「全てを捨てる覚悟がお前にあるのか!」
尺八奏者、竹内 洋司。(たけうち ひろし 通称「侍」と呼ばれる。)彼は、この書を自分の部屋に飾り、日々尺八の練習をしている。
彼と出会ったのは4年前、当時まだ未熟でしたと言う尺八を持ち、彼は宇治山田の路上に来ていた。人との繋がりは宝物だと言う人がいるが、彼にとっても例外ではない。なぜそう言えるのか、彼がその答えを教えてくれる。
その前に、紹介したい尺八奏者がいる。新田みかんだ。彼の活躍はよくメディアで耳にする。その演奏スタイルは、自由に様々なジャンルの音楽とコラボしていく事だ。
新田みかんを、竹内は出会う前から良く知っていた。竹内にとって、目指す演奏スタイルがそこにあったからだ。そして竹内は、自分の目指す先にいる彼の存在に、妬みを持っていた。
ACOUSTCAL
7年前、鳥羽の港に港湾センターと言う施設があった。耐震性や港の拡張工事に伴い、取り壊しと決まった時、最後のはなむけにたくさんのミュージシャンが集い、音楽で最後を飾った。その時、私は彼と出会っていた。
当時集まったメンバーが中心となり、心ある音楽フェスが引き継がれている。三年前その音楽イベントに、新田みかんと竹内洋司が共演した。それがきっかけで彼は変化していった。
プロの尺八奏者を目指す竹内が、その時言った言葉を忘れない。
「やつを倒してやる!」
誰でも同じ分野で仕事をする人にとって、同業者の成功は妬ましく思うかもしれない。誰もが持つ人の弱みである。
でも、その時から数年が経ち、今ではユニットのように、仲良く尺八を奏でる。竹内は、「新田みかんは自分にとって、掛け替えのない存在になった。」と話す。過去に、妬み深い言葉を吐き捨てた彼が、どうしてこうも変わることが出来たのか、興味が出る。
厄介な感情、嫉妬、妬みの違いについて調べてみた。すると「嫉妬」とは、自分が持っているものや、愛着を感じている誰かが、ほかの人に奪われた、または奪われることへの恐れ。「妬み」とは、自分にはなく、他の人が持っているものや人に対して、羨望や腹立たしさをいだく事とあった。
『音で絶対負かしてやる!』
鳥羽のステージで、一緒に演奏した時のことを竹内に聞く。「妬む気持ちが全てだった」と彼は言う。でも、新田みかんの吹く、「尺八の最初の音で、自分の浅さがわかった。」と語る。
音でコミニケーションをとることができる人種には、人が奏でる音で心が感じ取れてしまう。竹内は「すぐに感じ取った」と言う。彼の妬みと言う感情がその時、良質な色に変わった瞬間だ。
良質な妬みとはなんだろう。調べると。競争心で自分を育てるモチベーションになる気持ちの事。よく嫉妬や妬みと言うと、イメージの黒さを連想するが、彼の場合、白くなったのだ。
そして気になる、新田みかん。
私は、彼に時間を作ってもらい。当時の心境を聞いてみる事にした。「最初に出会った時に、竹内が何を考えているか、手に取るようにわかったんだ。」 と言う。その理由を聞くと、「自分もそうだったから!。同じ経験をしたんですよ。」と話す。自分より才能があり、能力ある人に、竹内と同じことをしたのだ。
彼はSEGAで、ゲーム音楽を制作していた。そんな彼が尺八を手にしたのは、当時、同僚が持っていたのが始まりだったと言う。また、尺八の歴史についても教えてくれる。琴古流、都山流、初めてきく言葉だ。
「尺八奏者には、エンジニアタイプの人間が多いという。気分で吹くのでは無く、数値的に吹く」と言うのだ。
彼は尺八の他に、二胡、バイオリン、しのぶえ、三味線、トロンボーンにトランペット、ちんどん太鼓と言った楽器を、見事に演奏するが、私には感覚的な人間にも見える。「楽器全ての演奏方や練習、これが尺八奏法のスキルをまた上げてくれる」と彼は説明する。
つまり物事をはじめるには、それなりのセオリーが必要とされるのは当然だ。でもその先入観が足かせになることも少なくない。彼は長じるため固定的な概念を斬りとり、他の楽器を学ぶことで視野を広くし自分を開拓した。とても不思議な人だが、全て計算されているようだ。
新田みかんは、他人を真似をするだけでは得られない、可能性の扉の開き方を示唆しているようだ。これを自分の仕事や生き方に置き換えたとするなら、学ぶものは多い。
嫉妬
「自分の後を追いかけ、その場所を奪ってやる!」と言う存在が目の前に現れたら、自分の持つ技術やノウハウを簡単に教えることができるだろうか。
「自分の若い頃と全く同じ考だった」と言う新田みかんは、過去の経験から、彼に嫉妬することはなかったと話す。むしろ竹内の心が手に取るようにわかったから、「受け止めてやろう」それが当時の音に出たと説明してくれた。
そんな愛ある二人の尺八の動画を撮ってみました。
「海のように」
竹内にとって「彼は海のように大きかった」と言う。今日尺八奏者として前進できているのも、「和楽器クインテッド」と呼ばれるメンバーに推薦してくれたのも彼である。「同業のライバルであるはずの自分に、仕事まで世話するのかと思った」と話す。
黒いねたみは破壊的な結果になるかもしれない。だがその妬みも、彼ら2人の繋がりの経過をみると教訓が見える
竹内は、自分の黒さに対して謙遜になり白くなった。もし自分に「全てを捨てる覚悟がお前にあるのか!と問われたら。誰でも一番捨てるのが難しい誇り、「まちがった誇り」を一刀両断できるだろうか。
あなたは何に向き合っていますか?
「あれ」が愛だろうが、それとも妬みだろうが、おせっかいな迷惑と感じる人もいるが、人に関心があるから伝えようとする。言葉には言葉、音楽には音楽のコミニケーションがある。
よろこぶ時に一緒によろこび、泣く時には一緒に泣く。もし研ぎ合う仲間が周りにいるなら、あなたは、逃げずにそこに集まりますか。
嫉妬や妬みとの戦いに終わりはない。更に自分の内面を変化させる事は難しい。でもこの一番捨てにくいものに向き合う二人の姿勢は、まさに侍であった。
新田みかんは、黒いヒカリだからと言って潰す事なく、透き通るように受け止めた。竹内洋司は、この出会いから生涯の宝物を得たのだ。
おまけの動画
はたして尺八で会話が成り立つのか。
詳しくは動画で!
Special Thanks
9月2日この2人が出会った音楽イベント、「ACOUSTCAL」で共演する。海に囲まれた会場で尺八の音が言霊のように届くでしょう。
日時 2017.9.2 SAT 10:00 場所 鳥羽マリンターミナル
MONDCAFE
http://www.mondcafe.net/mc/topics.html
鳥羽観光協会
取材のご協力ありがとうございました。
yoshitugu imura。Otona記者。サーファーからフォトグラファーに、海に持っていったギターでミュージシャン活動もする(波音&Ustreet )ドブロギター奏者。 伊勢市在住。この記者が登場する映像