唐突ですが質問です。あなたの祖先は平氏?源氏?
こちらのサイトで名字からある程度の推測はできるらしいのですが、正確なことは分かりません。
今回取材をした南伊勢町の集落の祖先は平氏。正確に書くと全国に残る平家落人伝説のひとつですが、今も御証文(古文書)が残っていて信憑性が高いと言えます。そんな集落で今起きている新たな挑戦をお伝えします。
平家の子孫というプライドで団結
南伊勢町には、竈(かま)という文字が付く集落が7つある(以前は8つ、津波で一集落は消滅)。
その昔、平氏が敗戦の後、あちらこちらに移り住み、竈方集落に落ち着いたと言われている。
竈方集落は風光明媚なリアス海岸沿いある。しかし平家の落人であったため漁業権がなく、塩を生産して生業を立てていたことから塩を生産する際につかう「かまど」を意味する竈の漢字が使われている。
現存する7ヶ竈の集落は新桑竈(さらくわ)、棚橋竈(たなはし)、栃木竈(とちのき)、小方竈(おおかた)、大方竈(おがた)、道行竈(みちゆく)、相賀竈(おおか)。どの集落も少子高齢化が進み、伝統や農業の継承をすることが難しい状況にあるが近年、耕作放棄地を活用して酒米を作り、新たな日本酒造りによる地方創生プロジェクトで道行竈など、注目を集める事例も出ている。
今回訪れたの棚橋竈は、人口25名で子どもの数はゼロ。高齢化が進む限界集落だ。集落では2年前から、継承が途絶えてしまった塩づくりを復活させるプロジェクトが始まっている。
塩作りを行うのは竈方塩づくり振興協議会代表の村田順一さん。村田さんは「塩づくりは、平家の子孫としてのプライドです」という。
同じ祖先を持つ7ヶ竈の集落は今でも交流があり、竈方集落の総本社、八ヶ竈八幡神社では2年に一度、平家の祖先から伝わる御証文(古文書)を確認する儀式も行われている。また人口が多かったころは、その際に祭も行われていたがいつしか途絶えた。その祭を復活させるための地方創生プロジェクトを行ったことで様々な人との団結力が高まり、塩づくり協議会が結成された。
海のやさしいミネラル分を感じる塩
もともと南伊勢町には、真珠塩というブランド塩がある。真珠塩の職人に教えてもらいながら、竈方の塩づくりは始まった。
作り方は原始的で、薪を使い海水をひたすら煮詰めて塩を作っている。
海水は同町阿曽浦の海水を使用。
できあがった塩は天日で乾燥させて、最後に焼いて仕上げている。
海水からできる塩の割合は約3%。一回に50ℓの海水をつぎ足しながら約5〜6時間煮詰め、その後焼成させてできる塩は1竈あたりわずか1.5kg。
そして小学校跡地に建てられた製塩小屋のなかは熱く、煙が目に染みる。
村田さん:はじめチョロチョロ、なかパッパ。米を炊くときと似ています。一気に炊くと色も悪くなるんですよ。
そうして時間をかけて作った塩は、海水の持つ甘味を逃さず、雑味が残らない。煮付けに使うと塩味や甘味が引き立ち、醤油の変わりに刺身に使えば、また違った味わいを楽しめるなど、塩の味に奥深さがある。
村田さん:どうやって塩ができるのか、料理人の方にも見学いただけます。子どもたちには塩づくり体験も行っています。
子どもの声がなくなった集落で、違う形で声がもどってきている。
そして大人になっても、塩づくりと、美しい自然に抱かれた風景の記憶は残り続ける。
まろやかな塩と人柄
今回、商品化を行う際、シニアソルトコーディネーターの青山さんも協力している。成分を分析をした上で、食味していただいた評価は「カリウムやマグネシウムをリッチに含む、ミネラルバランスの良い焼塩。味はコクがありまろやかな仕上がり」だという。
商品化が始まり、これからの展望を村田さんに聞いた。
村田さん:人口減少が進んでいる地域ですが、地域の人や見学にきてくれる人、そして子どもたちなど、みんなで地域のブランドをつくっていきたいです。
そして笑顔で話しを続けてくれた。
村田さん:もう私は70歳やでな(笑)。将来的に塩づくりをいっしょにしたいという若者が移住してくれたら最高です。
おまけのお話
帰り道、平家の先祖から続く御証文(古文書)が引き継がれている八ヶ竈八幡神社に寄ってみました。道は狭く、クルマが一台通るのがやっと。道を抜けると湾。
それは秘境に広がる美しい海。
手入れの行き届いた神社の境内には・・、
大きな楠が建物を覆うかのように生えています。いつから生えている木かはわかりませんが、なんとなく魂みたいなものを感じました。眺めていると、なんだか不思議で神聖な気持ちになるのでした。
Photo:y_imura
竈方の塩
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南伊勢町 まちづくり推進課 政策係
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村山祐介。OTONAMIE代表。
ソンサンと呼ばれていますが、実は外国人ではありません。仕事はグラフィックデザインやライター。趣味は散歩と自転車。昔South★Hillという全く売れないバンドをしていた。この記者が登場する記事