11月の後半。
その日の日差しは柔らかく、包み込むような温かさが心地良い。
偶然通りがかったこの漁村の風景にもう少し浸っていたくなり、クルマを降りて歩いた。
ところどころに残る店。お好み焼き店、商店、美容院。
昭和の名残を残した街並み。
一緒にいたカメラマンが声を掛けられていた。
昨日尾鷲の港で出会った、干物屋の主人らしい。
店に入れていただいた。
主人と会話をして間もなく、おばちゃんが干物を買いに店に入ってきた。
「このトロメカジキな、娘がめっちゃ美味しいって言うから、また買いにきたんさ。」
トロサバミリン、キハダマグロミリン。
干物に詳しい訳ではないが、日常の暮らしであまり目にしたことがない品物だ。
「なんでもミリン干しにしたるんさ。」
以前は鰹節屋を営んでいた主人は、ニコっと笑った。
きっと、魚の味をよくご存知なのだろう。よくよく聞くと漁業関連の組合長という。
その後、ご主人に近所の通称雑節屋を案内していただいた。
鰹節ではないサバ節などを生産している。
海外製のサバ節などの輸入が主流となり、このような雑節屋は、三重県で唯一となってしまったとお聞きした。
「昔はうどん屋も、寿司屋も、遊郭も二軒あった。栄えとったんや。」
15年くらい前から急速に過疎化が進んでいるという。
過疎化。
よそ者の私が書くのも恐縮だが、その原因は簡単には説明できないくらい、いろいろな要因が複雑に絡み合っているのだろう。
視点を変えれば、余計なモノがないシンプル漁村はとてもスタイリッシュに、また斬新に映る。
複雑過ぎる環境で生きる現代人は、ココロのどこかでシンプルさやプリミティブといった価値を求めているのではないだろうか。
過疎化の原因となる複雑に絡み合った糸の束は、もう解くことは不可能なのかもしれない。
でも、違う地から続く新しい糸をそこまで伸ばし、絡み合った糸から必要な糸を抽出して新しい糸と繋げれば、何か新しいコトが始まる気がしてならない。
それはとても細い糸かもしれないが、束となれば強度は増す。さらに細い糸でも紡げばもっと強くなる。
繋ぐ技術、紡ぐ技術を習得するのに、特別な資格はいらない。そこには想いがあればいい。イメージがあればいい。
voice.
そこにあるリアルな声を届けたい。
村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事