絵の上手い、下手ってなんだろう?
7月6日からMieMuで始まったのが「この男がジブリを支えた。近藤喜文展」。好きな映画を聞かれたら真っ先にジブリ作品を挙げる身からすると見逃す事ができない、と前々から思っていた。
でも近藤喜文さん・・・、スタジオジブリといえば宮崎駿監督をはじめ、伊勢市出身の故・高畑勲監督、鈴木敏夫プロデューサーの顔は浮かんでくるものの近藤さんの顔は浮かんでこない。
しかし実は近藤さんが居なければジブリは成り立たっていなかった。そして既に1998年1月に47歳という若さで他界しているので、その経歴に新たな記述が増える事はもう無く、足跡を辿る事しかできないという事実もある。
時間は少し戻り、美術科教員として生徒の作品の評価をしている時のこと。ふと気になった事がある。良い作品とそうでない作品の違いである。年間200〜300名の作品を評価しているとやはり心惹かれる作品とどうもしっくり来ないと感じる作品が出てくる。
しかもそれはどうやら上手い、下手の問題とは違うようで、歪な形ながらも制作したものから良さが溢れているものもあるし、逆に上手いのだが何か物足りない作品もあるのである。
この差は何なのだろう。そんな事を数日前から考えていた。
日本屈指のアニメスタジオのトップを走っていたアニメーターの直筆のスケッチがズラリと並ぶ、そんな場所ならその理由を見つけられるのではないかと感じ、展示会場へ向かった。
今にも動き出しそうな表情を捉えた線。あ、タエ子さん!
MieMuに到着すると何やら見覚えのある猫の影が至る所に。いきなり「耳をすませば」の猫らしき影が出迎えてくれる。
その影を辿っていった先の階段の下では「耳をすませば」の登場人物・天沢聖司くんが待ち構えている。入り口から主人公の雫ちゃんの気分を追体験。
訪問日は会期の初日。なにやら見覚えのある影が・・・、カオナシは会期中特別な時には現れるみたい。
さあここが入り口。向こう側にはどんな世界が広がっているのか、、、ちなみにこの文字、制作者は発表されていないそうなのだが、鈴木敏夫プロデューサーが書いたのではないか?と噂されている。
場内は圧巻。最初に現れるのは近藤さんの初期の作品。展示されているスケッチはもちろん直筆で鉛筆のうねりや水彩絵の具の滲みまで詳細に観察できる。
こちらは見覚えがあるイラスト!赤毛のアンに未来少年コナン、名探偵ホームズは夏休みにテレビの再放送で観てたなぁ。なんてみんな表情が豊かなんだろう。
アニメ上映コーナーには「リトル・ニモ」。
次はスタジオジブリ作品のコーナー。「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」「紅の豚」、どの作品も細かな設定があったからくるくると変わる顔や仕草が自然にアニメーションとして流れる。
パラパラマンガ風にしてあるコーナーも。イメージスケッチは「もののけ姫」の侍。あと二作品パラパラできるので、どの作品のどのシーンかは実際に見にきて。
あれ?金曜ロードショーのオープニングアニメーションも手がけられていたのか、、、!
自宅用の作業机も発見。実際に使用されていたモノたちが机上に並ぶ。椅子の座面が温かそうな、そんなまた主がすぐ戻ってきそうな気配を感じる。
そして「耳をすませば」。中学生の時から幾度となく観てきて、シーンを見るだけで頭の中で音楽が流れ出す。好きな映画のトップ3に入るその作品は、見返す毎に新しい発見をくれる。近所に地球屋みたいなお店があったら素敵だなと思ってたな。
物語最後の景色は朝焼けのシーン。いつでも登場人物たちと共に観ているこっちも「うわぁ」となる風景。もちろんこちらも手描きでさらに深く感嘆のため息。
ジブリの世界に飛び込める
もちろんセル画も展示されている。雫ちゃんのみずみずしい表情、そしてバロンの美しさよ。背景の描き込み方も場面で違い、1枚1枚に魔法がかかっているよう。
「耳をすませば」の世界にリアルに飛び込めるコーナーもある。フォトスポットは雫ちゃんになりきれる背景が2か所も。取材に来ていたレディオキューブFM三重の清田のぞみアナウンサーにもモデルとして入っていただいくと何だかジブリ感が強くなったような・・・。パステルカラーの清田さん、ジブリの作品何か出てませんでした?
最後はやっぱり訪れたい、ミュージアムショップ。特設会場として常設のショップの倍以上の広さが確保されていて、豊富な種類のジブリグッズに出会える。
ひとしきり見終えて帰路に着く。
そして数々のイラスト、スケッチを思い出して思い当たることがあった。
一本の線に込められた愛情
今回、イラストの線の一つひとつからは、何か愛情のようなものが発せられていた感じた。
私はそれが、見る者の琴線に触れない作品からは出ない、時間の積み重ねや愛着が感じられるという事だと気付いた。
一本の線への愛情はキャラクターたちを形づくり、やがてそれは物語の中を踊り出す。そこに理論がプラスされて動画が織り成されていく。
こだわって線を引くのはその第一歩だ。
それを近藤さんが教えてくれたような気がしている。
「線の一本一本に愛を込めなさい、その心の持ち方を重ねていく事で絵は輝き出すから」と、私は二学期になったら生徒たち伝えようと思った。
三重県総合博物館 MieMu(ミエム)
MieMuとOTONAMIEのコラボ、OtonaMieMu(オトナミエム)。
住所:三重県津市一身田上津部田3060
TEL:059-228-2283
ホームページ:http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/MieMu/
Facebook:https://www.facebook.com/mie.pref.museum
Twitter:https://twitter.com/mie_pref_museum
※第24回企画展 この男がジブリを支えた。近藤喜文展 は2019年7月6日(土)~9月16日(月・祝)まで開催。詳しくはMieMuホームページで。
hiromi。OTONAMIE公式記者。三重の結構な田舎生まれ、三重で一番都会辺りで勤務中。デンマークに滞在していた事があるため北欧情報を与えてやるとややテンションが上がり気味になる美術の先生/フリーのデザイナー。得意ジャンルは田舎・グルメ・国際交流・アート・クラフト・デザイン・教育。