人々の暮らしと川は密接な関係を持っている。
映画やドラマのワンシーンで、遭難した人が川を見つけると「しめた!川を辿っていけば人里に辿り着けるぞ!」なんていうセリフを思い出す。
そこに川があることで人が集まり、村となり、町となり、都市となっていく。僕たちが知らない昔のそのまた昔から、人々が暮らしてきた時間とともに川は流れ、在り続けてきた。
伊勢市を流れる勢田川もそうだ。
伊勢市に暮らす人にとって、勢田川と聞いたら連想する言葉はきっと
「汚い」
だろう。
そんな勢田川で2019年6月8日(土)、カヤックをしながら川を知るツアーが開催された。
僕の小・中・高の学生時代、そして今もずっと生活の中にある勢田川。
まさかカヤックをする日が来るなんて、夢にも思わなかった。
同級生に勢田川でカヤックをしてきたと話したら、きっと驚くだろう。
勢田川でのカヤック体験は、
- 懐かしい勢田川
- 知らなかった勢田川
- いまとこれからの勢田川
に触れる特別な時間となった。
これから記事を読んでくれるあなたにとって、生活の中にある川を考えるきっかけとなれば、僕はとっても嬉しい。
勢田川でカヤック「WAC KAYAK」企画の経緯
南平「僕らの生活を支え続けている勢田川で、カヤックをやりたいと思ったんです。」
山本「普段の何気ない日常の中にも非日常が眠っているのを伝えたい。」
そう話すのは
OUTISE(アウティーズ)の南平純さん
KIAORA PADDLE(キオラパドル)山本啓太さん
お二人とも伊勢市出身の若き自然体験ガイドだ。
お二人には出身地以外にも共通点が多い。
ほぼ同時期にカヤックなどの自然体験ガイドで独立したことにも運命を感じるが、実は同じ高校に通う先輩・後輩でもある。初めて会った際、共通点の多さにお互いに顔を合わせて笑ったそうだ。
子供の頃を勢田川とともに過ごし、自然体験ガイドとなって地元に帰ってきたお二人。境遇が近く思いを共にする二人が出会ったからこそ、勢田川でのカヤック体験が企画できたのだと納得した。
勢田川でのカヤックツアーは今年で2回目となる。
勢田川でのカヤックを実現にあたっては、企画に賛同してくれている協力者の支えも欠かせない。
南平さん「特に河崎の方たちに支えていただいてます。歴史ある河崎の町で開催できることは僕らにとっても励みになってます。」
勢田川でのカヤックの出発点は、明治時代に勢田川に面して造られた蔵を修復して造られてた河崎の『川の駅』。
『川の駅』の水辺を眺めてみていると船が往来する、かつて水運で栄えていた頃の景色が見えてくるような気がした。
学び、驚き、思いを巡らせる 勢田川でのカヤック体験
参加者は伊勢、鳥羽、志摩、そして大阪から合計8人(南平さん、山本さんを含む)。
大阪から朝一で駆けつけた男性に、参加した理由を聞いてみた。
「自然体験が好きでよく三重県にきてます。ブラタモリのような町歩きも好きで、伊勢を知るきっかけになると思って参加したんです。」
僕の参加理由も近くて、とても親近感を覚える。今日は楽しみましょうと会話をしながら、お互いに軽く準備体操を始めた。
参加者同士の自己紹介も終えて、僕らはパドルを握り準備万全。
勢田川に浮かべたカヤックに乗り込んで、僕らは上流を目指して漕ぎはじめた。※.山本さんはSUP
勢田川に架かる橋の由来から歴史を学ぶ
![勢田川カヤック WAC KAYAK8](https://otonamie.jp/wp-content/uploads/2019/06/ef9d3a6b1af1bf873e86bd24b1060d4e-1024x576.jpg)
勢田川でのカヤックはとても漕ぎやすく、みんな軽快なスタートを切る。
南平「天気も晴れて良かったです。今がちょうど満潮で、戻ってくる時は潮が引いてくるタイミングの予定です。」
計算し尽くされた工程に、さすが自然体験ガイドと僕は一人で唸った。
※.ちなみに僕は南平さんとペアで、2人乗りカヤックの前方に乗っている。
南平「清浄坊橋(せいじょうぼうばし)が見えてきましたよ。勢田川に架かる橋の中でも歴史があって、二見から塩を外宮さんに運ぶ塩の道でもあるんですよ。」
そういえば、子どもの頃によく行った「汐湯・おかげ風呂舘 旭湯」には汐湯があり、カエルの石像もあった。そういうことだったのかと子どもの頃の疑問が解消される。
生活の中に流れる川にはたくさんの橋が架かっている。それぞれの橋の由来を調べてみるのは、地域を知り、学ぶ上で面白いかもしれない。
勢田川に架かる橋の中でも、有名なのは伊勢市岩渕の「錦水橋(きんすいばし)」だろう。
![勢田川カヤック WAC KAYAK12](https://otonamie.jp/wp-content/uploads/2019/06/0fd530be9282a11f607623f081a6ca69-1024x768.jpg)
では、錦水橋はなぜ「きんすいばし」という名前なのだろうか?
実は上流側にそびえたつ大きな山がその答えなのだ。
山は秋になると紅葉で鮮やかに染まる。百人一首などでも「錦」という言葉が度々登場するが、紅葉を表す言葉でもあるそうだ。
秋に橋を渡る人や船を漕ぐ人が、鮮やかな錦の山と水面に映った風流な様子から「錦水橋」と名付けたのだろうか。
子どもの頃から過ごしてきた光景なのに、秋の様子が思い出せない。今年の秋は、必ず「錦水橋」から見える山々と勢田川に映る山々を眺めてみようと心に誓った。
まるでアトラクション 勢田川の生き物との遭遇
勢田川の上流へ上流へと漕ぎ続けると、亀やサギ、カワウ、小魚など様々な生き物に遭遇する。
勢田川でのカヤックで出会う生き物は、僕らを驚かせてくれた。
もし、現実でポケモンが飛び出してきたら、こんな感じなのだろう。
ビックリ① 大きなボラのジャンプ
パドルを置いて少し小休止で気を緩めていたら、突如として右横で巨大なボラがジャンプして水面を激しく叩いた。
ジャンプするならすると事前に言ってほしいものだ。
勢田川にはボラが多い。
ただ、どちらかというと小さなボラが多い印象だ。
時にはボラの大量発生で世間を騒がせることもある。
まぁ大きく育ってくれて何よりだ。
ビックリ② 橋の下から鳩
山本「橋の下は注意してください。鳩に驚いて転覆しないように(笑。」
転覆は言い過ぎだろうと思ったのが僕の甘さだ。
反対方向を見ている時に後ろから2・3羽の鳩がバサバサ飛び立ち、ビクッとなった。
驚き方、例えばカヤックに乗る2人が生粋のビビリだったら、転覆もありえるかもしれない。
もし、あなたが勢田川でのカヤックやSUPで橋の下をくぐる時は、細心の注意を払ってほしい。
ビックリ3 水面を横切るどデカイ鯉
伊勢市岡本町の岡本公園あたり、少し濁りはあるものの水底までしっかり視認できる。
何かいないかな?何気なく眺めていると・・・大きな魚影とすれ違った。
「デカッ!」
思わず声が出る。あれは絶対に主だ。
主の特徴は巨大な鯉、色は黒色だ。※.一般的な鯉の姿だが、とりあえず思い浮かべた大きな鯉を2倍してみてほしい。それが主だ。
ぜひ、探してみてほしい。
勢田川から眺める通学路
![勢田川カヤック WAC KAYAK17](https://otonamie.jp/wp-content/uploads/2019/06/0a5f2b2c5d6f9ac82f8e60fe5b41b352-1024x768.jpg)
僕は小・中・高と「歩きながら」や「自転車を漕ぎながら」、勢田川を眺めていた。
カヤックに揺られて、当時の記憶を思い出す。
現在は自転車も認められているようだが、当時の僕の通っていた中学校は徒歩での通学だった。
家から中学校までは約45分。
体力がなかった僕は、よくゲーム仲間のよっちゃんと橋や堤防に座って休憩していた。
あそこによく座ってたな・・・よっちゃんは元気だろうか。
中学校卒業と同時に、会う機会が減っていった友達を少し懐かしく思った。
ゴール地点である三重県庁舎の近くの水辺に到着。
子どもの頃に比べたら風景はだいぶ変わった。
郵便局は移転して今はマンションになり、ぎゅーとらも移転して今はナカミチになっている。
牛乳屋さんは駐車場になっているし、三重県伊勢庁舎もここに無かった。
僕が思い出せないだけで、変わっている場所はもっと多いのだろう。
あたりを見回しながら、時の流れが身にしみた。
勢田川は汚い?僕らの暮らしは勢田川に支えられている
僕の個人的な感想としては、当時に比べれば綺麗になっている。
子どもの頃に嫌な臭いが常にしていた印象だったが、カヤック体験中は特に気にはならなかった。
明倫小学校あたりは、透明度もあってたくさんの小魚が気持ちよさそうに泳いでいたのも印象的だ。
ただ、下流の方ではやっぱり汚いなと思う箇所もある。
勢田川には所々に青色の水路があり、それぞれの役割は異なっている。
南平「この水路は宮川から水を引っ張ってきてるんですよ。」
宮川の綺麗な水が勢田川に流れていることを知った。
その反面、下水を勢田川に流すための青い水路もある。
南平「勢田川は海の満ち引きもあって、水が流れにくいことも下流域が汚い理由なんです。」
綺麗な勢田川と汚い勢田川。
僕らは綺麗な勢田川を望みながらも、汚い勢田川に生活を支えてもらっている。
勢田川があるからこそ、僕らの暮らしがあるのだと実感する。
インフラの老朽化による問題を最近よく耳にする。
僕は、僕らはこれからの暮らしを勢田川を通して考えていかなければいけない。
カヤック体験を終えて
おじさん「おーい、純くん。俺が誰かわかるか?」
川の駅から出発してすぐに、自転車に乗ったおじさんが南平さんに話しかけてきた。
南平「・・もしかして、●●さん?お久しぶりです。」
10数年ぶりの再会で、よくお世話になったそうだ。
山本「勢田川でのカヤックは、自然とコミュニケーションが生まれるんですよ。人の温かさを感じます。」
カヤック体験中は、
「こんにちは!」
「楽しそうやな。」
「落ちたらあかんで。」
と声が響き渡る。
人々の暮らしと密接な関係にある川。
勢田川が抱えている課題も多いが、カヤック体験を通して歴史や思い出に触れ、そして「人の温かさ」と魅力で溢れていることを僕は知った。また、もっと知りたいと思った。
あなたは日常の中にある川のことをどれだけ知っているだろうか?
汚いと思っている川も知ればきっと、いろんな気づきがあることだろう。
![勢田川カヤック WAC KAYAK16](https://otonamie.jp/wp-content/uploads/2019/06/cf7b2ede91e61bef7d340d1a7a9c8712-768x1024.jpg)
![](https://otonamie.jp/wp-content/uploads/2019/06/300ae0b101946ef50fea113d1b626ffb-1024x768.jpg)
タイムラプス動画 伊勢河崎WAC KAYAK 体験の様子
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濱地雄一朗。南伊勢生まれの伊勢育ち。三重県といっても東西南北、文化や自然・食と魅力で溢れていることに気づき、仕事もプライベートも探求する日々を過ごす。探求を続けると生まれた疑問、それが「何で◯◯が知られていないんだ」ということ。それなら、自分でも伝えていくことだと記者活動を開始。専門は物産と観光、アクティビティ体験系も好物。自身で三重県お土産観光ナビも運営中。