普段意識を向けることが少ない「見る」という行為。
状況で変化するにせよ、人の視覚が司る情報は全体の約8割にも及ぶということを聞くと、改めてその重要性を感じさせる。
「見る」を助ける、国をまたいで。
そんな活動をしている県内在住の女性に出会った。
四日市やまだ眼科 眼科スタッフ / NPOアジア失明予防の会 ボランティアスタッフ
米沢直子さん
四日市市在住の米沢直子さんは、同市内の眼科で勤務の傍ら、医療後進国で目に病のある人たちを治療する服部匡志医師のボランティアヘルプスタッフとして同行している。
現在は半年に一度、主に木曜から月曜というタイトな予定の中ベトナムへ向かい、診療チームの一員として患者の対応に追われている。
きっかけは米沢さんの以前の勤務先に服部医師が執刀に来院した時。
眼科医として著名な医師、場所を問わずに全国津々浦々、求められる場所へ飛び回る日々。その中に県内の眼科もあったことから、米沢さんとの出会いに繋がった。
敏腕眼科医とて、初めは知らぬ人。米沢さんはじめ、他のスタッフも怒られる事があった事から「執刀医が変わると補助の勝手も変わる中、慣れていないのに怒られることがあって。そんな状況に疑問を感じるスタッフもいましたね」と振り返る。
しかし、できている部分をきちんと認めてくれる服部医師の優しさも垣間見えてきた矢先、アジア、特にベトナム内における同会の活動を知る。
現在経済発展は著しいものの、未だ医療技術の遅れをとっている部分があったり、満足な施術が貧困層まで行き届いていなかったりする同国内の現状を改善するために無償で治療を受け付けるその団体。代表を務めるのが服部医師なのだ。
「こんな機会は無い、誰か同行して現場を見ないか?」と院内で募った結果、米沢さんに白羽の矢が立った、という流れである。
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その時から3年経った現在でも、定期的にボランティアのためにベトナムへと向かう米沢さん。心に留めている5つの事を書き出してもらった。
1.遠慮しない
「遠慮していたら置いていかれる、という意識で活動に参加していますね。周りを気にしていたら埋もれてしまう」
協調が良しとされる傾向のある日本との違い、最初は戸惑いつつも「自分の考えを伝えた時の方が上手く事が進む事を知りましたね」という米沢さん。経験が人を変える事を証明している。
2.いくつになっても自分を諦めない
ボランティア活動を始めてから結婚という人生の転機を迎えた米沢さん。
「直前までマリッジブルーに陥っていたんですよ。結婚したら自由が無くなる、って」
しかしそれを払拭できたのも同会の活動に参加した時だった。
行動を共にする他県から参加しているママさん看護師や、妊娠8ヶ月のベトナム人看護師。皆、周囲に助けてもらいながらその場に集っている。
「やりたい、と思ったら何でもできるって彼女たちの姿を見て思いました。諦めているのって実は自分で、やる方法はいくつでもあるんだと思って、動いています」
3.とりあえずやってみる
「何か少しでも心に引っかかるものがあれば何でもやってみるようにしています」と笑う米沢さん。
「迷う、というのはやりたい気持ちがある証。だからそのサインは見逃さないように、取るべき行動を取っています」と瞳を輝かせる。
新しい場所に飛び込む時、心構えができていないと一歩が出ない事がある。「迷う」状態に答えを持つ彼女はいつでも動ける体勢でいる。
4.なるようになる
「周りの人に恵まれているから、流れに身を任せているんです。逆らった事でストレスを感じるより、なるようになる、と考えて状況を上手く諦めるようにしています」
この思考の流れに沿った時、ストンと状況が丸く収まった経験から語る米沢さん。何気ない口調で発する言葉は、1ミリも違わず周囲を信じている事を感じさせるものだ。
5.当たり前と思わない
「誰かがしてくれる事を、当たり前と思わないようにしています」
例えば日常生活ではご主人の手助け、快くボランティア活動へと送り出してくれるから出来ること。またボランティア活動ではベトナムの習慣や文化的差異を受け、感銘を受けると同時に日本の良さも感じ取って帰国する事も多いという。
「実はベトナムから帰ってきた時はいつもより心の器が大きくなっているんですよね」と茶目っ気を含む微笑みを見せる米沢さん。
異なるものを受け入れられる彼女は、柔らかくも確固たる空気を放つ。
他にも「想いは口にすること」、「感謝を忘れない」など、様々な気持ちに気づき、それ心の引き出しに仕舞って生きる彼女。それが彼女の輝きに昇華されているのは間違いない。
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「今後については当面今のペースを保ちつつ、もっとベトナムの人たちに関われる活動を考えられたら」と語る米沢さん。
自分のペースを保ちつつ素直に、嘘をつかない姿が印象的な彼女。これからも前を向き続ける。
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帰宅してからメールを確認すると直子さんからのお礼メールが。
そこには
「伝え忘れていたことがあって。実は私、元々国際協力というか、海外ボランティアに興味がありました。でも対象資格を持っていなかったので諦めていたんです。
なので、今ボランティアに参加できて夢が叶ってとても嬉しく思っています!」
という言葉が綴られていた。
周りに感謝し、やりたい事に向かってアンテナを張る。そしてチャンスが来た時はきちんと動く。
それができる彼女のこと、きっとこれからも活動の幅を広げていけるに違いない。
hiromi。OTONAMIE公式記者。三重の結構な田舎生まれ、三重で一番都会辺りで勤務中。デンマークに滞在していた事があるため北欧情報を与えてやるとややテンションが上がり気味になる美術の先生/フリーのデザイナー。得意ジャンルは田舎・グルメ・国際交流・アート・クラフト・デザイン・教育。