”NO SURF” 風が変わった。波はあるが波が無い。仕事はあるが仕事がない。命を賭けた勝負に戦場がない戦士があふれた。見たことのない海をサーファーは眺めている。サーファーとは波に乗る人、例えるなら今の時代を生きる人、全てである。
2020年はCウイルス感染症で世界が一変した。海外でサーフィンをしていて逮捕されるニュースがテレビで流れていた。日本もエリアに関係なく、サーファーの秩序やモラルが人としての原点で語られる時代となった。
プロボディボーダー なみか
波は潮の干満で崩れる位置が変わるものだが、社会情勢は激変した。そして取材で追っていた海果(なみか)から、この冬ハワイから帰って来て連絡が入った。新しいスポンサーが決まったとの事で、プロモーション用の撮影を行う事になった。
彼女は2019年度JPBAツアー1戦目で優勝し、その後プロボディボーダーとなり3戦目は4位、最終戦の5戦目でまた優勝する。大阪生まれで、小学6年の後半に国府の浜へ家族で移り住んだ地元の星だ。また波の無い日は海女さんに変身し、大会の遠征費を稼いでいる。
波打ち際は危険な波
撮影をしながら彼女との会話は、ハワイ州サンディビーチの話題になる。そのポイント名は砂(sand)が多い事から来ていて、ボディボーダーにとっての楽園だ。サンディビーチの左の沖合には岩があり、その付近からサーファーたちは波に乗るが、ボディボーダー達は波打ち際の波に乗る。
ボディボーダー達が乗る波は「ショアブレイク」と呼ばれ、波打ち際で崩れる波でサイズが大きくなれば命に関わる。サーフボードでそのような大きな波に乗るのは、水深が浅いためフィンが折れてしまうので危険だが、ボディボードの熟練者達は挑む。
彼女はそのような波に乗る状況を「波の底が無い」と表現する。バランスを崩して板と体が地面に打ち付けられ、命を落としたという話も珍しくは無い。
サーファーと感染症
海果(なみか)が、プロボディボーダーとして新しいシーズンを支えてくれるスポンサーの話をしてくれた。板やウエットスーツ、ウエアや小物など、メーカーロゴをボードに付け今シーズンに備えているという。だが今年は大会も開催されないシーズンとなった。彼女の落胆は想像できるがサーフィン界全体、それよりも遥かに大きな規模で社会が緊急事態となった。こうした時にも、各企業がアスリートを支える姿勢に、尊敬と敬意を表したい。
世界中が共通する難問に、彼女と話をする中で共通する理解があった。それは「今の社会問題は岸に打ち上げるショアブレイクと似ている」と言う事だ。それは今まで乗っていた場所に波が来なくなった。つまり、今まで出来ていた普通の生活ができなくなったと言う事。サーファーは海にいけなくなり、波に乗れなくなった。
比喩表現と理解
彼女は小学2年でサーフィンを初め、サーフボードに乗れる様になりサーフィンの楽しみを知った。その後母の影響を受け、小学4年になってボディボーダーに転向した。サーフボードでは無くボディボードを選んふだ理由の一番は「乗りやすさとボードの安全性」だと言う。
ボディボードはサーフィンと違い、基本は板の上に立つ動作がないため、テイクオフ時の失敗リスクを回避できる。また波と一緒に揉まれてしまっても、柔らかな素材のボードなら怪我のリスクが低くなる。
「乗りやすさとボードの安全性」という話を比喩的な表現でお伝えしたい。
例えば、今までの社会での生活が波に乗るサーファーの視線と捉え、人生という波を見渡す事で波から落ちる事なく乗れていたとするなら・・。世界の状況が変わっていくこれからの社会の波を、リスクを低め乗る方法があるとするなら、まさにサーフィンではなくボディボードだ。ボディボードのように、腹ばいになって波に乗る事が今まさに求められている。
視点変化でショアブレイクに乗る。
社会の波をボディボーダーの様に乗る。具体的に考えるならば、浮力は少ないが表面が柔らかくできたボディボードを使いリスク回避をする。安全性と確実性を高めるのだ。それには痛みを伴うかもしれないが視点変化を取り入れ、自分から見える位置を変える必要がある。
その視線はサーフィンと違い海面と接する。ボディボードは波しぶきの粒がよく見え、海の中の状態もよく見える。「時々魚が泳いでいるのが見える」と言う。それは視線がサーフィンより低くなる事で圧倒的に波の情報は少なくなるが、今まで気がつかなかった事に目が届くのだ。
サーフィンのように今まで膝を使い海の上に立って波にのる方法に慣れていたなら、少し物足りなさを感じるかもしれない。だが、どんな波でも乗りこなす基本的な生き方が、この視点変化の少し先で新しい価値観を見つけることができる。
彼女は特に大きな波に乗っている時は「乗る」と言うより「落ちる」と言う感覚で、波の斜面を滑るといい。また大きな波の衝撃は爆弾が爆発したかの様だと例え「ひたすらボードにしがみ付き耐えるんです」と彼女は話す。
直感で波を感じる。
今まで「見えていた事」に行動する時代では無くなり「見えない事」への価値観が大切になったきた。そもそもサーファーが波を捉える時、物理的に「目と耳」で波を見つけて行動をする。
だが中には、波が見えないうちから行動を始め、突然何も無い海面から湧き上がる波にテイクオフをする者もいる。いったいどの様に波を見つけ、行動を開始したのだろう。これにはサーファーやボディボーダーという波と一体となる人ならではの直感、つまり地球のリズムを意識した感性が関係している。
Cウイルスの嵐が吹き荒れる地上は、私の肉眼では世界はクローズアウトしたビーチの様に荒れ狂っている様子に見える。自然の力がこの社会という海を支配し、人を寄せ付けない事実を目の当たりにしている。だが、しばらくの辛抱だ。やがて風が変わり、陸から海に向かう快適なオフショアとなった海で、サーフィンを存分に楽しめる日が必ずやってくる。
今、社会の波は浅瀬の砂浜で崩れ出し、プロボディボード界も影響を受けこのシーズンの大会はキャンセルになった。でも今は、嵐の中のような社会で「ショアブレイク」の大きな波を、どうにか乗りこなすだけだ。そこには「直感」も含めて。
浅瀬での身の守り方
海果(なみか)との会話は少し哲学的な話に進んでいった。特に若者にとってこれからの生涯、また仕事や夢を目標にしていた事が、崩れてしまいそうな状態をただ眺めるだけの者にならないで欲しいと想う。まず、今までいた場所より岸に近づく事。波打ち際を振り返り、浅くても乗れる波を探し移動する事。
ボディボーダー達は「ショアブレイク」から身体を守る方法を知っている。それは、絶対顔から地面に落ちない事だ。必ず空を向き、落ちるならば背中から地面に落ちる。そうすれば致命傷を避ける事ができる。命を守る事。これが次の時代の波を掴む人に必須な条件である。危険な波から命を守り、この嵐の海、この時代の「歴史的なショアブレイク」を生き伸びて欲しいと願う。
見えない事への予感能力を高め、人のあるべき姿と意思疎通をする。常に学ぶ事で心の渇きを防ぎ、自分を変える事で変わらない事を維持する。ただ今を生き抜くという事。それは、次にやってくるいい波に「テイクオフ」できる秘訣でもある。
ISE LOCAL LOCATION
【重要なお知らせ】
日本サーフィン連盟三重支部
全都道府県緊急事態宣言が発令されたのを受け、志摩市とNSA三重支部は協議し、4月17日からサーフィンの自粛にご協力頂くようお願いしております。 日本政府による緊急事態宣言が発令されました。そして志摩市でも感染者が出、市民の緊張感が増しております。こうした時期に地域外から訪れるサーファーの行動に、地域への配慮が足りないと市民の怒りが増してきています。
緊急事態宣言による要請は人の命に関わる事です。一人一人が真剣に受け止め、特に必要な場合を除き外出を控える。今、どうしてもサーフィンしないといけない方はいないと思います。感染拡大防止、医療崩壊の阻止のため、とにかく今サーフィンを我慢する事で救える命があると思い、行動して頂きたい。
また志摩市の地元サーファーからは自粛よりも強い【サーフィン禁止】の協力依頼が来ました。高齢者が多い志摩エリア。地元を守るという熱い思いで、強く発信して頂いてます。
詳しくはリンクをご覧ください。
禁止というのは地元サーファーとしても本当に辛い決断です。
地元サーファーも海を我慢しています。サーフィン禁止の中、子供達はサーフィンが再開できた時、綺麗なビーチで迎えれるよう自らビーチクリーンをしていました。この行動に大人達は感動し涙を見せています。 何卒、軽率な行動は控えてください。長い間この地域と信頼を築き上げた地元サーファーとの関係を崩してしまいす。 NSA三重支部としても、この呼びかけに賛同し協力していきたいと思います。 引き続き今は我慢です。ご理解、ご協力宜しくお願いします。代表 下田 泰成
おまけの動画 サーフロックダウン編
OTONAMIE記者によるZoomを使ってのおしゃべり動画。おひまな方がいましたらお付き合いください。
【ステイホーム】
↓オンラインでのPhotoSchool(参加無料)を開催します。
詳しくは ISE LOCAL LOCATION FBページへ。
興味ある方大歓迎!なみかプロも参加予定です。
yoshitugu imura。Otona記者。サーファーからフォトグラファーに、海に持っていったギターでミュージシャン活動もする(波音&Ustreet )ドブロギター奏者。 伊勢市在住。この記者が登場する映像