たった8人の町工場が大企業ホンダに挑んだ。それは第1回鈴鹿8時間耐久レースでの出来事であった。
その感動のストーリーは、プロジェクトXでも取り上げられた。池井戸潤の下町ロケットを彷彿させる話だ。その主役であったヨシムラレーシングの一番弟子、森脇さんがイベントのステージに立った。
2015年 11 月 23 日
鈴鹿サーキットでバイクイベント『CB Owner’s Meeting』が開催され、会場にはHONDA CBバイク900台が全国から集結した。私はオフィシャルカメラマンとしてシャッターを切っていた。
すると、「1981年の8耐でモリワキ社長が連れてきたワイン・ガードナーには度肝を抜かれましたよ。」と司会者の声が聞こえてきた。バイクを知らない私も聞いたことのある名前、その人こそが森脇さんだった。
「モリワキエンジニアリング」はヨシムラジャパンから独立し、1973年三重県鈴鹿市に設立された。レース活動を積極的に行い、1970年代から1990年代にかけて、市販車改造カテゴリーであるTT-F1クラスにおいてワークスマシンと互角の性能を持つマシンを次々と開発した。
音にこだわった開発
バイクを楽しむ方には、「オトキチ」と言われる種があるらしい。どうやら「釣りキチ」といった表現のバイク版だそうだが、なるほど納得できる話だ。この日CBオーナーの皆さんがトークイベントで森脇さんを見る目は、まさに釣りキチのように一点を見つめる目になっていたからだ。
市販のバイクを自作部品とチューニングでレースに勝利してきたモリワキエンジニアリングは、神業と言われてきたヨシムラレーシングの魂をそのまま受け継いでいる。モリワキが、あえて速く走るためのチューニングではなく、音を楽しむためのチューニングをするのだと言う。
レースは速さと結果を求められる世界。でもそれだけはないことを強く語っていた。
「エンジン音がミュージックに変わるんです!特にホンダCBは音がいい!」
ノーマルのマフラーでも十分いい音ではあるが、モリワキのマフラーは特にオトキチのこだわりがあるのだと言う。工場の若手スタッフを「自分の作った物を自分で購入したいと思うか考えてみろ!」と鼓舞しながら、満足のいく音が出るまで頑張って作ったと言う。
自分の作り出す物に妥協しない姿勢は、バイク乗りでなくても非常に惹きつけられる。森脇さんは「CBエンジンにこのマフラーを付けた時の走行は特別だ。」と話す。いい音楽を聴いていると情景が思い浮かんだり、感情が豊かになっていくが、それと同じ事がこのバイクの世界でも言えるのだ。
その音がyoutubeで公開されている。
Honda CB1100(EX) RC four ショート管・4本出し EXHAUST SYSTEM
エンジンの調子は音で聴きわける
バイク乗りとギター弾きの共通点はたくさんある。例えば、ギターを弾かずに放置し続けると、音はずれていくし、音の出も悪くなる。同じようにバイクも、シリンダーやピストンなどのタイミングが綺麗に合わないと、リズムが崩れ、無愛想な音になると言う。また、演奏するジャンルによって楽器も変わるし、激しく弾くのかゆるく弾くのかでチョイスする弦やピックも変わる。それと同じように、バイクも理想の走りや音を出すためにパーツを変えたりメンテナンスをしたりする。
森脇さんの「音を聴くことで調子がわかる」という言葉には、深い意味が込められている。本物の音を知っていなければ解らない事がある、それは人にも物にも当てはまることだ。
「いい年のオトナが乗るなら、いい単車にいいチューンをして、いいサウンドを出して走りたいんだよ。」
森脇さんのこの言葉に、共感し、頷く私がいる。いい楽器といい音で過ごせる時間は確かに理屈抜きで特別の事だとわかっているからだ。
これほど人を酔わせるホンダCBの音。それを何百台分も聴けた私は幸せ者だが、この話を書く自分も釣りキチ、いやオトキチになってみたいという気持ちになってくる。それは、見えない場所に伝説の町工場から受け継がれてきた職人魂の極みが、繋がっているからだ。
都市伝説
さて、森脇さんについてより詳しく知りたいと思い、バイク乗りの友人Nに尋ねた。
友人曰く、「森脇さんは元大工で、地元の防波堤にもよく釣りに来るらしいよ。」とのこと。森脇さん自身も、もしかしたらオトキチならぬ釣りキチかもしれない。ちなみにその防波堤は鳥羽のある地区であるが、この話が本当なら、鳥羽出身の私としてはなんとも親近感の持てる情報だろう。チャンスがあれば確かめてみたい案件だ。また、この友人も大工でCB750に乗っていたということで、森脇さんとの共通点が多いことから、彼との会話が弾んだことは言うまでもない。
CB Owner’s Meetingは素晴らしい!
こうしたイベントはホンダ車オーナーに対する企業からの温かい愛情だ。
ただ売って終わりじゃない、そうした心遣いがたまらなく好きになれる要素である。それは参加した一人一人の写真を撮るという姿勢からも大きく伝わってくるし、みんなバイクが好きだという会場スタッフの熱い想いが全てを作っていた会場だった。
イベントのクライマックスでは、鈴鹿国際レーシングコースに参加したCBオーナーが走る壮大な光景を目の当たりにしていた。バイクのことはあまり詳しくない私ではあったが、素直に大人を夢中にさせる世界を見せて頂き感動した。
この夜、三重にあるモータースポーツの聖地を、雨に混ざったヘッドライト、第1コーナーに消えていくテールライト。そして空冷四気筒エンジンのカルテットミュージックが、鈴鹿サーキットをコンサートホールに変えていった。
オフィシャルHP
バイク雑誌各社の取材も入り、そうした様子もBS11で2016年1月の放送予定でだという事なので注目だ。
CB Owner’s Meeting
http://www.honda.co.jp/cbmeeting/
株式会社モリワキエンジニアリング
BS11 大人のバイク時間 MOTORISE
http://www.bs11.jp/entertainment/917/
イベント関係者皆様、同行した撮影スタッフ皆様ありがとうございました。
yoshitugu imura。Otona記者。サーファーからフォトグラファーに、海に持っていったギターでミュージシャン活動もする(波音&Ustreet )ドブロギター奏者。 伊勢市在住。この記者が登場する映像