公式記者として初めて投稿する記事が、老舗バー「エルザ」の片隅で塩豆を齧りながら映画のプロットについて語り合うようなマイノリティーにしか注目されない内容で良いのかはさておき(四日市のサブカル王コーイチさんの弟子として勇気を持って)、表題の件について少し書きたいと思います。
この映画に関するデータはこのご時世ネット上にいくらでも転がっているので割愛しますが、なぜ「WOOD JOB!」が多くの地方ロケ系作品が失敗を繰り返す中、(バジェットの差こそあれ)ここまでの傑作になったのかに関してあまり分析されていません。ポイントは大きく3つあります。
まずは「キャスティング」。伊藤英明の存在感は特筆すべき点ですが、脇を固めるマキタスポーツの「これまでもこれからもここに住んでる感」は見事です。走るトラックの中から名前を呼ばれ、画面の奥にいた伊藤英明が一目散に駆け込んでくるワンカットの映像はその行為の習慣性を感じさせ、同時に大自然と対峙する男の強靭なフィジカルを表現しています。伊藤英明史上最高の伊藤英明Movieです(そんなに好きではない人もこの映画ではきっと好きになります)。
園子温監督が「ヒミズ」(作品としては微妙です。園子温は「愛のむきだし」と「冷たい熱帯魚」を見ましょう)で一気に知名度を上げた主役・染谷将太も勿論最高です。奥様・菊地凛子の音楽活動Rinbjöも菊地成孔プロデュースで勿論最高です。関係ありませんが。
2つ目は手ぬぐい、子供達が別れるときの挨拶、ポスト、おにぎり、木の匂いなど「伏線のスムーズな回収」です。映画を数多く見ていると何となく「これはフックとなる伏線じゃねーか?」ってことが結構分かるようになります。そこから結末が予想できてしまうものも少なくありません。しかし、本作はコミカル要素や田舎描写の裏側に種を蒔いている為に収穫の喜びが大きい、ということです(ネタバレを防ぐ為に明言は避けます)。
そして、最も大きなポイントであるのは3つ目の「裏テーマがしっかりしている」点です。原作をプロットに変換する際に裏テーマを読み損なって薄っぺらい作品に終わる例は腐るほどあります。しかし、今回は三浦しをんの意図を完全に理解した上で、中上健次的な大自然信仰(奇しくも舞台は同じ紀州山脈)が物語という大木の根っこを支えています。もうこれは市川崑監督の「炎上」級の成功です。
昔から妻の事を「山の神」と例える様に、山神は女性神である。物語のクライマックスは誰が見ても、山と男達の営みがメタファーとなってます。大自然に抱かれて落ち着くのは男だけで、山ガールブームが下火となった現在女性は山道で蜘蛛や百足に恐れおののく、ということです(大袈裟に言えば)。
以上が簡単な私の意見ですが、何よりマキタスポーツが亡き父にそっくりである点と、素晴らしいテーマ曲であるマイア・ヒラサワ「HAPPIEST FOOL」に大好きなジャズトランペット類家心平が参加している事が判明した時点でTANI邦画オールタイムベスト10入りが確定した素直に大好きな作品なのです。
そして、その舞台が地元・三重なのだという事によってさらに心が躍るわけです。
OTONAMIE公式記者。藤原町→菰野町→四日市市へと移り住むブライダルプランナー&元・バックパッカー。三重のジャズ事情に精通しており、また芸術リテラシーの高い夜の住人達との交流も深い。得意ジャンル:昭和歌謡以外の音楽全般(ジャズからモダンポリリズムまで)/映画(エイゼンシュテインからZ級まで)。