きの港町尾鷲には、宿があって美味しい食事もあり、気持ちが打ち解けるところ。伊勢山田を出発してこんなに良いところはない。そんな記述もあったという。

伊藤先生:昔の人は伊勢からおおよそ4日間で歩いて熊野に行きました。その中で峠を抜けるのはしんどいんですよ。

今回のイベント趣旨が少しだけ理解できた。現代でも自然豊かな馬越峠の美しい石畳みを歩くことは、達成すれば気持ちはいい。しかし道中は確かにしんどい。せっかくしんどい思いをして峠を越えたなら、昔のように尾鷲の町で美味しいものを食べたり地元の人と打ち解け合うなど、熊野古道伊勢路の今まで以上にたのしい過ごし方があるということだ。そして伊藤先生は続ける。

伊藤先生:伊勢神宮から熊野に向かう伊勢路は、一方通行だからこそ意味があるんです。

伊勢路の要所には寺院などがあり、巡礼者はお詣りをしながら巡る。それを繰り返すことで自身が巡礼者だと実感していく。山や川に入るところには石仏もある。それは地元の人の巡礼者を応援する気持ちが、長い時間を掛けて形になったのだという。

伊藤先生:二つの峠に挟まれた尾鷲は巡礼者にとって日常から非日常に入るトンネル。謂わば聖地という異国への入り口のようなところです。

野を越え山を越え、その道中で巡礼者の感情はアップダウンする。伊勢路の難所である馬越峠では伊勢から歩いてきた疲労も溜まり、感情はダウンする。そして峠を抜けて感情が一気にアップする場所が尾鷲の町。そういう人の感情を作る仕組みがある一方通行の伊勢路は、紀伊半島の地形と、地元の人が巡礼者を応援するという想いで築かれていたこと。そこが伊勢路の重要な価値であり、巡礼者を癒す尾鷲の町の役割は大きいと教えていただいた。

 

巡礼がもたらすインバウンドの可能性

日本の成長産業として期待されているインバウンド。世界的な旅行ガイドブック「ロンリープラネット」は「Best in Travel 2018(地域編)」で、紀伊半島を世界5位に選んだ。主に和歌山県側が対象だが、熊野古道伊勢路の価値が世界に伝われば、中部国際空港セントレアから定期船や列車で三重県側へ訪れる外国人も増えるかも知れない。多くの宗教には巡礼文化があり、キリスト教のサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(スペイン・世界遺産)は有名で世界中から人が訪れている。つまり巡礼という概念は外国人に伝わりやすい。実際に伊藤先生はサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路を歩いたときのエピソードを教えてくれた。

伊藤先生:見知らぬ地で一人で歩き続けていると、疲労で不安になることもあります。孤独です。でも美味しい食事に出会えたり海外の巡礼者と親しくなる喜びもある。そして時間が経つごとに感情に変化が出てきます。歩き続けることで自分と向き合っているんですね。

クリスチャンではない先生は、疲労と不安がピークに達して思考もはっきりしなくなり、すがる思いでお経を唱えていたというと、会場は笑いに包まれた。参加者から伊勢路の巡礼者を増やすにはどうしたらよいか、という質問。

伊藤先生:スペインで外国人の巡礼者に「なぜ巡礼するのか」を聞いたのですが「自分でもよくわからない」というんです。特別な理由はないんですね。後で巡礼の動機を調べたら2割くらいが宗教的な理由で、あとはアドベンチャー(冒険)に近い感覚が多いです。私は帰国後も、巡礼で歩いた道や町には特別な感情を抱くようになりました。実際にサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路はリピートする人も多いです。

外国人にとっての宗教的な障壁は、そんなに高くはなさそうだ。

伊藤先生:スペインの巡礼路では地元の人が「ブエンカミーノ(よい巡礼を!)」と巡礼者に声をかけます。あと巡礼者がゴールをすると、団体できていた観光客からは拍手が起こることもあります。

ゴールをする巡礼者を目撃することで本来の参拝の形式を知り、観光客は刺激や影響を受ける効果もあるという。最後に伊藤先生からアドバイスがあった。

伊藤先生:だから伊勢路に年間何万人もの巡礼者が訪れる必要はなく数千人でいい。まずは江戸時代まであった伊勢路の巡礼を復活させることです。そして地元の人は観光客ではなく巡礼者として接してあげて欲しい。巡礼者は、巡礼をしながら巡礼者になっていきますから。

インバウンドの可能性も秘めている巡礼。もちろん国内での広がりも期待できる。伊勢路というハードは長い時間をかけて江戸時代まで巡礼路として築き上げられた。ソフト面では、もてなす側のちょっとした気持ちが、巡礼者にとっては大きな喜びになると知った。
文章に起こすとどうしても固くなってしまったが、伊藤先生のお話はわかりやすく、またユーモラスで聞いているうちに「一度くらいは巡礼をしなければ、何だかもったいない」と思う自分がいた。

 

食べて笑って、旅する関係人口。

第二部では伊勢海老や東紀州名産のブリなどのお刺身、土井見世のおくどさんで炊いたおこげ付きのお米までご馳走になった。

おいしい尾鷲のごはんを食べると気持ちも和み、周りの人との会話もたのしかった。馬越峠を超えてきたなら、更にたのしめる気がする。

赤坂さん

第三部のトートバッグ作りでは京都在住の型染職人、赤坂武敏さんを招き、今日のために赤坂さんが考案したデザインで参加者が型染体験。絵柄は土井見世邸、漁村の風景、ブリ、海老。

丁寧に教える赤坂さんや、集中して型染めをする参加者。

型紙で染めたトートバッグは参加者が持ち帰り、家で洗い流すときれいな絵柄が出ます。

最後に改装したギャラリー風の納屋にて記念撮影。

尾鷲の町に古道歩きの人が増え、町の魅力や人と触れあい、土産話を持って帰る。
土井見世邸沿いの古道に、笠を被った外国人の巡礼者が過ぎ行けば、最高な関係人口の作り方ではないだろうか。

尾鷲の町に、そんな拠点ができたというお話でした。

 


 

シェアスペース土井見世
三重県尾鷲市朝日町14-2
tel 0597-37-4010
hp https://www.doimise.com

 

 

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