ホーム 00DayTrip 特集:人に会いにいく旅「二見浦でコーヒースタンドを営み、お洒落な介護の未来を描く夫婦」の伊勢暮らしを旅する

特集:人に会いにいく旅「二見浦でコーヒースタンドを営み、お洒落な介護の未来を描く夫婦」の伊勢暮らしを旅する

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“もとは、自分たちが趣味でやってたんです”

海ピクニック。そんなお洒落なサービスも提供する、二見浦の小さなコーヒースタンド「marudOT(マルドット)」。理学療法士の夫と作業療法士の妻が運営し、週末や祝祭日のみ開店している。

“自分の知り合いは入れたくない。そんな入居型介護施設で働いたこともありました”

閉鎖的だと感じる介護の世界。そしてこれからの時代、さらに需要は増える。

写真提供:杉浦 徹さん

“仲間と一緒に運営しているサービス付き高齢者向け住宅で「うまい棒1200本食べ放題」もしたんですよ”

すると子どもがいっぱいやってきた、と嬉しそうに話す。

“かわいく、というか介護の世界をおしゃれにしたいんです”

既存のものごとを、カラフルに塗り替える。いま様々な地域で、そのような動きが加速化している。今回は、夫婦岩の近くで暮らす夫婦の話をお伝えしたい。

 

marudOTのOTは大文字

観光地として賑わう夫婦岩。伊勢市の二見浦にあり、その参道にmarudOTがある。

運営するのは杉浦夫妻。夫の徹(とおる)さんは愛知、妻の恵加(あやか)さんは大阪の出身で、10年程前に仕事をしていた松阪の病院で出会った。披露宴は二見で行い、住まいはmarudOTが併設している一軒家だ。連休ともなれば店の前に行列ができる。

右:杉浦 徹さん

取材中も近所に暮らす若い女性が訪れていた。看板犬「ちくわ」は客からも可愛がられている。

徹さん:最初は店をやるつもりはなくて。以前からこの家を借りて住んでたんですが、こんなに観光客が多いのに、若い人が立ち寄りたくなる店が少ないのはもったいないと思っていました。そこで大家さんに店をするために改築したいと相談したら「好きにしていいで」となり、コーヒースタンドをオープンしました。

メニューには「夫が選んだmaruブレンド」や「妻が選んだdOTブレンド」。宮本亜門さんや熊川哲也さんではないが「違いがわかる男(ダバダ〜♪)」なら確認しておきたいところだ。

徹さん:maruブレンドは比較的飲みやすく、dOTブレンドは深い香りとコクがあります。

世界のこだわり産地から仕入れる冬青(そよご)珈琲(長久手)の豆を使用。コーヒーの他に抹茶やほうじ茶のオレやフラッペなども提供。

メニューは飲み物だけでなくSEA PICNICもある。

お洒落な折りたたみ式のイス、机、バスケット、さらには雑誌や映える造花も借りることができ、歩いて数分の海へはオフロード仕様のキャリーカートで運べる。

徹さん:SEA PICNICはたのしい時間づくりのお手伝いという感覚です。閉鎖的な介護の世界にいると一般社会とのずれを感じることが多く、お店は僕にとって単純に勉強なんです。OT(Occupational Therapy)は英語で作業療法の意味です。今はサービス付き高齢者向け住宅にmarudOTのコーヒーを差し入れしているのですが、将来的にコーヒースタンドなども施設内で運営したいです。入居者がコーヒーを淹れたり、人と会話したり、お店の運営をするなどの作業を通じて日常生活に力を養うこともでき、地域の人も日常的に出入りする場になればいいな、という想いを込めて店名を「marudOT」にしました。施設は入居者からすれば家なんですから。

私事で恐縮だが両親は健康で、介護や介護施設に触れる機会はまだない。病院は治療やリハビリをする場所で、入居型介護施設は身の回りのケアをする所。どちらも病院に近いクローズなイメージを漠然と持っていた。しかし、そうか!後者は家なんだと思い、杉浦夫妻の話を聞き進めると、そこに潜む課題と未知数の可能性が見えてきた。

 

ルールやマニュアルで固める危険性

団塊の世代が75歳以上に突入し、医療費や社会保障費の急増が懸念される2025年問題。そんな世代の親を持つ一個人として、また人口減少が加速する地域に暮らす一住民として、現代の介護現場について聞いた。

杉浦 恵加さん

恵加さん:入居者の生活が成り立っているとは思えない施設もあります。

作業療法士は自立を支援するべきなのに、施設によってはサービスをしてくれる、してもらうという依存体質が出来上がっている場合があり、保険が適応されるサービス業になっていて、提供者側にも自己満足的な一面もあるという。

恵加さん:そもそもお互いどうしたかったのか。作業療法士は何のための仕事なのだろう。今は介護の現場を離れていていますが、離れたからこそ気が付いたことも多いです。

徹さん:入居者を転ばせてはいけない、食事は食べさせなければいけない。一度施設で作られてしまったルールは簡単に変わりません。

そういう体質だと介護業界は閉鎖的なままで、慢性的な人材不足も変わっては行かないと鳥羽市の委託事業者(生活支援コーディネーター)でもある徹さんはさらに続けた。

写真提供:杉浦 徹さん
写真提供:杉浦 徹さん
写真提供:杉浦 徹さん

徹さん:でも私は「できることは自分でしてもらう」と言い続けてます。マニュアル的なサービスは時に高齢者の生きる力を奪うことになります。

話を聞き、生き方や終わり方までマニュアルで制限された道しかないのならば、それは味気なく冷たい毎日になると思った。では、介護にはどのような可能性があるのだろう。

 

子どもの声がする場所

歯科医師とケアマネージャーが出資し、徹さんが役員として運営しているサービス付き高齢者向け住宅には駄菓子屋がある。

写真提供:杉浦 徹さん

徹さん:町になくなってしまった駄菓子屋を作ったことで、子どもが施設にやってきたり、入居者が店番をするなど交流が生まれています。

私も小学生くらいのときに小銭を握りしめ、駄菓子屋でお菓子を選ぶのがたのしみだった。駄菓子屋のおばちゃんの顔はいまでも覚えているし、いつもは友だちと行くのに、たまにひとりで行くと心配してくれたときもあった。今になって考えてみれば、駄菓子屋は家でも学校でもない、第三の居場所だった。子どもにとって先生や親から干渉されない空間で、勉強やら宿題を忘れられるたのしい時間だった。

徹さん:僕たちが運営している施設では、働くお母さんが子どもを連れてくると500円の手当を付けるようにしました。

人がいるのにもったいないと作ったコーヒースタンド。
だれもいない海を逆手に活用する、海ピクニック。
高齢者が暮らす介護施設に、駄菓子屋で子どもを集める。

できることから一歩ずつ始めている杉浦夫妻は、人の暮らしにたのしみを与える余白をつくり出す。その余白から新しい何かが生まれる。例えば沢山の知識をもった高齢者に、親でも教えることができない知恵を子どもに教えてもらうこと。海ピクニックで従来の観光にはなかった「映える」という新しいたのしみ方で情報が拡散され、さらに観光客が集まる可能性もある。
最後に徹さんはこんな想いを教えてくれた。

徹さん:自分は理学療法士の外れ値にいるのかも知れない。だけどそんな立ち位置だから見えていることを、介護に還元していきたい。介護をかわいくお洒落に。そうすれば介護業界に不足している人材も集まるし、地域の人も身近に感じて交流が生まれると思うんです。

介護業界に限らす、福祉や格差社会がもたらす歪みもそうだろうか。閉鎖的と感じる世界を解放し、地域や人と関わりを持つことで起こる化学反応は、人口が減っていく時代を生きる私たちにとって新しい希望となる。多様性という言葉を最近よく聞くが、そういう価値観は案外と身近なところにあるのだと知った。

マネージメントの父と呼ばれ、今年で生誕110年のピーター・ドラッカーはイノベーションについて「新しいことは常に小さなものから始まる」と残している。
現代において上記の「小さなもの」とは、うまい棒を目がけて介護施設にやってくる子どものことかも知れないし、私たちが時代遅れのマニュアルに疑問を持つということなのかも知れない。

 


 

旅の思い出

せっかく伊勢にきたのだから、最近全国メディアでも取り上げられている伊勢うどん、ではなく人気の蕎麦屋を訪ねました。

以前に別の媒体で詳しく記事で書いたことがある手打ち蕎麦「柿右衛門」へ。伊勢神宮外宮から車で約5分のところにあります。

蕎麦を打つのは、西村哲平さん。イギリスの音楽レーベルに所属していたこともあるDJでもあり、今も音楽活動を続けています。

訪れた日は北海道摩周湖産の新そばをいただきました。

つるりとしたのどごしと、繊細な風味がたのしめる二八蕎麦。

ボリュームのある天ぷらを揚げるのは父の孝雄さん。母の廣子さんらと、親子三人が中心となり店を切り盛りされていてアットホームな優しい空気が流れています。

 


 

取材協力

marudOT(まるドット)
伊勢市二見町茶屋562-1
hp https://marudot.info
fb
https://www.facebook.com/o.marudot/
in https://www.instagram.com/o.marudot/
tw https://twitter.com/hashtag/marudot

サービス付き高齢者向け住宅 すてっぷ
鳥羽市松尾町321−1
hp https://iyashino.club/homepage/
fb https://www.facebook.com/step.toba/
in https://www.instagram.com/iyashinox/

トバゴト
hp https://tobagoto.com
fb https://www.facebook.com/tobagoto.mie/
in https://www.instagram.com/tobagoto.mie/

手打ち蕎麦 柿右衛門
伊勢市旭町336-1
fb https://www.facebook.com/手打ち蕎麦うどん-伊勢-柿右衛門-Soba-udon-Kakiemon-345718975568391/


 

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